66 襲われた里
当初の予定通り、地の女神――テラさまの世界樹へと到着した俺たちは、互いの再会を大いに喜び合った。
テラさまも俺たちのことはずっと気になっていたらしい。
その心遣いを本当にありがたいと思いつつ、新たにパーティーに加わった三人を紹介した俺は、早々に本題へと入ることにした。
「なるほど。ドワーフの里ですか」
「ええ。今のままだと俺の力に武器が耐えられないみたいでして……」
「そうでしたか。確かにあなたは以前と比べて格段に成長したように思えます。ほかの神々の力を得たということも一つの要因ではあると思いますが、これまでの旅路があなたにとって代えることの出来ない大きな糧となったのでしょう」
それに、とテラさまは嬉しそうに笑って言った。
「ここにいる聖女たち全員から以前よりも強いイグニフェルの力を感じます。よほど深く愛し合っている証拠です。あなたは彼女たち全員に満遍なく愛を注いでいるのですね」
「え、ええ、まあ……」
えっと、それは気持ち的なお話ですよね……?
俺がなんとも言えない気まずさを覚えていると、噂の聖女たちがこんなことを言い始めた。
「ふむ、確かに満遍なく愛を注がれているとは思うのだが、その中でもやはり一番愛されているのは私であろうな」
「うふふ、何を仰っているのですか? どう考えても私以外あり得ないと思うのですが?」
「いや、完全にあたしだろ? てめえらには言ってなかったが、身体の相性が最高にいいみてえだからな」
「あら、おかしなことを言うのね。相性なら私が一番だと自負しているし、きっと彼もそう思っているわ。だから一番愛されているのは私よ」
「なるほど。要約するとわたしが一番。そうでしょう? イグザ」
「え、えっと……」
どう答えてもバッドエンドしか見えないんですけど……。
とりあえず無難に全員が一番だとでも答えようか迷っていると、テラさまがやはり嬉しそうに微笑んで言った。
「ふふ、あなたはとてもよい縁を育んでいるのですね、イグザ」
「そ、そうですかね?」
「ええ、そう思います。なのでいつか私の与えた力で是非賑やかで愛の溢れる家族……いえ、〝大家族〟を作ってください」
「大家族!?」
なんか凄い単語が出てきたけど、そんなに育てられるかな……。
いや、でも俺も男だし、その時が来たら覚悟を決めて頑張るしかあるまい。
そう一人ぐっと拳を握る俺を、テラさまが微笑ましそうに見つめてくる。
最中、彼女は「さて」と話の軸を元に戻し始めた。
「あなたたちが知りたいのはドワーフたちの里がどこにあるかでしたね?」
「あ、はい。出来ればお教えいただけたらなと」
「もちろんそれは構わないのですが、ただあなたたちもご存じのとおり、ドワーフたちは他種族との交流を一切断って生活しています。である以上、たとえ里の場所をお伝えしたとしても、彼らの協力を得られない可能性の方が高いです。それでもあなたたちは彼らに会いに行くおつもりですか?」
「ええ、もちろんです」
即答した俺に、テラさまはふっと口元を和らげて言った。
「あなたならきっとそう仰るのではないかと確信していました。――いいでしょう。ドワーフの里はここから北にある渓谷の地下深くにあります。川に沿って進みなさい。途中で大きな滝が見えるはずです。その裏に里への入り口が隠されていますが、あなたたちでしたらすぐに見つけられるでしょう」
「分かりました。ありがとうございます、テラさま。必ずドワーフたちの協力を取り付けてきますので!」
俺がそう力強く断言すると、テラさまは相変わらず柔らかい笑みを浮かべて頷いた。
「ええ、期待しています。どうかあなたたちの旅路によき縁があらんことを」
◇
そうして新たにパーティーに加わった三人にもテラさまのお力を与えていただいた後、俺たちは彼女の言う北の渓谷を目指して空を翔た。
確かこれをさらに北に進むと、雷の女神――フルガさまの住まう場所へと辿り着くはずである。
〝雷〟のほかに〝破壊〟も司るというくらいだ。
当然、一筋縄ではいかない存在だろう。
ともあれ、俺たちは言われたとおり川沿いを進み、やがて目印となる大きな滝を見つけた。
そして滝の裏に隠されていた洞窟を進み、恐らくはドワーフの里であろう場所へと辿り着いたのだが、
「――さあ、殺しなさい! 殺し尽くすのです!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
――ずがんっ!
「「「「「うわああああああああああああああああああああああああっっ!?」」」」」
「「「「「「――なっ!?」」」」」」
そこで見たのは、青白い顔をした黒衣の男が、ドワーフと思しき女性に命令を下しながら里を破壊している光景だった。
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