第25話 山中研究所
山中研究所会議室
俺達は担当者と打ち合わせをしていた。
話を聞くと、新型の疫病の特効薬を生産する為の施設を建設するらしい。
予算は潤沢にあるが、工場と生産ラインの設計、資材の購入とやることは多岐に渡り、新人の俺だと手に余る案件だった。
「では、社に持ち帰り検討させていただきます。」
アミのお陰で何とか形にはなっていたが、相手の担当者は不満そうだった。
「出来ましたら次回からはもう少し上の方にきてもらえませんか?新人さんと女性だと此方としては不安がありますので。」
「はい?私だと何か問題が?」
「若い女性は急に辞めたりしますので、其方の方は新人すぎて仕事を任せるのには不安があります。」
「しかし、其方から私を指名して来られたのでは?」
「はい、所長の意向でしたが、まさか新人とは思いませんでした。」
「そうですか、そういうことでしたら、次回から別の者が担当させてもらいます。ではこれで失礼さしてもらいます。」
「ちょっとリョウくん。」
「行こう、アミさん。ではこれで。」
俺は渋るアミさんを連れて部屋を出ようとした。
「いや~遅くなって申し訳ない。」
奥から研究者らしき人が入ってきた。
「おや、もう帰るとこだったか、間に合ってよかった。君が桐谷くんだね。会えてよかったよ。」
「所長?お知り合いですか?」
「いや、ボクは直接は知らないけど、娘の恩人なんだ、失礼が無いようにな。」
担当者の岩屋さんの顔色は悪かった。
「すいません、所長さんですか?娘の恩人と言われましたがどなたの事でしょう?」
「先日世話になったマイの父で山中トオルといいます。そして、もう一人の娘のユミの父でもあります。二人ともお世話になりました。」
「あー、マイちゃんのお父さんですか。いえ、たいしたことはしておりませんのでお気になさらず。ただミウを紹介しただけです。」
「いえいえ、励ましの手紙をもらってからユミの喜びようと手術に前向きになってくれたお陰で、手術も成功したし、ホントに感謝しかありません。
「それはミウのしたことです。感謝なら今後もミウを応援してあげてください。」
「何を言うんです。もちろんミウさんにも感謝しておりますが、見ず知らずの娘の為に紹介してくれた桐谷さんにも感謝しておりますよ。」
「はい、そう言われるなら・・・」
「さて、今晩お時間はありますか?」
「えっ、まあこの仕事が終われば、会社に報告して終りかと、その後なら時間はありますが・・・」
「どうですか、お食事でも?接待も仕事の内ですよ。」
「いやいや、自分は接待を受ける地位にいませんので。」
「えっ?桐谷さんが今回のプロジェクトリーダーになる予定では?」
「いえ、先程そちらの担当者から新人である自分は担当を降りるよう言われましたので、これから社に戻って担当を選ぶ所です。なので接待は其方の方にお願いします。」
「えっ?どういうことだね、岩屋くん!」
「所長、このプロジェクトを新人に任せる方が間違ってます!」
「岩屋くん、いつから君はそんな権限を持てるようになったのかね?しかも、ワザワザ来てもらったのに、どれだけ失礼なんだ!」
「しかし、自分は間違ってません!」
「あの~そろそろ帰っていいですか?社に報告もありますので。」
「あー、リョウくん感謝といいながら、この仕打ち、誠に申し訳ない」
トオルさんは深く頭を下げた。
「頭を上げてください、新人の人が携わるには確かに荷が重い話です。」
「しかし、この仕事のリーダーをやれば今後の仕事をやっていく上で箔がつくから、これをお礼にしたかったのだが。」
「お礼は結構です。では、失礼します。」
俺はこれ以上話しても堂々巡りになるから、早めに打ち切り、帰路についた。
「リョウくん、よかったの?たぶんあのまま話してたらリョウくんがリーダーでプロジェクトが進んだよ。」
「アミさん、そこまでしなくていいよ。縁もプライベートなものだし、俺には荷が重い話だったしね。」
「もったいないなぁ~あの人ノーベル賞貰ってる人だよ。その人が作る国際的な疫病の薬・・・あーもったいない!」
「まあまあ、アミさんはプロジェクトに入れたらいいね。」
俺は何故か自分の事のように怒ってるアミを宥めながら、会社に戻った。
石戸係長に話をし、後は任せる事にした。
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