16 杖の聖女が厳格すぎる!?
翌朝。
俺たちは当初の予定通り、城塞都市オルグレンへと向けて出発し始めていたのだが、
「あ、あの、ちょっと近すぎませんかね……?」
「何を言う。実に適切な距離感だぞ」
――ぐいっ。
さっきからずっとアルカが嬉しそうに腕を組んできてるんですよね……。
おかげですれ違う人たちからの視線が妙に痛いのだが、何も舌打ちしたり泣いたりすることはなくない?
そりゃ確かにアルカは超がつくほどの美人さんだけどさ。
――ぷすっ。
おい、今毒針撃ってきたやつ誰だ?
「しかし昨夜は実に有意義な時間であった。まさかあんなにも激しく求められるとはな」
「あの、誤解を生みそうな発言はやめてくれませんかね? 俺は別に何もしてないだろ……」
「ほう? 寝惚けて人の胸に顔を埋めてきておいて何もしていないだと?」
「うぐっ……。そ、それは……」
事故です。
あれは事故だったんです。
「まあおかげで私も愛しい男の頭をなでなですることが出来たので大満足なわけだが、これはもう嫁(仮)も卒業だな」
「いや、卒業はもうちょっと先じゃないかな……」
「ふふ、まあそういうことにしておいてやろう。さて、何日目で卒業となるか見物だな」
「……えっ?」
もしかして毎日一緒に寝るつもりなの!?
◇
俺はこれから一体どうなってしまうんだと悩んでいるうちに、俺たちは件の城塞都市――オルグレンへと到着する。
オルグレンは山を丸々一つ削って造られた山岳都市で、城下町を守るやたらと高い円形の城壁のほか、上の方にある城の周りにも城壁が張り巡らされている。
城門は北と南の二ヵ所のみで、それぞれに跳ね橋が設置されており、緊急時はこれを上げて籠城するという。
そしてこのオルグレン最大の特徴は、町の北にずらりと建てられた横一面の巨大な壁――通称〝大北壁〟だ。
この大北壁が守りの要となって、北の山から絶えず侵攻してくる魔物どもを防いでいるというわけである。
まさに城塞都市。
圧巻の光景だ。
ともあれ、とりあえずアルカは聖女なので、城主さまに挨拶をしておこうと思う。
その方がこの町での活動もしやすそうだからな。
というわけで、俺たちはオルグレン城へと向かう。
すると、玉座に腰掛けていた嫋やかな感じの女性が喜びの声を上げてくれた。
どうやら彼女がここの城主さまらしい。
「よくぞお越しくださいました、聖女アルカディアさま。あなたさまのご来訪を心より歓迎いたします。私の名はフレイル。夫であり先王――ジークルド亡き後、このオルグレンの城主を務めております」
「ああ、よろしく頼む。我が婿(仮)の要望でな。魔物どもを根絶やしにしにきた」
「……婿?」
ちょっ!?
「お、おい、そういうのは人前で言わない約束だろ!?」
「いや、だがこういうのははっきりと主張しておいた方がいいのだ。どこに泥棒猫がいるとも限らんからな」
え、なんの警戒をしているの!?
ここにいるのなんて、確かに美人だけど旦那さんを亡くした城主さまと、屈強な衛兵たち、それから――。
「うん?」
そこで目についたのは、どこか神秘的な輝きを放つ杖を持ちながら佇む一人の女性だった。
たぶん年齢は俺たちよりも少し上くらいだろう。
とてもスタイルのよい美しい女性だ。
服装を見る限り、女神信仰の教徒――シスターさんのようにも見えなくはないが……。
――じとー。
「おい、どこを見ている? 早速浮気か?」
「ち、ちげえよ!? てか、まだ付き合ってもいないだろ!? ……そうじゃなくて、ただあの人の杖が気になったんだ」
「ほう?」
俺の視線を追ったアルカが、何かに気づいたらしい。
「お、おい、アルカ!?」
彼女はそのまま女性の前へと赴いて言った。
「――お前、聖女だな?」
「えっ?」
俺が目を丸くする中、フレイルさまが頷いて言う。
「さすがは聖女アルカディアさま。仰るとおりです。彼女の名は聖女マグメル。このオルグレンにて生まれし《無杖》のスキルを持つ者。つまりは〝杖〟の聖女です」
「〝杖〟の聖女……」
唖然と呟く俺に、フレイルさまは続ける。
「そして彼女の手にするのは〝聖杖〟。この世に七つあるという古の賢者の遺産にございます」
なるほど、だからなんとなく既視感があったんだな。
エルマの聖剣や、今アルカが背負っている聖槍と似た雰囲気を持っていたから。
しかしまさか同じ時代に三人の聖女が現れようとは……。
オルグレンも絶えず魔物に襲われてるっていうし、俺が知らないだけで、今の世は意外と混沌としているのかもしれないな……。
そう俺が顔を暗くしていると、マグメルはアルカを一瞥して言った。
「確かに私は聖女です。ですがあなたのような不埒者と一緒にしないでください」
「ほう? 私が不埒者だと言ったか?」
「ええ、言いましたが何か? 神に選ばれし聖女の身でありながら、男に溺れるなど言語道断。この際なのではっきり申し上げましょうか。あなたは――汚れているだけのただの女です」
「うわぁ……」
当然、どん引きの俺なのであった。
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