138 斧の聖女は意外と乙女
ずがんっ! と大空洞の上部に穴が開いたのは、それからすぐのことだった。
「――トライクロスガロウズ!」
――がきんっ!
大量の海水が大空洞内部へと流れ込む中、あらかじめ予定していたとおり、シヴァさんの呼び出した三つの盾がこれを塞き止めて封じる。
「じゃああとは手はず通りに!」
「了解です! ――行くぞ、オフィール!」
「おう!」
そしてその場をシヴァさんに任せた俺たちは、邪魔だと言わんばかりに建物群を薙ぎ倒していたボレイオスの前へと、臨戦態勢で赴いた。
「よお。随分と雰囲気が変わったじゃねえか、おっさん。せっかくの渋い面構えが台無しだぜ?」
「グルルルル……ッ」
オフィールの言葉が理解出来ているのか、ボレイオスが喉を鳴らす。
こっちが二人がかりである以上、てっきりもう少し様子を見ているかと思いきや、
「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「「!」」
やつはそのままけたたましい雄叫びを上げ、猛然と突っ込んできた。
どうやら向こうは最初からやる気満々だったらしい。
「よし、ならこっちも初っ端から全開で行くぞ! ――って、いねえ!?」
最中、俺は一人がーんっとショックを受ける。
見れば、先ほどまで隣にいたはずのオフィールが、「おらおらおらおらおらおらっ!」と聖斧を片手にボレイオスへと特攻しているではないか。
「いや、ちょ、えぇ……」
そんな彼女の様子に、思わず呆ける俺。
だがまあ確かにポルコさんの時に少しばかり身体を動かしはしたものの、今までずっと待機組だったからな。
こうして本気で暴れられる機会を心待ちにしていたのだろう。
その気持ちは大いに分かるのだが……そうならそうと先に言ってね……。
〝全開で行くぞ!〟とかめちゃくちゃ男らしい顔で声を張り上げちゃったし……。
はあ……、と俺が小さく嘆息していると、
「おらあっ!」
「グオガッ!」
ずがんっ! と互いの得物同士がぶつかり合い、衝撃で地面がクレーター状に陥没する。
だがやはり単純な力比べではボレイオスの方に分があるようで、
――がきんっ!
「ぐわっ!?」
弾かれたオフィールが放物線を描きながらこちらへと飛ばされてきた。
「おっと!」
なので俺はスザクフォームで宙を舞い、お姫さま抱っこの要領で彼女を受け止める。
「大丈夫か?」
「あ、ああ、わりぃな。久しぶりにあたしの領分だったもんで、つい調子に乗っちまった」
恥ずかしさからか、そう顔を赤らめるオフィールに、俺は「いや」と首を横に振って言った。
「気にしなくていいさ。それより君が無事で何よりだ」
「お、おう……」
「?」
何やら辿々しい様子のオフィールに、俺がどうしたのかと小首を傾げていると、周囲の建物群よりも一際高い建物の上部で佇んでいたシヴァさんがこう言ってきた。
「あら、生娘でもないのにお姫さま抱っこくらいで照れてるの? あなた、意外と乙女なのね」
「えっ?」
「う、うるせえな!? 別に照れてねえし!? つーか、〝乙女〟とか言うんじゃねえよ!?」
真っ赤な顔でそう反論しつつ、オフィールが俺の手から離れていく。
そして彼女は赤い顔のまま、がしがしと頭を掻いて言った。
「あー、もうあれだ。あのババアになんか言われんのもめんどくせえし、さっさと《スペリオルアームズ》だかを使っちまおうぜ」
「お、おう、分かった」
「ちょっと待って。誰がクソババアですって?」
「いや、クソとは言ってねえだろ!?」
だが当然、シヴァさんは〝ババア〟の部分に敏感に反応していたのだった。
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