完全版【001】:変態は歓喜し、鬼畜無理ゲーは泪を溢す!(1)

連邦暦れんぽうれき四千五百六十七年、人類じんるいは現実の一秒が三百六十日に相当する仮想現実の世界を初めて構築こうちくした。れを成したのは医療研究機関であるインダストリア社だった。


インダストリア社は人間の機械生命体化きかいせいめいたいかを為し遂げた医療研究機関のパイオニアで、現在は不老不死ふろうふし研究に力を入れており、研究の副産物ふくさんぶつとして現実の一秒が三千百十万四千秒に相当する仮想現実の世界を創り上げた。




そうして、前人未踏の仮想現実の世界を構築したインダストリア社は、医療研究いりょうけんきゅう母体ぼたいとした多角経営たかくけいえいに乗り出し、仮想現実世界を基盤きばんとしたビジネスモデルを世界に提案し、世界は恩恵おんけいによりいちじるしい発展をげるかに見えた。


だが、恩恵おんけいを十二分に受けられたのはだった。


最大延長マキシマムエクステンション】時間での研究開発が仮想現実世界で進められる内に、仮想現実での生活と現実の生活との間での順応じゅんおう差異さいに、人間の脳の認識にんしきが耐えられ無い事が判明した。現実の一秒で仮想現実世界の三百六十日を体験後に、ログアウトして現実の生活との認識にんしきの擦り合わせが困難な事例が多発し、使は困難になった。


こうして、な現実の一秒が仮想現実世界での二十四秒を、【最大延長マキシマムエクステンション】時間とした規定が、原則げんそくとなった。


現実の一秒が【仮想現実世界の三百六十日】と【仮想現実世界での二十四秒】と比較すると格差は明らかではあるが、れでも現実の一秒が仮想現実世界では二十四倍に為る恩恵おんけい人類じんるいいちじるしい発展を与えた。




恩恵おんけいにより人類じんるい余暇よか有意義ゆういぎに過ごせるように、インダストリア社のゲーム開発部門では、数々かずかずの仮想現実ゲームを発売展開していく。




時は流れ百八十三年後、インダストリア社は、人間の脳の認識にんしきの限界を克服こくふくするシステムを完成させ、まんして現実の一秒が三千百十万四千秒の仮想現実に相当するFHSLG(ファンタジー歴史シミュレーションゲーム)【アルグリア戦記】を発表した。


FHSLG【アルグリア戦記】は、多人数参加型のゲームとして当初開発をスタートさせたが、多人数ではログイン時間の差異さいによって、プレイヤーかん連携れんけいに大きな齟齬そごが発生した。れはゲームの世界観である、歴史変革れきしへんかくを楽しむには向いていなかった。




の理由から、FHSLG【アルグリア戦記】は、一人用ゲームとして発売され、長きに渡ってゲーム愛好家マニアに愛され続けられる事となる。




連邦暦れんぽうれき四千七百五十年六月、インダストリア社は、FHSLG【アルグリア戦記】のゲーム発売を記念して、仮想現実世界でのお祭りイベントを開催かいさいすると発表した。




イベントの内容は、ゲーム挿入歌そうにゅうか一般公募いっぱんこうぼで、プロ・アマ・音楽ジャンル問わず、ゲームプレイヤーのたましいさぶる自信こそが、唯一の応募の条件だった。


開催場所かいさいばしょは、仮想現実世界【ヴァルハラ】で、審査員しんさいんはイベントに参加する権利をゆうするFHSLG【アルグリア戦記】をサービス開始前に事前購入した一千万人と、インダストリア社の主導管理脳メインマネージメントブレイン【マザーアース】だった。






世相せそうとして、仮想現実世界にいてテロ行為が多発していた。人類じんるい貧富ひんぷの差が顕著けんちょに現れる現代、富裕層ふゆうそうであるハイブランドの住民をターゲットにしたものだった。


仮想現実でのテロ行為により、精神に致命傷ちめいしょうを受け脳死するケースが多発していた。テロリストの多くは、何等いずれかの思想をもって正義を主張する者達だった。




仮想現実世界のテロリストとして、単独でのテロ行為で殺傷さっしょうした総数そうすう百万人越えのテロリストだけで結成した五人組が、当日【ヴァルハラ】のイベントにアーティストとして参加すると表明ひょうめいしていた。


