第14話 - 企業と産業
オークの集落を殲滅してから5年ほど経った
村は大きくなり、人口もかなり増えてきた
総人口で言えばもう500はいるだろうか
元々村にいた人たちも増えたがそれ以上に移住してくる人もかなり増えたからだ
継承のスキルはさらに効果があがり、村民になった時点で受け取れる
アヌビスからも受け取れた
戦える者でいえば約300人ほど
魔獣たちは順調に数を増やし100は超える規模になり
街を囲む壁は木杭から石造りになってもう村というよりは街だ
魔獣たちは育つのが早い、だが同時に寿命も短く狩りの最中に死んでしまう事も少なくない
全て今まで生きていればとうに1000は超えるであろう勢いで世代交代を行っている
アラクネの子供たちも2匹ほど無事アラクネと成長した
残念ながらその他の子供たちはダンジョンの狩りなどで少しずつ数を減らしてしまったのだ
だが、新しい子供たちも生まれ、すくすくと育っている
街の名前もそこそこ知られるようになり、今や交易に来るのはエルフのみではなくなった
亜人族を中心にあちこちから集まるようになっている
村を運営していたころからすれば信じられないような成長ぶりだ
街には産業が増えた
一番の売上を誇るのはアラクネ縫製
最初にエルフと交易した品だ、今やアラクネは3人となり生産量もあがった
魔道具の導入で生産力も向上し、いまや日に20本の反物を生産している
次にアヌビスたちのダンジョン産素材だ
魔石が最も売れ行きが良く、この世界では燃料や電池に代わる素材だからだ
ただ、採掘できる量が限定されているので数か月先まで予約でいっぱいになった
さらにサキュバスの薬局が次に来る
サキュバス製のポーションは品質が良く、旅には欠かせないため需要が落ち込むことがない
そして異世界と言えばギルド
街の警備も兼ねて戦士ギルドを設立した、売上こそまちまちだが
鬼人族が中心の戦闘ギルドで主に傭兵として活躍している
仕入れた交易品を持ち帰る際の護衛としてよく利用される他
危険地帯の探索なども請け負っている、おかげでダイバーツリーの戦士ギルドは街以外からの依頼も取り扱うようになった
...
街には酒場や宿屋も建設した、あちこちから人が訪れるためそちらも大いに繁盛している
酒場と言えば、最近頭を悩ます事例がいくつかある
お酒は鬼人族が穀物をベースにした日本酒に近いものを開発し、酒場で振舞われているが
飲みすぎはやはり魔物であってもよくない、人数も増えたので仕方ないが喧嘩が起きるのだ
主に戦士ギルドのシデンが取り締まりを行っているが、今日はたまたま飲みに来た俺がその場を目撃した
些細な主張の違いから口論に発展したのだが殴り合いに発展
その後、お互い武器を構えてしまった
鬼人族と人狼が言い争いをしており
主人のあり方について揉めたそうだ
鬼人族は元が傭兵集団なので通貨主義
人狼はヴァンパイアなどの眷属であるため血を重視する
明らかに意見が合うわけがない
酔ってフラフラとはいえ鬼人族と人狼が本気を出したらそれなりに被害が出るので仲裁に入った
ひとまず収まってくれたが今後もこういう事は増えるだろう
他種族が暮らす街なので出自からこういった問題が起きるのは仕方ない
俺は早急に解決策を考えることにした
そもそも魔物が住む町という事でルールを作らなかったのがまずい
今まではお互い適度な距離を保ってそれぞれ暮らしていたが
酒場や居住地が乱立し狭くなったことで否応なく接触する理由が増えたのだ
価値観の違いなどは宗教に近いところがあり、出自含めて変えるのは容易ではないだろう
娯楽も少なく、ストレスを発散させる場が少ないのも原因の一つだ
いくつか案をまとめた
1.種族ごとにリーダーを決め、まとまって生活してもらう
