第19話 アズサ恋に落ちる

「だ、だれ、何で私に抱きついてるの?離して!」

俺は頬を叩かれた

「いきなり、元気だなぁ~」

俺は叩かれた頬を擦りながら話しかけようとするが・・・

「えっ!なんで、私裸なの?ま、まさかあの変態に?!」

彼女は混乱から抜け出せてなかった

「おーい、事情を説明させてくれ。」

「この変態!私に何をしたの!」

「子供に何もしてねぇよ、それよりケガはないか?」

「ケガ?あっ!私、崖から落ちて・・・」

「そう、だからケガしてないか聞いてる、元気そうだから大丈夫だとは思うけど。」

「ええ、少し打撲の痛みはあるみたい、それで、あなたはだれ?」

「やっと、落ち着いてくれたか。俺は桐谷リョウ、たまたま君が崖から落ちる所を見かけたから追いかけてきた、今俺の友達が救助を呼びに行ってくれてる」

「それじゃ、私の事を助けてくれたんですか?」

「まあ、勝手に脱がしたのは謝るよ、でも、服が濡れてたから放置も出来なくてね。取りあえず、君の服が乾くまで俺の服着といて。」

俺はインナーに着ていたパーカーを渡した

「ありがとうございます、あっ!申し遅れました、私は源アズサです」

「アズサちゃんね、救助が来るまで宜しくね。」

「はい、よろしくお願いします」

「まあ、取りあえず火にあたろ、体を冷やしたらいけないし、何より寒い」

俺はパーカーを渡した為、Tシャツ姿になっていた。

「すいません、私のせいですよね。」

「気にしなくていいよ、助けるのが大人の役目、それより喉乾いただろ、ほら。」

俺は新品のお茶を渡す

「助かるまで、それだけしかないから大事にな。なくなったら、雪解け水に挑戦するから。」

「何から何までありがとうございます」


それから、二人で火にあたっていた

途中、凍傷を、避ける為、鍋で雪を溶かしお湯にしてからアズサの手足を暖めた。


外の雪は止む気配はなく、夜も更けてきた

「こりゃ、救助は明日になるかもね。」

「そうですか、残念です。」

「アズサちゃんはご両親と来たの?」

「いえ、修学旅行できました。」

「そりゃ、先生一大事だ。」

「うう、悪いことをしてしまいました。」

「まあまあ、でも何で上級者コースにいたの?」

「道を間違ってしまいまして、友達は途中で中級に戻ったみたいなのですが、私は・・・」

「通り過ぎちゃったと?」

「はい、そしたら止まれなくなってしまいまして・・・」

「まあ、いい経験とは言えないけど、こんな経験なかなか出来ないから、きっと思い出になるよ。恥ずかしい失敗として♪」

アズサは頭を抱えて

「もう、止めてください。どうしよう、友達にあわせる顔がないよ~」

「ははは、大丈夫だよ~~~たぶん。」

「それより、リョウさんは大丈夫なんですか?友達と一緒に旅行だったのに私のせいですよね」

「うん?俺はいいよ、どうせ男三人むさ苦しく酒を飲むぐらいの予定しかないから、それより可愛い女の子とお話出来るほうが思い出になるでしょ。」

俺はアズサの頭を撫でながら言った

「可愛いですか・・・リョウさんはどんな女の子がタイプなんですか?」

「タイプかぁ~うーん、そうだなぁ~黒髪のロングで・・・そう、大和撫子って感じの子かな。まあ、いないか。」

俺は笑いながら言った。

「大和撫子・・・」

「それより、アズサちゃんはどんな男の子がタイプ?好きな子とか同級生とかにいる?もしかして彼氏とか。」

「そんな人いません!私の好きな人は頼れる人です。」

「頼れる人?へぇーカッコいい人とかって言わないんだね?」

「私は顔で人を選んだりしませんよ。」

アズサは俺の顔をじっとみてきた。

「ま、まって、俺そんなに顔悪い?イケメンとは言う気はないけど、ソコソコの自信はあるんだけど・・・」

アズサはため息をつきながら。

「何でそうなるんでしょう?リョウさん鈍感とか言われません?」

「あー友達にもよく言われるよ、何でだろう?」

「知りません!」

「理由を教えてよ、アズサちゃん」

「アズって呼んでください。」

「へっ?」

「わたしもリョウくんって呼びます。」

「まあ、いいけど、アズちゃんでいいのかな?」

アズサは満面の笑顔で、

「はい♪」

「それより、鈍感な理由を教えてよ~」

「ダメです、私が大人になったら教えてあげます。それまで鈍感なままでいてください。」

「ぶーーー!」


それから、俺とアズサは軽く食事(持ってたツマミ)をし、寝ることにした。


明け方、

ゴトッ!

家の裏側で音がした!

俺は目を覚まし様子をうかがう、俺が起きた事でアズサも目を覚ましたようだ

「リョウくん?どうしたの?」

「シッ!さっき何かの音がした、少し様子を見てくるからここにいて。」

「えっ!うん、大丈夫だよね。」

「まあ、様子を見るだけだから。」

俺は音のした家の裏側に向かった、朝日のお陰で少し外が見えたが、特に何もないかのように見えた。

「気のせいだったか?何か恥ずかしいな。」

俺は警戒しすぎかと少し恥ずかしくなった。

「キャー!リョウくん!た、たすけて」

アズサの声が聞こえた、俺は急ぎ居間に戻るとそこには熊が窓を割って入ろうとしていた。

「てめぇ!」

俺はスノボーの板を熊の顔面にぶちこんだ!