アーティスト名は、【超極悪人オーバーヒール】で、世界を崩壊ほうかいさせると宣言せんげんしていた。事実、彼等かれら出現しゅつげんにより、イベントは異様いような盛り上がりを見せた。


彼等かれらの演奏にたましいさぶられ、のまま昇天しょうてんしたイベント参加者もいたが、彼等かれらの目的は違った。彼等かれらしんの目的は、【マザーアース】で、主導管理脳メインマネージメントブレインが管理するハイブランドの住民達の思考データだった。


ハイブランドの一握ひとにぎりが人類世界じんるいせかいを支配している。の多くが機械生命体きかいせいめいたいとなって、永遠の命をており、テロ対策として思考データを【マザーアース】に保存ほぞんしていた。




思考データがある限り、何度でもよみがえ機械生命体きかいせいめいたい抹殺まっさつを、テロリスト達は目論もくろんでいた。




メタルサウンドがひびき! メタルシャウトが、たましいらす!


エレキの旋律せんりつが、たましい即死そくしさせ、爆破ばくはし、誘爆ゆうばくさせる!


ベースの調しらべが、たましい存在そんざい確定かくていさせる!


弾詰たまづまりのないツーバスの連撃れんげきが、的確てきかくたましいをドラミングする!


ボーカルのさけびが、たましい直撃ちゃくげきし、さぶる!


魂の慟哭メタルサウンドが、境界線きょうかいせん無視むしし、破壊はかいし、殲滅せんめつする!


超極悪人オーバーヒール】の演奏時間四分十一秒後、仮想現実世界【ヴァルハラ】は崩壊ほうかいした。


れと同時に、インダストリア本社が大爆発を起こし、主導管理脳メインマネージメントブレイン【マザーアース】は破壊された。


世界はやみに閉ざされた。


仮想現実の世界で、人生を謳歌おうかしていた人類じんるい鉄槌てっついくだった瞬間だった。


貧困層ひんこんそうのアンダーグラウンドの住民が、富裕層ふゆうそうのハイブランドの住民に対し、少なからず溜飲りゅういんを下げた瞬間でもあった。






一月後ひとつきご、世界は、人類じんるいは、仮想現実の世界を再び構築していた。破壊された【マザーアース】に代わり、補助管理脳アシスタントマネージメントブレインの一つが主導管理脳メインマネージメントブレイン【エルダーアース】としてバージョンアップしたのだった。

 

インダストリア社は、本社爆発時に亡くなった前社長に代わり、新たに新社長が就任しゅうにんした。


新社長は、FHSLG【アルグリア戦記】のサービス開始を宣言し、挿入歌そうにゅうかには【マザーアース】を破壊し、仮想現実世界を崩壊ほうかいさせたテロリスト達の曲が、圧倒的得票差で選ばれた。


FHSLG【アルグリア戦記】は現実の一秒で、三千百十万四千秒の仮想現実のゲーム世界を楽しめる。ゲーマーと呼ばれるゲーム愛好家マニア達は、こぞって【アルグリア戦記】に乗めり込んでいった。




ファンタジーなゲーム世界で繰り広げられる戦いの歴史。アルグリア大陸を統一するのは、果たして誰なのか? 【アルグリア戦記】の公式ホームページには、初回購入者一千万人のプレイヤーネームが、ゲームの進行度しんこうどによってランキングされていた。


毎月、ランキングの順位ごとに、特別な特典がプレイヤーに授与じゅよされた。 


ランキング上位のプレイヤーはゲーマー達にとって、あこがれであり、まさしく神だった。






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師匠ししょう、俺挑戦して来ます! 鬼畜仕様きちくしようと名高い、最高の七段階目の最難度のシナリオを! 聞いてますか、師匠ししょう?』




俺は、MMOWG(多人数参加型戦争ゲーム)【矛盾バストーロ】で、師事しじしたプレイヤーネーム【クマメタル】こと師匠ししょう応答おうとうを求めた。




師匠ししょうはゲームネームと同じくイカれた人だった。【クマメタル】とは、【マザーアース】を破壊した五人組【超極悪人オーバーヒール】のリーダーの名前だった。イカれたプレイヤーネームが登録とうろくを認められた理由は知るすべもないが、正常せいじょうな人物は決して付ける事のない名前だった。 


