112 〝弓〟の黒人形


「全員矢を放て! やつを生かして帰すな!」



 ――どひゅうっ!



 エルフの男性の怒声に続き、周囲のエルフたちが一斉にカナンを攻撃する。



「グアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」



 当然、滞空中のカナンにこれを避ける術はなく、ほぼ全ての矢が彼の全身に命中したのだが、



「グルゥ……ッ」



「「「「「「「「――っ!?」」」」」」」」



 ずずず、と矢が吸い込まれるように体内へと呑み込まれていく。


 と。



「――っ!?」



「――きゃっ!? な、何を……」



 俺は即座に女性を抱きかかえて飛び、その場にいた全員に対して声を張り上げた。



「――皆逃げろ!」



「「「「「「「――っ!?」」」」」」」



「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」



 ――どひゅううううううううううううううううううううううううっ!



「「「「うわあああああああああああああああああああああああっっ!?」」」」



 まるで弾けるようにカナンの身体から矢が飛び出し、俺たちを包囲していたエルフたちを一掃する。


 シヴァさんの側にいたザナは彼女の盾術に守られたようで、ぱっと見は二人とも無傷のようだった。



「あ、ありがとうございます……」



「いえ! でも危険なので離れていてください! それと怪我をされた方々はシヴァさんの盾が守ってくれますので、その間に皆さんを早く安全な場所へ!」



「わ、分かりました……」



「――ザナ!」



「ええ、了解よ!」



 女性が頷いたことを確認した俺は、双剣を顕現させ、地を蹴ってカナンに攻撃を仕掛ける。



「はあっ!」



 どひゅっ! とザナの援護射撃が先にカナンへと届こうとした瞬間。



「グガウッ!」



 ――がしゅっ!



「「――なっ!?」」



 突如やつの身体から生えた三本目の腕が、それを鷲掴みにする。



「ウグアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」



 かと思いきや、光の矢のエネルギーがカナンの構える矢の部分に一瞬で変換されていき、ばちばちっと火花を弾けさせる峻烈の一撃となって、特攻中の俺目がけて放たれた。



 ――どぱんっ!



「うおっ!?」



 ずがんっ! と咄嗟に盾に切り替えたことで直撃は避けられたが、それでも衝撃で数メートルほど吹き飛ばされる。


 ザナの力も上乗せされていると思われ、凄まじい一撃だった。


 先ほどもエルフたちの矢を跳ね返していたし、まさか遠距離系の攻撃は全て無効ということなのだろうか。



「大丈夫!?」



 慌てて駆けつけてくれたザナを安心させるため、俺は力強く頷いて言う。



「ああ、問題ない。でも厄介だな。撃ち込んだ攻撃に自分の力を合わせて跳ね返してくる感じか」



「みたいね。まあそれも限度があるでしょうけど。近接戦闘の方はどうなのかしら? さすがに跳ね返されることはないと思うのだけれど」



「うん。だからたぶん付き合ってくれないと思う。恐らくあいつの戦闘スタイルは自分で遠距離攻撃をしつつ、相手からの攻撃も利用するって感じだろうからな」



「なるほど。相変わらずいい性格をしているわね」



 そういえば、ザナは黒人形化される前にカナンと戦っているんだったな。


 この口ぶりだし、元々そういう感じの性格だったのだろう。



「つまりあの人を倒すためには超高速で近接戦闘を挑むか――跳ね返せないほどの膨大なエネルギーを叩き込むかの二択しかないってわけね」



「ああ。そして俺たちの選択は最初から決まっている。そうだろ?」



「ええ、もちろん。そのために私はここにいるのだから」



 ザナがそう微笑みながら頷くと、俺たちの身体が淡い輝きに包まれる。


 ティルナの時と同じ、優しくも〝力〟に満ちた輝きだ。



「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」



「「!」」



 そして俺たちの雰囲気が変わったことにカナンも気づいたのだろう。


 彼が雄叫びを上げた瞬間、その身体から何本もの腕が飛び出し、周囲の木々が枯れ始めたかと思うと、エルフたちが一斉に苦悶の表情を浮かべ、地に片膝を突き始めたのだった。

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