第6話 - 魔獣

俺たちの食べ残しを食べていたのはモグラのような魔物だった

こぶしほどの大きさだろうか、さほど大きくはない

アラクネはまだ木の上にいる、アヌビスも特に威嚇する様子はない


モグラのような魔物はこちらに気づいて顔を向けたが、一心不乱に食べ続けている

類は友を呼ぶ...食い意地には見覚えがある


「アヌビス、あれはなんだ?」

「魔獣だね、穴を掘るんだ」

「魔獣?」

「魔獣は獣が魔物になりかけているような状態かな」


魔獣は魔物の下位にあたる存在らしい


「話せるかな?」

「さぁ?、食べるには小さいし、攻撃はしてこないからいつも無視してるよ」


俺はそろそろと近づいて話しかけてみた


「やぁ、おいしいかい?」


魔獣はこちらを向いて鼻をヒクヒクさせている



会話はできないようだ、知能というものは無いのかもしれない

獣が魔物になりかけている段階というだけあってまだ本能の方が強いのだろう


こいつも肉食のようで肉の残りを食べ漁っている

食べ残しを処理してくれるなら害はない、それどころかむしろ助かる


「アヌビス、この子うちに置いておきたいんだけど巣とか作るのかな」

「うーん?さすがにわからないな、ボクは食べられないものに興味はない」


さすがだ、ブレない

戦闘に関しては頼りになるが...相談できる相手がほしい...


最後の頼みはアラクネだ...

俺は木の上にいるであろうアラクネに話しかけた


「アラクネ!この魔獣について知っているか?」


アラクネはこちらに気づき、いつものようにするすると降りてくると魔獣をみつめた


「種族はわからないわね、名前は人型がつけるものだもの」

「なるほど確かに、じゃあこいつが巣を作るかどうかはしらないか?」

「巣は作るわ、この子たちは木の根の洞に住むの、地面の下を移動するから見つかりづらいけれど、あまり数が増えると危険ね」

俺は彼らが危険な魔獣には見えない、なぜだろう?