俺は再度、師匠ししょう応答おうとうを求めたが、自分の世界にひたっているであろうイカれた変態が応答おうとうするとは思えなかった。




『カルマ! 皆殺みなごろしって、最高だな!!! 何も考える必要がない、ただ全てを殺すだけだ! なあ、カルマ?』




イカれた変態は、どうやら俺の言葉を聞いてはいなかったようだ。たしかに戦闘中のトランス状態の師匠ししょうに、応答おうとうを求めた俺が馬鹿ばかだった。




MMOWG【矛盾バスターロ】にいて、対戦相手からきらわれていた師匠ししょうは、さわらぬDQNたたしの文言もんごんままに、【凶神オーバーヒール】と呼ばれていた。




師匠ししょうの戦いのルールは、られたらかえすと言うシンプルで徹底てっていしたスタイルだった。




さわらなければ、近付かなければ何事も起こらない。れを理解した対戦相手は師匠ししょう徹底的てっていてきに無視した。ない者として空気として扱ったが、イカれた変態は『毒饅頭喰らえ攻撃しろ!』と対戦中の戦場を暢気のんき横断おうだんして見せたのだった。


何処どこの世界にも、思慮しりょの浅い新人ルーキーるものだ。 


暢気のんきに戦場を闊歩かっぽするたった一人の師匠ししょうに、何をおそれる事があるのかと攻撃を加えた。たった一人のおろものが、所属する連盟ギルド崩壊ほうかいみちびいたのだった。




矛盾バスターロ】のプレイヤー達は、師匠ししょうに対して専門の監視体制かんしたいせいを共同でき、イカれた変態が出現すると警戒注意情報けいかいちゅういじょうほうが飛びった。




師匠ししょう、今はどのキャラアバターでプレイしているんです? 俺は今度【カルマ】でプレイしますよ!』




『ふっ、ふはははは~! カルマが【カルマ】をプレイするのか? まあ、楽しんで来い! 鬼畜きちくのシナリオってやつをな! れと俺は今【ピグリス】でプレイしている。最高だぞ【マンドラゴラ】は、ふっはははは~!』




『へぇ~、モンスタープレイですか? 師匠ししょうなら、人種種族なんかそもそも関係ないですし、【アルグリア戦記】を楽しんでますね!』




『ああ、たまらないぜ! ノンプレイヤーキャラアバターも本物ほんもの同然どうぜんだしな! ただ、ゲームのエフェクト処理しょりだけが、の世界が仮想現実の中だって主張しゅちょうしている。其処そこだけが不満だがな!』




『いやいや、れがあるから安全にプレイが出来るんですよ? でないと精神がマジでられてしまいます!』




【アルグリア戦記】では、血は流れない。ただ、エフェクト処理しょりされるだけだ。傷口きずぐちからエフェクトがちるように表現されており、れはプレイヤーの精神をまもためのゲームシステムだった。




プレイヤーの精神を保護するゲームシステムの中には、感覚調整かんかくちょうせいシステムがある。




れはプレイアバターの感覚かんかく調節ちょうせつするもので、感覚かんかくを低く調整ちょうせいすれば痛覚つうかくにぶり痛みを感じなくなる。逆に高く調整ちょうせいすれば感覚かんかく鋭敏えいびんになり、少しの痛みも激痛げきつうに感じる。ゆえ感覚調節かんかくちょうせいシステムの設定を高くする場合は、全ての責任の所在しょざいをプレイヤーであると認め、了承りょうしょうした者だけが感覚調整かんかくちょうせいで三十パーセント以上に調整ちょうせいが可能になるのだった。


ただれはプレイヤーみずからが、おのれ生殺与奪せいさつよだつけんを【アルグリア戦記】に譲渡するサインでもあった。ゲーマーの中には、ゲームに命を文字通り賭ける命知らずのプレイヤーも多く存在した。


の命知らずのゲーマーを、人は【廃人アウトダイバー】と呼んだ。




俺の感覚調整かんかくちょうせいは百パーセントで、鋭敏えいびんぎる感覚かんかく即死そくしレベルの激痛げきつうを感じる事も、常人じょうじん以上の能力を発揮はっきする事も可能だった。


有識者ゆうしきしゃの間では、【アルグリア戦記】はゲーム形態けいたいいて、レベル制なのかスキル制なのかと当初とうしょ議論ぎろんされたが、結論けつろんとしてはリアルシミュレーション制とでも言うべき形態けいたいだった。


