4 策動
社長室。
無意味なまでに広く、人の生活感などまるでない虚無的なその空間に、男と女の喘ぎ声がこだまする。
ソファーの上で絡み合う、ふたり。
男に組み敷かれるようにして秘所を突かれていた女は、やがて、体を入れかえ、反対に男を股の下に組み敷くようにする。そして、男の上に体を起こすと、激烈なほどに腰を動かし始めた。
「どうした、今日はずいぶん激しいじゃないか」
社長がキヨミの腰の動きにあわせて、みずからの腰も動かし、手で彼女の臀部を鷲づかみにし、弾力のあるふくらみを力づよく揉みしだき、自身の快楽を高揚させていった。
「ええ、ええ、だって、とってもうれしいんですもの」
キヨミは喘ぎながら、とぎれとぎれに言葉を発する。
「最高、なんです。だって、待ちに待った日が、とうとうおとずれたんですもの」
「最高?待ちに待った?」
「ええ、ええ」
キヨミは快楽に悶え、体をのけぞらせ、口の端からは唾液をたらす。汗に濡れた
「今日こそ、私たち姉弟の祈望が、かなうんですもの」
言ってキヨミは社長の肩に手をおき、体に覆いかぶさるようにしながら、腰を揺らす。
「う、ぐ……」
突如、社長がうめきはじめる。けっして快楽による悶絶ではなかった。
「や、め、ろ、なにをして……」
社長の苦悶の表情をみながら、キヨミはさらに快楽に酔っていくように、笑みを浮かべる。そしてその笑みに、しだい、しだいに狂気が加わりはじめる。
「なぜだ、お、まえには、リミッター、が……」
「そんなもの、とっくに解除させていますわ、ウンノに命じて」
「な、あ、ああああ」
社長はさらに苦痛が強まったのか、体を震わせはじめた。
「はは、あはは、気持ちいでしょ、いいでしょ」
社長はもう激しく痙攣し、声を出せないほどの激痛のなかにいる。ただ、喉の奥につまったものを無理矢理はきだすように、かっ、かっ、と妙な息づかいをするだけだった。
「気持ちよがりながら逝けるなんて、最高よね、そうでしょ?」
キヨミは、社長の苦悶の表情をみつめ、なにかを送り込むような目つきをすると、瞳が一瞬
「ねえ、そうでしょ、お父さん」
社長の体が硬直し、断末魔のようなうめき声を発する。
キヨミは腰の動きをとめる。
そして、背をそらし天井を見上げ、なにか喜びをかみしめるような様子で、自分の体を両腕でだきしめる。それは絶頂に到達した悦楽を、肉体全体で味わい、悶えているようにもみえた。
やがて、気持ちの高揚がおさまったのか、キヨミは社長のうえから立ち上がる。男根がくちゅりと音をたてて抜かれるとともに、秘裂からふたりの混じりあった愛液が溢れでて、股の内側を流れ、ふくらはぎをつたい、
彼女は鞄のなかから、ボディーシートを取り出して、汗にまみれた全身をぬぐい、見当たらないパンツを目で探しながら、学校の制服を身につける。やがて、ソファーの陰に目的のものをみつけると、拾いあげ、脚を通す。
パンツをお尻まで引っぱりあげた時、入口のドアをノックする音がした。
シノブがイサミにうながされて社長室に入ると、そこには異常に空濶とした部屋が視界いっぱいに存在し、一面ガラス張りの壁の前に、社長の机やソファーなどが小さくまとめられたように、配置されている。
そこに、今ちょうどローファーを履いているあの女子高生がいて、その横の――シノブからみると向こう側の位置にあるソファーには、性器を勃起させたままこと切れている中年の男の死体が横たわっている。
「ごめんなさい、ちょっと取り込んでいてね」
靴を履き終わると、女子高生が優し気にいう。
「イサミちゃん、目障りだから、これ、片付けておいて」
「姉さん、ついに、やったんだね」
「ふふふ」
笑って女子高生は手でソファーに座るようにシノブをいざない、社長の席に行くと椅子に座る。イサミと呼ばれた少年は、中年男の両足を持って、きゃしゃな見た目に反して、かるがると男を引きずって、部屋のそとへいく。
この中年はおそらくここ、サバタリアン・ファーマスティカルの社長だな、とシノブは思った。たしか会社のサイトで写真をみた記憶がある。
「まったく、無様な死に様よね。まあ、自分のDNAから作り出した我が子のようなクローンを、さんざん
言って女子高生は小さな手鏡をとりだして、リップクリームを塗り、手櫛で髪を整える。
シノブはそれを見ながら、テーブルをはさんで彼女の反対側にあるソファーに座った。
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