「なぜ?」

「この子たちは地面の中にいる虫やワームを食べるのよ、数が増えると獲物が不足して穴を見境なしに掘るわ、すると、地盤が緩んで、木が倒れちゃうの」

「なるほど、このまま増えると俺たちも危険なのか」

「そうね、でも彼らが食べるものがここにあるから追い払ってもまた他の子たちが来るかもしれないわ」

「ふーむ...会話ができないし、困ったな」


とりあえず、巣は作ることにした、残飯処理はしてほしい

肉は腐ると臭くなってしまうし、食べきれなかった分はこの子たちに回せばいい

食料が足りているうちはむやみに掘らないだろう


住処の木の根の近くに穴を掘り、柔らかい葉とアラクネの布を敷き、モグラの魔獣をおいてみた


しばらく匂いを嗅ぎまわりぐるぐると巣の中を回っていたが、いくつか周りに穴を掘り、戻ってきた

どうやら気に入ったらしい

周りに掘った穴から出入りするのだろう、害にならなければいいけど




それから何日か経った

モグラの魔獣はまめいがモグタンと呼び始め、いつのまにか家族も連れ混んですっかりぐうたらしている


食事にさえ困らなければ穴も掘らないようだ、モグラに似ているがひなたぼっこが好きで日中は日の当たるところで昼寝している、まめいも一緒に


今日はなにやらアラクネが忙しそうに動き回っている


「アラクネ、何かあったか?」


アラクネは糸を張り巡らし崖へ向かって橋を作っているようだ


「あ、ちょっと待って!」


しばらくすると、おぞましい光景を見た

アラクネたちの子供が孵化したようで、アラクネが作った糸の橋を連なって登っていく

様子を見てさすがに声が出た


「おあぁぁぁ...、お、おめでとう...」


アラクネは子供たちがアラクネの巣に行くのを見届けてから、降りてきた


「ありがとう。ようやく子供たちが産まれたわ」

「すごい数だな...」

「ふふふ、ざっと50匹はいるかしら、子供のころは普通のクモとあまり変わらないのよ

何度か脱皮を繰り返して、大きくなったら繭になって、私と同じ姿になるの」


行軍する姿には驚いたが、魔物の生態は元の世界にはない、知識欲が刺激され

まるで世界初の発見をしたようでワクワクしてきた


「へえぇぇ、面白いな、子供のうちから会話はできるのか?」

「さすがにそれは無理ね、私と同じ姿にならないと会話まではできないわ

ただ、話は理解できるの、強さも魔物というよりは魔獣ね、まだ弱いわ

それでも糸は子供のうちから出せるの、織物も簡単なものならできるわ

これで交易品の数も増えるわよ」

「それはありがたいな、食べ物は大丈夫か?」

「子供のうちはそれほど食べないわ、私が面倒みないと親として認められないし

心配はいらないわよ」

「わかった、必要なものがあったら教えてくれ、可能な限り手伝うよ」

「助かるわ、でも安全があるだけでいいのよ、あの子たちは弱くて、アラクネになれるのはほんとうに一握り、数匹だもの」

「厳しいな」

「それがアラクネだもの、仕方ないわ」


少し悲しそうな顔をしながらアラクネはそういうと、子供たちの世話へ戻っていった


しかしいいことを聞いたぞ

魔獣と会話は成り立たなくても、話は聞こえているのか

聞いた限りだと獣から魔獣、魔物へと歳と共に成長と進化をするようなイメージかな?


モグタンたちもいずれは魔物になるのだろうか...

なるとしたらどんな魔物になるんだろうか、戦闘力が無いまま魔物になっても食われるだけなのだろうか?

