第24話 金毛羊の村
フロントの街から東の街道沿いに馬車でおよそ五日。
金毛村という牧畜が盛んな村がある。
開拓島固有種である金毛羊という珍しい羊の飼育に成功し、いち早く特産品を生み出した村だ。
周囲一帯は広大な放牧地になっており、あちらこちらに金毛羊が放し飼いになっている。
内地であるこの辺りは海風も届かず、比較的温暖で、雪もそれほど積もらない。寒さに強い牧草も多く、放牧に適しているのだ。
金毛羊はその名の通り、金色の美しい毛並みをした羊である。成長した雄の体長は3mを超し、象にも迫る巨体となる。
とても気性が荒く、大きな角による突進は、下手な魔獣よりも破壊力がある。
実際開拓初期は手痛い反撃を受けていたが、本土から優れたテイマー達を招き、長年の苦労の末、見事調教に成功したのだ。
以来質の高い金色の毛糸や、乳から作ったチーズ等を交易品として産出しており、開拓島の中でも特に成功を収めている土地だった。
夏に毛の刈り取りを終え、しっかりと冬支度を整えた村は、ひっそりと静まり返っている。
しばらく前から街道が封鎖され、旅人の往来が無くなった為だ。
交易により缶詰等の備蓄は十分に有り、羊からも乳が取れる。付近の山からも恵みがあるため、贅沢をしなければ冬を越す分には問題が無い。
不満が有るとすれば、金毛羊を目当てにする観光客が来ない事、くらいだろうか。
しかしその日、村は久々の喧騒に包まれていた。
フロントの街から物資の補給と交易品の買取を兼ねた隊商が着いたのだ。
先日増援を乗せた軍艦が到着した事で、一部の隊商へ護衛が付けられるようになった為だ。
実に一か月ぶりにもなる来客に、俄かに活気づく村人達。
広場に隊商を招き入れ、村中に祭りにも似た雰囲気が流れていた。
「……なぁ……この記事、俺達の扱い雑じゃねぇか?」
隊商の護衛として付いてきたナインだが、目的地に着いてしまえばもう仕事が無い。早々に鎧を脱いで軽装になっている。
手持無沙汰な所を、フロントを出発する前に買っておいた新聞を思い出して読んでいたのだ。
王国新報社は開拓島にも支店を出しており、本土と同じ内容の新聞が手に入る。先日の海魔退治の一件が早速漫遊記の記事となっていた。
竜閃が取り逃した海魔を、サンデーが服従させた様子が描かれている。その内二人の戦闘描写についてはかなり簡略化されていた。
「まあ……大体事実だけどね……」
アルトは既に読み終えていたため、ナインの言いたい事はよく分かる。
「完全に引き立て役じゃねぇかこれ」
「ですよねー」
文句を言う気にもなれず、投げやりに返すアルト。
「お二人とも、こちらでしたか」
そこに一人の商人風の男が声をかけてくる。
「おう、こりゃあ旦那。なかなか似合ってますぜ」
相手を確認すると、にやりと笑ってみせるナイン。
「そうですか? それなら良かった」
男は商人の装いをしたソルドニアであった。
「あまりこういった任務は慣れていないもので、不安だったのですが」
「いや本当にお似合いですよ。大商人の若旦那って感じで」
アルトも太鼓判を押して見せる。
「ははは、先程エミリー殿にも同じ事を言われましたよ」
「やっぱり。写真も撮られたでしょう?」
「ええ、それはもう」
苦笑するソルドニア。アルトはその場面を想像して笑いを堪える。
サンデーとエミリーも、隊商の馬車に便乗して同行していたのだ。
「ともあれ、ここまでの護衛ご苦労様でした」
「なあに、本番はこの後だしな。今日はもうフリーかい?」
「そうですね。今から野営の準備に入ると日も暮れます。決行は明朝になりますね」
「了解だ。んじゃあ俺らも姐さん達に挨拶しに行くか」
「そうね、じゃあ失礼します」
ナインは手を振り、アルトは軽く頭を下げつつソルドニアの傍から離れた。
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