126 〝槍〟の決着
そこからはもう俺たちの独擅場だった。
先の一撃で双方が怯んだ隙に、俺たちはまず白銀の飛竜に肉薄――と同時に〝呼べばどこにでも現れる〟という聖具の特性を活かしてランスを回収からの《グランドダイヤモンドブレイク》三連発でこれを沈める。
となれば、あとは手負いのアガルタだけだ。
再び稲妻の如く空を翔た俺たちは、先ほど避けられた《グランドエクレールバリスタ》を含め、最上位の武技を惜しみなく叩き込んでやったというわけだ。
「ガ、グ……ッ!?」
そうしてもはや動くことさえ出来なくなったアガルタは、幻想形態から元の竜人へと戻り、信じられないといった表情で地面に這い蹲っていた。
なので俺たちは早々に浄化を執り行う。
「――グ、ガアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああっっ!?」
ばしゅう~、とアガルタの身体から黒いオーラが完全に取り除かれ、彼本来の肉体が姿を現す。
だがやはり弾き飛ばした左腕に関しては欠損したままであった。
まあ仕方あるまい。
たぶん治すと言っても拒否するだろうからな。
竜人は誇り高き戦士らしいし、勲章的な感じで受け入れるのではなかろうか。
「ふむ、これが〝槍〟の聖神器か。なかなかいい感じではないか」
ともあれ、《スペリオルアームズ》を解き、自由になったアルカが聖神器をぶんぶんと振り回す。
やっぱり新しい装備ってのはテンションが上がるからな。
楽しそうで何よりである。
と。
「……俺は、助かったのか……?」
どうやらアガルタが正気に戻ったらしい。
未だ這い蹲っている彼の前に片膝を突き、アルカは頷いて言った。
「そうだ。運がよかったな、〝槍〟の聖者」
「貴様は……。そうか……。随分と世話をかけたようだな……」
「別に構わん。お前を助けたのはこいつを手に入れるついでだからな。むしろそれはそこらでのびているお前の同胞にでも言ってやれ」
「ああ、そうだな……」
アガルタ自身、里の者たちを傷つけるつもりはなかったのだろう。
操られていたとはいえ、自分の過ちをかなり悔いているようだった。
まあ諸々の事情はこのあと竜人たちにきちんと説明するとして、その後の処遇に関してはエルフの時同様、彼らに任せようと思う。
「さてと、とりあえず範囲治癒で全員の治療を……って、うん?」
最中、俺はふとこちらに向けてよろよろと近づいてくる人物がいることに気づく。
「はあ、はあ……っ」
それは全身ずたぼろの上、左肩から出血しているキツめな顔立ちと銀髪が特徴の女性だった。
ずるずると引きずられる尾などを見る限り、先ほど戦った竜人の一人であるようだが、どこか雰囲気的にアルカに近い感じがしなくもない。
「あ、あの……?」
彼女は俺たちのことなど気にも留めず、真っ直ぐアガルタのもとへと向かったかと思うと、
「――この馬鹿亭主っ!」
――ばちんっ!
「げふうっ!?」
「「「――っ!?」」」
容赦なく瀕死のその顔面に大振りのビンタをかましたのだった。
◇
一方その頃。
〝雷〟の女神――フルガの神殿では、閑散とした広間に二つの人影があった。
と言っても、一つは力なく項垂れ、空中に磔にされており、ぽたりと彼女の身体から滴り落ちた血で床が赤く染まっていた。
そう、この神殿の主――フルガである。
「残念だったわね、フルガ……。五つに分かれていなければ勝てたかもしれないのに……」
そして彼女を見上げていたのは、ぱっと見無傷の若い女性。
フルガと同じ女神――フィーニスだった。
「殺すなら殺せ、このクソ野郎……っ」
「別に殺したりなんてしないわ……。私はただあなたの力を借りたいだけだもの……」
「ぺっ、冗談も大概にしやがれ……っ。てめえはもうオレたち全員の力を持ってるだろうが……っ」
血の唾を吐き捨てながら言うフルガに、フィーニスは「ええ、ええ、そのとおりよ、フルガ……」と頷く。
「でもあなたたちはまた私と子どもたちをいじめるでしょう……? だからその前にあなたたちの力を全部私のものにしておこうと思って……」
「はっ、そうかい……っ。そいつはクソみてえな話だな……っ」
そう精一杯睨みを利かせて言うも、フィーニスは子どものように無邪気な笑みを浮かべて言った。
「うふふ……。あなたの次はテラ……。その次はトゥルボーに、シヌス……。そして最後はイグニフェル……。皆一緒だもの……。寂しくないわよね……?」
「笑わせんな、クソ女神……っ。五柱揃った時がてめえの最後だ……っ。必ずその腹掻っ捌いて出てきてやっからな……っ」
「うふ、うふふふふ……♪」
「ぐっ……!?」
楽しそうに笑うフィーニスの声が広間に響く中、フルガの身体はフィーニスから伸びる黒いオーラにずずずと包まれていったのだった。
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