食物連鎖とはいえ、少し悲しいな


それはそうと、魔獣でも話しは聞こえているらしい

俺のスキルが会話だけではなく、指示ができるとしたら、もしかするとモグタンたちも働けるかもしれない

実験してみよう


俺は昼寝しているモグタンたちのところへ駆け寄り、いろいろと試してみた


すると、モグタンたちは俺の話を理解していた

言葉を発する器官がないだけで、割と友好的だ

何とか身振り手振りやジェスチャーを駆使するといろいろとできる


説明しづらいところは実際に実践して見せるとやってくれる

そして俺は畑を作ることを教えた


木の杭で囲いを作り、その中を耕すように指示するとモグタンの家族総出でやってくれた

小さな小石なども取り除き、種さえあればもう植えられる

深く掘ることも、浅く掘ることも指示次第でやってくれる

おそらく木の苗を植えるような穴さえ掘ってくれるだろう


作業は小一時間ほどで終わった、早い

作業が終わるとモグタンたちは日向ぼっこにもどって行った


後は種が必要だが、エルフ交易で手に入れば植えてみよう


夜になり、いつも通りアヌビスが獲物をとってきたので解体し

ご飯の準備を進めていた

ここにきてから野菜や果実も少しは取れているが、基本肉中心なのでそろそろ野菜が恋しい

魚もいいな、今度釣竿を作ってアラクネに糸でも作ってもらおうかな

モグタンたちが耕した畑が実ってくれるのを楽しみにしよう


夕食の準備が終わり、食事を始めたころ、俺はふと思い立った


「そうだ、今日初めて働いてくれたモグタンたちに残飯ではない料理を分けよう」


まめいが大賛成して作り置きを持ってきた


「これは食後のおやつにするつもりだったけど、モグタンたちのためだ...」


ちょっと残念そうな顔をしているが、にこにこしながら渡してくれた

俺はその料理をもって、モグタンたちの巣へ向かった


「今日はありがとう、また頼むよ」


そう声をかけて、肉を掌にのせ、モグタンへ近づけた

一番大きいモグタンが近寄り、鼻をヒクヒクさせながら肉を食べてくれた


すると、モグタンが光りだした


「は!?なに?」


光はぼんやりと、弱く、次第に俺の中へ吸い込まれるように消えていった


「え、なに、なんなの...」


モグタンは特に変わりない、俺は戸惑いながらも他のモグタン達に手渡しで肉を与えた

すると、例外なく他のモグタンたちにも同じ現象がおきた


特に痛みもなく、何も変化はない

アヌビスやアラクネに目を向けたが特に変わった様子はない

俺にだけ見えたのだろうか


アヌビスに聞いても、アラクネに聞いても見えていなかった

もちろんまめいにも見えていなかった

俺はもしかするとこれが精霊かと思い、魔法を使えるか試してみた




崖際へ移動し、崖へ向かって深呼吸をしたあと崖へ向かって指を挿し、気合を入れて声を張り上げた


「ファイヤーボール!」



何も起きない、そして恥ずかしい

おそるおそる、まめいを見た


顔を伏せている

だが、明らかに肩が上下している、隠す気があるのか疑わしいほど揺れている

アヌビスはそっぽを向いているが、尻尾がプルプル震えている

アラクネは困った顔をしながら苦笑いしかできなさそうだ


俺は赤面しながら声をかけた


「おい」


すると涙目になったまめいが顔をあげ、話し出す


「ど、どうしたの?大きな声で...ブフッ」


もはや言葉にならない恥ずかしさが俺を襲い、硬直してしまった


「...」


まめいがもう限界だ


「...魔法の練習だよね、きっ..ブヒョッ...」


ここぞとばかりに俺を見下し気持ちよさそうに赤面しながら俺を見ている

...

もうダメだ、穴があったら入りたい

さらにもはや笑う事を隠しもせず、嬉しそうにまめいが大声で話しかけてくる


「ねぇねぇなんでいきなりファイアーボールなのぉぉぉ?」

「うるせぇぇぇ!精霊が見えたかと思ったんだよ!!!」

「あっはっはっはっは...ひー」

「鼻水出てんぞ!笑いすぎだろぉぉぉぉ」


俺にはもう逆ギレしか残っていなかった

散々二人で罵り合い、その夜は寝た


翌朝

昨日の事がまだ恥ずかしい

まめいが俺を見る度ニヤニヤしている

我ながらどうしようもなく恥ずかしい

しくじった


今日は少し遠出をしようと思う

畑が作れることがわかったので、作物を育てるのに向いた土地を探したい

今はアラクネもいるし、まめい一人残してもきっと大丈夫だろう


「まめい、ちょっと新しい住処になりそうな土地を見てくる」

「へ?ここじゃダメなの?」

「畑が作れるようになったからな、広さが足りないんだ、収穫まで時間がかかるし、冬があるなら備蓄しないといけない」

「なるほー、一人でいくの?寂しくない?」

「一人で行けるわけないだろ、魔物と戦える装備はないぞ、ちょっとウロウロするからアヌビスと二人で行く、アラクネとモグタンとお留守番頼む」

「うーん、わかったー、夕方までに帰ってくるんだよー」


母親かよ


正直俺は方向音痴だが、アヌビスがいるなら大丈夫だろう

飯の匂いできっと帰り道はわかるはずだ


俺とアヌビスは川の向こう側を探索しようと決めた

だが、水は作物にも必要だし、それほど離れることはできない

川よりそれほど遠く離れることはできないだろう


しばらく歩くと、森の奥から戦闘音が聞こえはじめた


「アヌビス、このあたりに他の魔物の集落があるのか?」

「無いと思うよ、狩りのついでに見回りはするけど、そんなところはなかった」


ではなんだろう?人の声が聞こえる気がする

まめい以外の人に会えると思うと、ちょっとワクワクした


ゆっくりと近づき、木陰から覗いてみると獣人と何かが戦っている

周りに何人か倒れており、戦っている獣人は倒れている仲間を護るように立ちまわっている。





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