「アズ!奥の部屋にいけ!」

アズサは恐怖で動けないのか、その場に固まっていた。

熊が怯んだのも束の間、アズサに気をとられていた俺は熊の右手の振りをくらってしまった。

「ぐはっ!」

なんとか板で直撃は防いだが、板は割れ、俺は勢いで壁に叩きつけられた。

「リョウくん!」

アズサは俺の方に来ようとするが・・・

「来るな!奥の部屋に向かえ、コイツは俺がなんとかする。」

「でも・・・」

「いいから行け!」

俺の言葉にアズサはやっと動きだした。

「さてと、おどりゃいい度胸じゃのう、トコトンやろや!」

俺は熊にたいして気合を吐き、火のついた薪をかまえた!


窓枠に阻まれ全身が入れない熊を相手に俺は殴り続けた、一発でも受ければ死んでしまう、そんな一撃をかわし殴るを繰り返していたがついに窓枠が壊れ、熊が侵入してきた。

「くそったれ!ここまでか!」

全身で動けるようになった熊を相手に戦うのは人間には無理だ、俺は覚悟を決め、アズサを守る為にも死ぬ気で一発、いいのをくれてやらねばと気合を入れ直した。

「クマコウ、かかってこいやぁ!」


ダン!

俺が仕掛けようとしたところ、銃声が聞こえた。

「あれ?クマコウ?」

俺が命掛けで戦おうとした相手は死んでいた

「ふう、若いの生きとるか?」

熊の後ろから現れたのは猟銃を持ったオッサンだった

「あなたは?」

「救助隊だよ、ここらは熊が出るんでな、猟師が着いて来ることになってるんだ、それより女の子もここにいるのか?」

「ああ、源アズサちゃんならここにいるよ、奥の部屋に隠れてる」

猟師のオッサンと話している内に他の救助隊も来たようだった。

俺は安堵感からか急に意識がなくなった。


次に目を覚ますと幼馴染みの顔があった

「ダイキ、顔が近い、そんでここはどこ?」

「お前第一声がそれかよ!ここは麓の病院だ。あれから二日寝てたんだぞ。」

「マジか!ってうん?ってことはもう帰宅じゃん」

俺達は三泊四日の予定で着ていた

「いや、お前はもう少し入院したほうが・・・」

「いやいや、納期がヤバイ仕事があるんだよ、帰らないと!」

俺は医者に無理を言って退院した、治療費はアズサの親が出してくれたみたいだった


「せっかくの北海道旅行がぁ~」

俺は飛行機の中で嘆いていた。

「お前が悪い、正義感で動くからそんなケガするんだぞ!」

ダイキは俺のアバラをつついてきた。

「ぐう、痛い、止めて、ホント止めてください。」

「だいたいな、折れてるんだからおとなしく入院すればいいのに。」

「バカ言うなよ、これぐらい気合でなんとかしなきゃ・・・じいさんが怖い。」

「あー、熊に負けたこと伝えていい?」

「止めて、じいさんがキレそう。」

「お前のじいさん絶対アタマおかしいぞ。」

「否定はしない!」

「あと、ミウちゃんへの近況報告はどうするつもりだ?」

「言わなきゃバレない!アバラを折ったなんて知られたら・・・」

「責められるってか。」

「わかってるじゃん、だから秘密だぞ。」

「俺は口が軽い、口止め料が必要だな。」

「な、何がほしい?」

「焼肉、俺とカズヒコに奢ること。」

「食べ放題でいいか?」

「NO!焼肉の冨田に行く!」

「そこダメ、高い所!個人店舗はやめてせめてチェーン店にして!」

「だからだよ、諦めたまえ!」

「ちくしょ~」

俺は二人に焼肉を奢った。


リョウが退院して帰った事を知らないアズサは見舞いに来ていた。

修学旅行は終わっていたが、遭難もあり親の元、リョウにお礼を言うために残っていた。

「アズサ、お見舞いに行くのに上機嫌だね」

「お父様、だって命の恩人に会いに行くのですよ♪」

アズサはリョウの意識が戻ったと聞いてから安心ともう一度会える事に浮かれていた。

「ふ~ん、それだけかなぁ~」

「もう、お父様何を言いたいのですか?」

「何でもないよ~僕としても娘の為に命を掛けてくれたお礼をしないとね。」

「そうですよ、変な事はしないでくださいね」

アズサとヨシナリは病院に着いた。

するとリョウが退院した事を聞かされる。

「えっ?リョウくん重症って聞きましたけど・・・」

アズサは混乱していた。

「はい、私達も止めたのですが、アバラぐらい二、三本折れても動けるから大丈夫、それより納期は待ってくれない、とか行って退院なされました。」

「そんな・・・」

アズサは肩を落とし落ち込んでいた。

「アズサ、リョウくんとやらに会いに行くかい?」

落ち込む娘に提案する、本気で調べたらどこの誰かはすぐわかるだろう。

アズサは少し考え、

「今はいいです、居間に会っても子供扱いされてしまいます、どうせ再会するなら、もっと魅力的な女性になってから会いに行きます!」

アズサは決意を固めていた、リョウが言った好みのタイプ、大和撫子になってから会いにいこうと。

「わかったよ、アズサの意見を尊重するよ、会いたくなったら言って、どこにいても捜し出すから」

「はい、お父様。その時はよろしくお願いしますね」


それから五年、アズサは習い事を増やし、短かった髪ものばし、リョウが言っていた、大和撫子を目指した。

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