病院が苦手

オカルト研究部に戻ったところ。

早速、文月先生が、こちらに向かってきた。


「わかりましたか? 魔物症候群を抱えて生きることが、どれだけ大変で――」

「バイト決まりました!」

「……は?」


文月先生が、怪訝そうな顔をした。

それに若干怯えつつ、笹倉が自分で説明する。


「柚……。この羽、大事にしたいんです! だから、治療はしますけど……。完全に失くしたくはないっていうか! そういう薬って、ありますか!?」

「なんて都合の良い……」

「……無いなら、仕方ないですけど」

「……私は知りません。医者に訊いてください」

「医者……」


その二文字を聞いて、笹倉が身震いした。


「柚、お医者さん、あんまり好きじゃないんです。看護師さんは好きだけど……」

「わがまま言ってる場合ですか。もし、症状を抑えつつ、生活を維持したいなら、医者と話し合うことが、なにより重要です」

「フミちゃん先生、付いて来てくれるんですよね?」

「もちろん。それに、先ほど笹倉さんの家にも、連絡しましたから。もうじき来るころだと思います」

「は、話が早い……」

「お父様はお仕事ということで。お母様がいらっしゃると」

「お母さん! あぁ~。この羽、早く見せたいなぁ~」


笹倉が、羽を羽ばたかせた。

……抜け落ちた羽根が、空中に散らばっていく。


掃除……。面倒だな。これ。


「武藤くん。もう少ししたら、犀川さんがここに来るので、このプリントを渡しておいてください」

「えっ……。犀川、病院じゃないんですか?」

「午後から、自習しに来るそうです」

「真面目ですね……。わかりました」


文月先生から、プリントを受け取った。


「それでは、行きますよ。笹倉さん」

「え? お母さんは……」

「裏門に来るように伝えてありますから。先に行って、待っていないといけません」

「なるほど……。えっと、じゃあ、武藤先輩! 今日は色々ありがとうございました!」

「おう。病院、頑張れよ?」

「うっ……。が、頑張ります!」


病院。という単語を聞いて、やはり一瞬怯んだ笹倉だったが。

握り拳を作って、自分を鼓舞している。


「……そんなに嫌ですか。病院が」

「だって……。はい」


多分、母親の入院の件とかあって、色々思い出すんだろうな。


「まぁ、気持ちはわからないでもないですが」

「えっ? フミちゃん先生も、病院嫌いなんですか?」

「……注射が苦手なだけです」

「か、可愛い……」

「バカにしてますか?」

「し、してないです!」


文月先生に睨まれた笹倉が、慌てて顔の前で、否定するように両手を振った。


「全く……。ほら。そろそろ行きますよ」


文月先生と一緒に、笹倉が出て行った。


……さて。

犀川が来るまで、部屋に散らばった、この大量の羽根を、片づけることにしますか……。

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