レベル制とは、レベルが上がれば上がるほど強くなるシステムで、レベル差が戦いの勝敗しょうはいけっするゲーム形態けいたいだ。


スキル制とは、スキルの特異性とくいせい熟練度じゅくれんどと組み合わせにより、戦いの結果が左右されるゲーム形態けいたいだ。


リアルシミュレーション制とは、レベル制の能力値とスキル制の技術の組み合わせのみょうを元にしたシステムで、現実で修得しゅうとくしている技術をレベル・スキルのアシスト無しで、実現可能なゲーム形態けいたいだった。


所謂いわゆる、リアルチートとわれるプレイヤーが有利なゲーム仕様だった。




レベルの強さとスキルの強さの絶妙ぜつみょうなバランス調整ちょうせいの上で成り立つ【アルグリア戦記】が、神ゲー(神の如き高評価の面白いゲーム)とわれる由縁ゆえんは、ゲーム製作会社の開発職人クリエーター達が本気で本物を創り上げる為に、で【アルグリア世界】を創造したからだった。




インダストリア社の新社長も、熱く語っていた。




『プレイヤーである君達に問う! 異世界に転生したくはないか? 人生をやり直したくはないか? 君達の行動次第で【アルグリア大陸】の歴史をおのれいろなおせ! 人生がやり直せないって誰が決めた? 俺が許そう、自由に生きろ! 君達が何色に染まろうと自由だ! ・・・・・・だが、のゲーム世界がもしかしたら現実世界ではと、疑いを君達が持った時、ゲーム世界は現実世界に変わる。そして君達は気付くだろう【アルグリア世界】が君達のもう一つの現実世界だと! 君達自身でゲーム世界【アルグリア戦記】が、の現実世界だとたしかめろ! プレイヤー達よ、おのれの全てをアルグリアの歴史にきざめ!』 






FHSLG【アルグリア戦記】の世界には四十七の人類じんるい国家こっかが存在し、その住民キャラアバターの一人をプレイして、大陸の統一とういつ制覇せいはを目指してゲームは展開てんかいする。


ただし、アルグリア語を話す人類じんるいの国が四十七国家であり、アルグリア語を話せない所謂いわゆる、モンスターとわれる魔物にもコミニュニティーが存在した。


プレイヤーの中には、モンスタープレイにまる者も多く、シナリオの進め方によっては【十の災厄アンタッチャブル】と呼ばれる、アルグリア大陸に十個体しか存在しないユニーク個体でプレイする事も可能だった。




『では、師匠ししょう! 楽しんで来ます!』




『おう、楽しんで来い! またなカルマ!』






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俺はカルマとの通信つうしんを切り、目の前の自分がした結果を、唯々ただただ見つめていた。人類じんるいわれるアルグリア語を話す者達が、自分達の正義を振りかざした結果が広がっていた。




死屍累々ししるいるいしかばねが横たわる戦場において、動くものは自分以外には存在をしない。阿鼻叫喚あびきょうかん地獄じごく絵図えず其処そこ顕現けんげんしていたのだった。




よくやるよ、カルマ。鬼畜仕様きちくしようのマゾシナリオなど、何が楽しくて挑戦ちょうせんするのか、俺には全くカルマの気持ちがわからなかったが、アイツはゲーム馬鹿ばかだったとう理由で納得なっとくはした。




現実の人生全てをゲームにささげた廃人アウトダイバーの中の廃人アウトダイバー、【廃神オーバーアウト】と呼ばれるゲームのうの変態がプレイヤーネーム【カルマ】の正体しょうたいだった。 




『もう一つの現実世界ねぇ、ふん、くだらない! 肉をち、熱くてつくさい血をびるよろこびが無くて、何が現実だ! 本物の血のにおいとは、全くてねえじゃねえか!』




プレイヤーネーム【クマメタル】は、そう毒突どくづくと虹色にじいろの体をうごめかせながら、プレイアバター【ピグリス】として花弁かべんを大きく開き、自分以外の生物を体内に取り込み消化しょうかさせていった。




アルグリア大陸の四十七人類じんるい国家及び数多あまたのモンスターコミュニティーを掌中しょうちゅうおさめずに、全ての勢力を倒す殲滅せんめつプレイヤーである【クマメタル】にとって、【アルグリア戦記】とは息抜いきぬきにほかならない。