これは今までと同じだがいわゆる貴族主義で今よりも土地が必要になる
きっと個体数ごとに領地を与えなければならなくなる
2.罪状を作り、違反したものを牢へ入れる
人間のルールを踏襲したものだ、これも罪人が増えた場合の対処が必要だ
魔物が大半なのでこんなことしたらすぐ溢れるだろうな
3.娯楽を増やす
収穫祭などのお祭りを開催、参加や観戦によるガス抜きを狙う
これは1,2ほど土地を必要としないのですぐにやろう
効果のほどはどれもやってみないとわからないが、必要に応じて問題が起きたらそれぞれ対処していこう
街の運営に関する決定権はもう完全に俺が独断で決定してよくなっている
魔物は力関係で上下を決める生き物だ
種族なり団体なりの勢力を含めた力関係となるが
俺は街の魔獣たちの世代交代や、ダンジョン攻略などでちょくちょく犠牲になる住民たちが継承の対象となっているのでこの5年でオーク殲滅戦を行った頃に比べると
魔力量だけで10倍近い力をつけている
もはやアヌビスさえ俺に一目置くほどで力関係であっても俺は実質トップになっていた
つまり俺はもう街の全員を敵に回しても制圧できてしまうレベルに到達している
自身で鍛えることはできないが、街の人たちがここで生活をしているだけで自然と力が流れ込んでくるようになった
文字通り住民が俺の力となるわけだ
やることも決まったので早速進めていこう
収穫祭は収穫時期に行い、みんなで実りに感謝しつつ料理を振舞う感じでいいだろう
これは場所もそれほど必要としない、あとは段取りをまめいとミミに任せておけばいい感じで進めてくれるだろう
だが、これだと1年に1回しか開催できず、血の気の多い魔物たちはまた問題を起こすだろう
魔物の戦闘欲を満たすために戦うお祭りも開催しよう
魔闘祭とでも名付けようか
参加する条件は無し、相手が死ななければ何をしてもよし
一定の広さの土台を用意してそこから出ても負け
降参を認めても負け、などでいいか
能力に制限がかからないよう、参加者を守る魔道具も欲しいな
ただし、戦闘規模の事を考えると街の中はやめたほうがいいだろう
アヌビスのような地形を変える魔物もいるのである程度街から離れたほうがよさそうだ
…
さっそくお祭りについて街にお触れをだしたところ魔闘祭がかなりの反響を呼んだ
街の戦闘員は5割以上参加、観戦したいというものはほぼ全員になり
街の外からも参加者が現れるほどだ
こうなると何か賞品もほしくなるな、とはいえまずは土地の選定からだ
街からほどよく離れつつ、頑丈な地形
北の山場の近くがよさそうだ
以前アラクネを仲間にしたところの近くだ
地質は岩を含むため固く
街からも十分に離れており、大きな樹木は街への被害を抑えるのに役立つだろう
闘技場はコロシアムのような設計にした
リング状の闘技台にそれを大きく囲むような観客席
街の人が全員入れるような広さ、かなり大きな建物になるだろう
方針が決まり、街のみんなに伝えるとわずか3か月で完成してしまった
石造りのため数年かかるかと思ったがみんなの期待値があまりにも高く
無償で住民全員が手伝うのだ
俺はあまりの熱の入れように少し不安になった
「アヌビス、みんなそんなに戦いたいのか?」
「魔物だし、みんな力を持て余してるんじゃないかな」
シデンが話しに入ってくる
「玄人、最高の祭だな!今から楽しみで仕方ない、開催はいつになるんだ?」
「まだ未定だが、血の気が多すぎてちょっと不安だ、死んだりしないだろうな」
「ハハッそれはそれでしょう、俺たちは戦う事が生きがいなんだ」
これは確実に死人が出るな、魔物なめてた
サキュバスに頼んで負けを宣告しなくてもいい仕組みを作らなければ...
