91 争いの終わり
「フェニックスローブを〝剣〟の聖者が……っ!?」
唖然とする俺に、フルガさまは「ああ」と頷く。
「やつはお前と同じく炎に愛された男でな。さすがに不死身とまではいかなかったが、それでもヒヒイロカネを生成出来る程度の炎は操れた。だからそいつを使って人間どもを守るために聖具を生み出したってわけだ」
ただ、とフルガさまは神妙な面持ちで続ける。
「せっかく生み出した聖具も使えるやつが三人しかいなかった。そりゃ当然だろうな。残りの三人は亜人――この戦争には一切かかわらないことを決めてたんだからよ」
「なるほど。当時は全ての種族から聖者たちが選ばれていたのだな」
「まあ今でもそうなんだけどな? 単に資質の問題であって、人間の方が亜人ほど排他的じゃねえってだけの話だ」
「でも今は私たち人の聖女たちのほかに、亜人の聖者たちも同時に存在しています。これは一体どういうことなのでしょうか?」
マグメルの問いに、フルガさまは腕を組んで唸る。
「あー、そいつはオレにもよく分かんねえ。聖具が一つずつしかない以上、普通は被らねえはずだからな。まあそこを神器で補ったのかもしれんが、そうなると寿命の長さ的に亜人どもの方が先に聖具を手にしていないとおかしくなる。そこのおチビちゃんのようにな」
「むぅ、わたしはおチビちゃんじゃない」
ぷくぅ、と頬を膨らませるティルナに、オフィールが指を差しながら爆笑する。
「だっはっはっ! ほら、やっぱりおチビちゃんだと思われてるじゃねえか!」
「……」
――ごっ。
「――ぐふっ!? お、おま、抜き手はダメだろ……」
「しらない」
悶絶しているオフィールにティルナがぷいっとそっぽを向く中、ザナはフルガさまに争いの行方を問う。
「それで〝剣〟の聖者を含めた人々は聖具で反撃に出たと?」
「まあな。たとえ使い手が三人しかいなかったとはいえ、強力な存在に変わりはない。ゆえに〝剣〟と〝槍〟、そして〝杖〟の三人は人類側の希望としてその最前線に立った」
「ふ、〝剣〟と〝槍〟か。やはり私とイグザは切っても切れぬ定めで結ばれているようだな」
「いや、どや顔でなんか言ってっけどよ、そもそもイグザは聖者じゃなくねえか? てか、〝剣〟以外にも色々使えるぞ?」
「……」
「ぷっ」
「おい、笑うな」
くわっとマグメルに鬼のような視線を向けるアルカに嘆息しつつ、俺はフルガさまに尋ねる。
「ちなみにオルゴーさまはどうしていたんですか?」
「ああ、見守ることしか出来なかったよ。そりゃそうだろ? オルゴーからすればどっちも大切な存在だったんだからな」
「そう、ですよね……」
俺が悲痛な面持ちを浮かべていると、フルガさまは「ああ」と頷いて言った。
「だがな、そんな悲惨な状況にだっていつかは終わりがくる。最後までフィー二スを説得し続けていた〝剣〟の聖者だったが、仲間であり恋人でもあった〝槍〟の聖女を失ったことをきっかけに、フィー二スを封じる計画へと打って出ることにした」
「「「「「「!」」」」」」
きっと〝剣〟の聖者はフィー二スさまのことを信じていたんだろうな。
神器を与えてくれた時のように、また互いに手を取り合うことが出来ると。
なのに……。
「もちろんフィー二スを封じるには同じ神であるオルゴーの力が必要不可欠だった。オルゴーもこれ以上の悲劇は望まず、〝剣〟の聖者に力を貸すことを決めた。そんで作戦は無事成功――フィー二スは封じられ、その代わりに〝剣〟の聖者も命を落とした。まあそんなこんなで今にいたるってわけだ」
「「「「「「……」」」」」」
肩を竦めながら話を締めるフルガさまに、俺たちは揃って言葉を失う。
なんというか、本当に誰も幸せにならない話だったな……。
このフェニックスローブも、〝剣〟の聖者の形見みたいな感じになっちまったし……。
「じゃあ今もフィー二スさまはどこかに封印されてると……?」
「ああ、そうなるな。だがこうしてあいつが持っているはずの神器が再び現れたんだ。恐らくは封印に〝綻び〟が生じつつあるんだろうさ。となりゃ面倒でももう一度封印をかけ直すしかねえわな」
「そんなことが可能なのですか?」とマグメル。
「たぶんな。ただしオレだけじゃ無理だ。あいつを再封印するためには五柱全員が集まる必要がある。そりゃそうだわな。何せ、オレたちは――」
「――オルゴーが五つに分かれたものなのだから当然だ」
「「「「「「「――っ!?」」」」」」」
ふいに響いた聞き覚えのある男の声に、俺たちは揃って目を丸くする。
そこにいたのは、やはり聖者たちの首魁であり、現〝剣〟の聖者でもある鬼人種の亜人――エリュシオンであった。
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