第31話 - 大陸の歴史

戦争の後片付けが終わり、夏になった


街は大改修が終わり、完全に城と城下町のようになった

区画の配置は前とさほど変わらず、全体的に敷地が広がった感じだ


それからまめいの子供が生まれた、名前はくるみ、女の子だ

俺から一文字、そしてまめいと同じひらがな、という感じの命名だ


ぷにぷにしてて超かわいい、なんでこんな子供ってかわいいんだろうね

俺は男で、兄弟もいないので女の子の子供をどう扱っていいかわからず割と混乱気味だ

オムツの取り換えとか恥ずかしくてなかなか直視できない


こりゃあ世のお父さんたちが娘を大事にするわけです

クルハに見せるとまだわけわからなさそうだった

いつかおてて繋いで兄弟で散歩とかするのかな?くるみが彼氏とか連れてきたらどうしよう

お父さんより弱かったら許さないとか言っちゃうのだろうか


気が早いとまめいに怒られました



戦争のその後はというと、シルヴァン帝国は軍事を縮小し、内政に勤めている

魔王領の端っこでちょくちょく英雄のパーティが来ては魔物を退治しているそうだが、まぁそれくらいならいいだろう、ほっとくことにした


街に住んでいない魔物も全て守り切れるわけではないし

人間と魔物はそもそも敵対しているのだ、これも自然の摂理


外交は相変わらず受け入れてくれないが、感触は前ほど悪くないという

さすがに懲りてくれただろうか


我らが諜報部リリアナによると英雄を二人も失い人口を大幅に減らしたシルヴァン帝国軍は今年の食料収穫量も問題になるうえ、セドリオン貴族国家に強い圧力を受けているらしく

狙い通り、当面は魔王領へ侵攻どころではなくなったそうだ


かなりの大部隊を率いてきたにも関わらず何の成果もなしなので責任を問われているのだろう


...


リリアナに報告を受けている最中、ふとしたことが気になった

今更だが、俺とまめいは最初この森の近くにあった村から生贄に出された

昔はもしかすると人間の村はこの大陸にもあったのではなかろうか?


軍略会議中ではあるが気になって仕方なかったのでリリアナに聞いた


「リリアナ、今この大陸に人間の村はあるか?」

「いいえ、今はありません」


「では、昔はあったのか?」

「はい、10年ほど前、入植を各国が試みました、今より国の数は多く、こぞって新大陸へ移植し、資源を巡る争いが起こっています」


この大陸は新大陸なのか、入植はなぜ失敗したんだろう


「なぜ入植は失敗したんだ?」

「主に魔物が原因ですね、この大陸は10年前に発見されたのですが、大陸自体はかなり昔からあったのか、魔物の数と強さが今人間達が住んでいる大陸よりも遥かに多く、強かったのが直接的な原因です」


森の南の沼地にリッチがいるくらいだしな、相当強かったんだろうな


「さらに、5年ほど前からオークの数が急激に増えたことと、各地の魔物たちが大きな巣を持つなどして現地の村民による攻略難易度が上がり、人間の女を攫う事を覚えたオーク達が各地で爆発的に増えていきました」


なるほど、生贄の文化も生き残るための戦略だったわけだ


「そして入植失敗した国が国力をすり減らし、今ある5か国へ併合されていきました」


なるほど、国の存亡をかけた一大プロジェクトだったってトコか

俺は人間軍が入植を始めた理由が気になった


「ふーむ、人間軍が入植を始めた理由は何なんだ?」


リリアナは地図を広げ、話し始めた


「人間が増えすぎたのが一番大きな理由です、さらに、昔はダンジョンの知識が乏しく、無限に資源を産む場所ではなく、ただ危険な場所として認識されていたため、かなりの数が攻略されてしまいました」

「なるほど、自分たちで資源をすり減らしたのか」


リリアナは頷いた


「もう人間軍の領土でダンジョンが残っているのはおよそ4か所、シルヴァン帝国のみがダンジョンを持っていません」

「それで新資源として魔王領のダンジョンを所有したいわけか」


「魔王領のダンジョンは今いくつあるんだ?」

「およそ15か所です、大きく成長しているのは竜王の巣、魔王城、リッチ様が住んでおられた沼地、ドレイクたちの巣、ワイバーンの巣など、その他中小規模のダンジョンは大陸各地に散らばっております」


「なるほど多いな、欲しがるわけだ」

「そうですね、それと小さなダンジョンは頻繁に荒らされるとダンジョンがなかなか成長できず、大きくなれないのです、国がダンジョン探索を産業としている場合、国の人口が増え続ける反面ダンジョンからの産出量が増えず、いずれは資源が枯渇します」


「なるほど、それは魔王領でも同じことが言えるな」

「その通りです、が玄人さまは魔物を利用した産業を発展させることによってある程度賄えているので直近その心配はありません、役畜魔獣等が大いに活躍していますね」


ふむ、ダンジョンの核を売り出すなんてこともできそうだが...

