見られてました

……二分、経ったので。

俺は、犀川の元に向かった。


まだ、顔が赤いし。

心臓も、ドキドキしたままだけど。


それでも、行かないといけない。


「……お待たせしました」

「おっそ」

「ちょうど二分だぞ」


やっぱり、犀川は余裕そうだ。

なんか……悔しいな。


犀川だって、あんだけエロいものを規制してたくらいだから、恋愛経験なんて、無いはずなのに。


「手、繋ぐ?」

「……おう」

「なにその顔。嫌ならやめるよ?」

「そういうわけじゃなくてさ……」


あんなことがあったのに、平気で手を繋げるってことは……。

やっぱり、本当に俺のこと、好きではないのかもしれないな。


あくまで、離れたくないというだけの話であって。

……いやでも、それってやっぱり好きってことじゃ。


「ど~ん!」

「うわっ!?」


考えごとをしていたら、いきなり、茂みの中から、モモ先輩が飛び出してきた。


「お二人とも。お楽しみのところ、お邪魔してすいませんねぇ」

「見てたんですか……」

「どうかな~?」


明らかに見てただろ……。

そんなモモ先輩の後ろから。


……ものすごく不機嫌そうな、文月先生が現れた。


「武藤くん。言いましたよね? 次不純な行為をすれば……。命の保証はしないと」

「そんな大ごとでしたか!?」

「覚悟しなさい。ここは人もいないし、助けは来ません……」

「ま、待ってください! 怖いですって!」


文月先生の、三つ目の目が、思いっきり見開かれている。


「ちょっとフミちゃん……。みっともないから、やめてよ」


モモ先輩が、ため息をついた。


「だいたい、誘ったのは犀川ちゃんの方からだし。ね?」

「誘ったって……。ちょっと、からかっただけですよ」

「からかった……。ふぅ~ん」


何やら、いたずらっぽく微笑んだモモ先輩に、犀川が警戒心を示す。


「な、何ですか?」


犀川に、モモ先輩が耳打ちをした。

すると……。

犀川の顔が、一気に赤くなった。


「見てたんですか……」

「へっへっへ。どうする? 歩夢に教えてあげてもいいけど」

「絶対にやめてください!」

「あの……。どういう」

「聞いてよ歩夢! 犀川ちゃん、階段で」

「ああ~!!!! 明美と笹倉さんを待たせているので、早く行かないと!」

「あ、おい犀川! 走ったら危ないって!」


下駄を履いている犀川が、転ばないように、俺は慌てて、手を繋いだ。

すると、犀川の動きが止まった。


「……犀川?」

「……急に手を握るの、ダメでしょ?」

「いやだって、危ないから……」

「ダメなの。謝って」

「すまん……」

「うん。じゃあ行こう」


俺の手を握り直した犀川が、その手を引っ張るようにして、進み始めた。


「ほらフミちゃん。早く行こう?」

「……青春の香り。臭いですね」

「……フミちゃん」


モモ先輩が、文月先生の頭を撫でた。


……どっちが大人か、わからないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る