夏祭りはエチエチイベント

「なに?」

「その……。今って、六月になったばかりだよな?」

「そうだけど」

「だからさ、六月が終わるころには、犀川の症状って、だいぶ良くなってると思うんだよ」

「このままいけば、ね? 私の症状は、精神状態が結構大きく影響するから……。どうなるかなんて、わからない」


犀川が、不安そうな表情を浮かべた。


「えっと……。じゃあ、もしさ。六月の終わりごろに、良くなってたら……。一緒に、夏祭り、行かないか?」

「え? 無理」

「即答かよ!」


断られるにしても、こんなにあっさりとは。

俺は咳払いをして、仕切り直した。


「もちろん、人ごみは怖いよな。それはわかる。何もそこまでしようって言ってるんじゃない。夏祭りの会場の近くにさ、神社があるだろ? 結構階段登らないといけないし、暗くて、誰も近づきたがらない神社。あそこ、穴場だと思うんだよ。その……。花火を見るためには」

「近くって……。二十分くらい歩くじゃん」

「だ、だけどほら。その歩いてる間も、なんか良いっていうかさ……」

「勉強したいから、パスで」

「おいおい……。まだ俺たち、高校二年生だぜ? 勉強なんて……」

「わかった。じゃあちゃんと言ってあげる」


犀川は、立ち上がり……。

俺に指を差して、言った。


「夏祭りなんて、エチエチなイベント、参加したくない。以上」


言い終えた後は、静かに座った。


「エチエチなイベントって……。どんな偏見を持ってるんだよ」

「去年、ボランティアで、夏祭りのパトロールに参加したの。……ウチの学校の生徒っぽい人が、大勢いたけど、人前で手を繋いだり、キスしたり……。とにかくエチエチで、見ていられなかった」


犀川の顔が、赤くなっている。


最近は、あまり堅物な一面を見ることがなかったから、忘れてたけど……。

そう言えばこの人、こういうキャラだったな。


「手を繋ぐぐらいだったら、良いだろ?」

「そんなのセックスじゃん」

「なんてこと言うんだ」

「私は認めない……。あんなの祭りじゃないから」


拗らせてるなぁ……。

むしろ、そういう発想になってしまう犀川の方が、エロいと思うけど。


「そういうわけだから、夏祭りには、参加しない。例え、遠くから花火を見るだけでも嫌だ。そもそも家から見られる」

「……そうかぁ」


がっかりだけど……。仕方ない。


クリスマスとかまでには、そういう行事ごとに、一緒に参加できるくらいの、関係性になれたらいいなぁ。


ゆっくり行こう。

俺たち、ちゃんと話し始めてから、まだ日が浅いし。


「……見ないで」

「見てないって……」

「嘘だ。エチエチな目で、私を見てたでしょ?」


今日はやたら、エチエチって言うな……。

多分、治療が上手く行ってるから、普段の堅物スイッチが、ONになりかけてるんだと思う。

こういう時は、あまり刺激しない方が良い。


「じゃあ、俺は教室に戻るよ……。勉強、頑張ってな?」

「うん」


こちらを見ることもなく、小さい声が返ってきた。


俺はため息をつきながら、部室を後にした。

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