実は魔王城のダンジョン核はかなり成長していることもあって小さな核であれば生成することができるようになった、一年分の魔石収穫量を捧げる必要があるんだけども


「なぁリリアナ、ダンジョンの核は交易品になるか?」

「国を支えるほどの財源になるモノですよ?あったとしても買い取れる国があるかどうか...」


ごもっとも、確かにそうだな


「なんでそんなことを言い出したのかというと、シルヴァン帝国にダンジョンがないなら俺が作りに行ってもいい、そうすれば攻める理由はなくなるんだろ?」


リリアナは考え込んだ


「確かにそうですね...」


リリアナはしばらく考え込んだ後、話し出した


「それでも私は反対します」

「理由を聞いていいかな」

「はい、理由は二つです、一つ目は戦力差、もう一つは帝国の性格です」


「説明してくれ」

「まず一つ目の戦力差について、これはダンジョンによる恩恵でシルヴァン帝国の人口が増えすぎる事が懸念です、元々人間軍は数が非常に多いため増える速度は今の魔王軍を圧倒的に凌いでいます」

「二つ目は戦力に差がついた頃、帝国の性格上我々の領土に再度侵攻を仕掛ける可能性が非常に高いと思います」


うーむ、なるほど一理ある

国力が上回ってしまえば弱小国の都合など無視してしまえばいいからだ

仲良くして恩を感じてくれはするだろうが、住民が増え収穫量が間に合わなくなれば、有効な対策が打てない場合、侵攻を選択せざるを得なくなるだろう


「なるほどなぁ、それはシルヴァン帝国以外の国にも言えそうだな」

「その通りです、国力に圧倒的な差が無い場合は助けるべきではないでしょう」


国とは民によってできている、民が苦しくなれば国を支えることができなくなる

だから、民が飢えないようにしなければならない、そうすると増えた住民の数に合わせた資源獲得量が必要になる

それが自国の領土で賄えない場合、領土を増やすための侵攻が選択肢になるのだ


「うーん、みんな仲良くは夢のまた夢か...出産調整ができればいいができないんだろうな」

「そうですね、戦争が身近にある国だと、住民を増やすことが国力そのものですから」


当面は安心だと思ったが、いずれまた戦争に発展する可能性があるという事か

シルヴァン帝国以外の国も注意しないとな



ある日街の中を歩いていると、トレントから相談があった


以前ダンジョンの核を渡したトレントたちだ

集落を作り、ダンジョン化し、根を広げ平和に暮らしているそうだ

相談というのは集落について、だった


トレントたちは魔王城の西の森のすぐ先に住んでおり、年々トレントの森が広がっている

彼らの食事は日光と雨、ほとんど食事というものを必要としないが

数が増えたため土地が痩せつつあるのだと


どのように解決するべきか知恵を借りたいという事だった



トレントの村にきた


トレントの集落は村というにはあまりにも森林そのままだった

城からまっすぐここへ向かってこれたが、いつもはトレントたちが迷宮を形成しており

集落のダンジョンへ入ると入り口を閉じて侵入者が死ぬのを待つそうだ

そのせいかあちこちに魔獣たちの死骸、骨がある


トレントの村の長の所へ案内された、長は巨大な樹木そのものだ、背丈は城ほどもあるだろうか、山をも越えそうな勢いの大樹、ここまで立派な樹木はここでしか見れないだろう

巨大な樹木に顔のような紋様が浮かび、話しかけてくる


「ワシはトレントの長、ルガランドと呼ばれておる、ご足労感謝する」

「初めまして、玄人だ。相談があると聞いた、何かあったのか?」


トレントはゆっくり、大きく幹をしならせ、枝を揺らし

ザワザワと葉の音を鳴らしながら話し出した


「左様、以前ダンジョンの核を頂き、我らは数を増やすことができた。だが新しい問題に直面したのだ、土地が痩せ、狩る獲物の量が増え、腐る木が増えてしまった」


トレントは続ける


「ただ腐るだけならよいのだが、中には根の腐敗が進むと自我を忘れ、暴れるものもおる、これらの問題を解決するための知恵を貸して頂けまいか」


なるほど、トレントたちの根が腐ると自我が失われるのか

そもそも死んだ魔獣たちを放置しておくのが一番悪いだろうな

数に関してはもう少しヒアリングが必要だな


俺はトレントに質問した


「まずは死んだ魔獣の死骸をどうにかする必要があるな、トレントは人型になる事は可能か?」


ルガランドは答える


「可能だ、本体は樹木の形を成している必要がある、だが分身を産む事ができる」


ルガランドは幹を揺らす、枝が激しく揺れ、ざわざわと音がする

すると、ルガランドから大きな枝が落ち、落ちた枝はみるみる人の形となった

ゆうに10メートルはあろうかと言いう巨人になったのは驚いた


分身は少し動きが遅いが人同様の動きができそうだ


「なるほど、これなら作業をすることができそうだ」


ルガランドは質問してきた


「作業とは、何をすればよいのか」

「まずは作業を行う人数がいる、ここにいる者たち全員の分身を作ってくれ、そして縄張りで死んだ魔獣たちの死骸を集めてくれるか」



しばらくするとトレントの分身たちは死骸を集めてきた

分身の大きさは樹齢によるのか1~3メートルの者がほとんどだ

ゆっくりと動く分身たちだが、どこからともなく現れあっというまに死骸は積まれた


「よし、腐った肉を全て落として一か所に集めてくれ、骨は使うから捨てるなよ」



腐った肉は全て落とされ、一か所に集められるとすさまじい量の骨が残った


「後でいくつか堆肥置き場をここに作らせる、そこに腐った肉は移し替えてくれ、骨はこれから粉になるまで砕いてほしい」



作業は順調に進み、大量の骨粉ができた

骨粉は肥料になる、これで土壌の改善を行おう


「よし、この骨粉を土に撒いてよく掘り返すんだ、土地はこれで少しずつ改善していくだろう、腐った肉は森の枯れ葉なども混ぜて十分に発酵し、土になったら同じように混ぜるといい」

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