「近いうちに開催するよ、街のみんなにくだらない争いはここで決着つけるように言っといてくれ」
「おお、なるほど!そういう効果も見込んでいるのか!いい案だ!」
シデンはいそいそと部下に準備をさせている
死なない道具の依頼もしないとな
「アメリ、アンバー!頼みがある」
アメリとアンバーがやってきた
「どうしたの?玄人さま」
「魔闘祭の話しだが、このままでは死人が山ほど出る、魔道具の開発を依頼したい」
「あら?何が欲しいの?」
「まずは観客を守るシールドだな、それと、本人の意思に関係なく一定の体力が減ったら負けを宣告する仕組みだ」
「なるほど、死ぬ前に強制的に降参させるのね」
「そういう事だ」
そうして、魔闘祭の開催日がやってきた
優勝者には名誉と、そして交易品を一部贈呈
更には長への挑戦権を与えることにした、俺が負ければ当然交代だ
賞品は何がいいか聞いたところ一番多かったのが俺への挑戦だった
みんな血の気が多すぎるだろ、勝てる勝てないの話しではなく、挑戦することに意味があるのだと
中世ファンタジーの騎士名誉みたいなものだろうか
敵は巨大なほどいいらしい
階級分けについては、ややこしいのでやめた
単純なトーナメントでいいそうだ
200人を超える参加者なので大変だったが、アメリが魔道具を利用した記録媒体を開発したので割とスムーズに進行した
…
魔闘祭が始まった
参加者は腰に小さな魔石をぶら下げる
これは持ち主の生命力に反応する、生命力が一定の割合まで減ると
闘技場の入場口にある魔石が光る仕組みだ
これが先に光ったほうが負けとなる
一撃で死んでしまうとこの仕組みには意味がないが、死亡率は減るだろう
アヌビスや俺も見ているし、危ない場合は割って入る事にした
トーナメントは順調に進み、残り8人となった
みんな奮闘していたが負けた者も悔しがってはいるが満足そうだ
勝ち残った勇士達は以下
シデン 鬼人族
グリフォン 魔獣
アヌビス ミストラル・ガルム
ライカン 人狼
アメリ サキュバス
ドラグ 人間
ガーゴイル 魔獣
バエル 魔族
…
シデンとグリフォンの試合が始まる
シデンはダイバーツリーの戦士ギルド長、さすがに強い
街の外からの参加者が多いのも驚いたがさすがに物騒な顔ぶれだ
戦士ギルドの長としての意地を見せてほしい
グリフォンはこの話しを聞きつけた魔獣だ
どこで聞いたのかはまるでわからない、まぁ空を飛べばここは割と目立つのでどこかで聞き込みでもしたのだろうか、シデンとは雲泥の対格差だ
試合が始まり、シデンが駆ける
シデンはこれで決めるつもりだ、グリフォンの目の前で立ち止まり、居合一閃で勝負をかける
グリフォンは飛び退き、ギリギリでかわし、宙に浮く、そしてそのまま突進を仕掛ける
シデンは上段に構え、グリフォンの翼を攻撃するつもりで構えている
お互いが交差する瞬間、グリフォンが体をそらし
シデンの斬撃が空を切る
グリフォンは足でシデンを掴み、場外へ放り投げた
シデンは抗う事ができず、そのまま場外へ着地して勝負が決まった
シデンは諦めたような顔をしながら帰っていった
体格差はさすがに埋めようがないといった感じだ
勝者はグリフォン、次の試合の準備が始まる
…
次の試合はアヌビスとライカン
アヌビスはみんなおなじみ食い意地の張った犬だ
対するはライカン、人狼であるにも関わらず、変身もしないままここまできた
実力の高さが伺えるだろう
試合が始まり、アヌビスはあくびをしながら無造作に近寄る
余裕ぶりが煽りにさえ見える、これはライカンどうするのだろうか
ライカンは大剣を構え、大きく振りかぶった
剣に意識を集中させ、大剣を一気に振りぬくと
鋭い衝撃波が飛ぶ、アヌビスはさすがに驚いてジャンプでかわした
剣技で衝撃波を飛ばすなどさすがファンタジー、今までそんな技を見たことがないので観客たちも一層盛り上がる
アヌビスは着地するや否やもう油断はしないと言わんばかりに全身の毛を逆立てた
アヌビスが本気だ、これは荒れるぞ
アヌビスは突風を呼んだ、すさまじい風圧がライカンに襲い掛かる
ライカンは剣を風の影響を受けないように構え、ジリジリとアヌビスに近寄る
身動きを封じたアヌビスは尻尾を揺らす、風の斬撃がライカンを襲うも
ライカンはその大きな剣で防ぎ、なおも近づく
アヌビスは突風を止め、ライカンの頭上へと大きく飛び上がり、ライカンめがけて降下し始めた
ライカンは剣を後ろに構え、迎え撃つつもりだ
次の瞬間、竜巻がライカンの足元へ発生した
風の影響を受ける形でライカンが構えてしまったのであっさりとライカンは宙に浮いた
アヌビスはさらに突風を呼び、ライカンを場外へ吹き飛ばす
ライカンは抵抗することなく場外へ着地、勝者が決まった
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