攻撃されなければ、攻撃をしないルールを持つ【クマメタル】は、俺を攻撃しろ、毒饅頭どくまんじゅうらえと、移動不可能いどうふかのうはずの【マンドラゴラ】で、今日も暢気のんきに【アルグリア大陸】を闊歩かっぽしていた。






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「マスター! マスター! 起きて下さい!」




大声で俺を呼び続ける声に反応をして、目を覚ました。




「う、うん? どうしたんだ、ミリィ!」




状況判断が出来ないままで、呼び声の主に俺を起こすと言う、暴挙ぼうきょの理由をたずねた。 




栄養摂取えいようせっしゅ、運動、シャワーをお願いします!」




ああ、俺が頼んでいて、どうしたんだもないよな。




俺は現実の世界に舞い戻り、現実の身体に栄養補給えいようほきゅうと、適度てきどな運動後にシャワーを浴びる為に、きしむベッドチェアーから降り立った。【仮想現実装置ダイブトリッパー】を右耳から外した俺は、【家庭用自動人形オートドール】ミリィに食事内容をいつものように丸投まるなげして、重力運動室トレーニングルームのドアを開け日課にっかの運動を始めたのだった。




「ミリィ! 明日も同じように、よろしく! じゃ行って来る!」




俺は最低限の身体のメンテナンスと栄養補給えいようほきゅうをして、再び【ダイブトリッパー】を右耳に装着そうちゃくし、「ダイブ!」とつぶやき仮想現実の世界へ意識をばした。




「いってらっしゃいませ、マスター!」




【オートドール】であるミリィは、いつも通りマスターを仮想現実世界に送り出し、室内の清掃せいそうを始めるのだった。




容姿ようしは、何処どこから見ても黒髪の美少女のもので、透き通る白肌しろはだまとう白と黒のメイド服が、一部の嗜好家しこうかにはたまらない雰囲気ふんいきかもし出していた。






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『ぽ~ん♪ マスター、ようこそ仮想空間へ! 本日のご用命ようめいを、おうかがいします!』




仮想現実の世界の入口である【ポータルサイトの案内人】の【ナリア】が、いつものごとく行き先をたずねる。




『やあ、ナリア! 【アルグリア戦記】で頼む!』




あおひとみあお毛玉けだまごとたぬきが、了解りょうかいとばかりに、空中くうちゅう可愛かわいらしくうなずく。




『いってらしゃいませ、マスター!』




『ああ、行って来る!』 






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『【カルマ】さま! ようこそ、【アルグリア戦記】へ! 本日はどのシナリオで、アバタープレイを始められますか?』





純白じゅんぱくの空間に浮かぶ執事服に身を包んだ黒猫の姿の、【アルグリア戦記の総合案内人】である【ジョドー】が、慇懃いんぎんな動作でカルマを迎えた。




『ああ、ジョドー。今回は【創造神の試練】の【カルマ】でプレイするよ!』




『なるほど、愈々いよいよと言うところですか、【カルマ】さま。【アルグリア戦記】ランキング一位トップのご出陣しゅつじん、私ジョドーも胸が高鳴ります!』




全く感情を表に出さないポーカーフェイスの執事に、カルマは内心ないしん苦笑くしょうをしながらも、ゲームスタートの準備を始める。


従来じゅうらいであれば、シナリオを選択し、プレイアバターを選択後にカスタムをするところだが、生憎あいにく【創造神の試練】の選択アバターは、シナリオ限定アバター【カルマ】のみで、カルマ以外に選択肢せんたくしがない。


どころか、能力値(筋力・耐久力・知力・敏捷・器用・魅力)が【1】で固定こてい(個体レベルが上がっても能力値は一切いっさい上がらない)で、スキル(才能)も【0】で固定こてい(スキルを一切いっさい修得しゅうとく出来ない)、おまけにアイテムの持ち込みも不可ふか子孫しそんでの継承けいしょうプレイも不可ふかしば要素ようそかたまりが、鬼畜きちく仕様しようのシナリオ【創造伸の試練】だった。




『現在までだれ一人ひとりとして、クリアしたプレイヤーがない【創造神の試練】をクリア出来るのは、【カルマ】さまをいてほかにはられないと愚考ぐこうします』




執事の言葉には、うれいがあった。顔には全く表さない感情かんじょうが、ノンプレイヤーキャラアバターであるジョドーのこころうちにあった。




【アルグリア戦記の総合案内人】であるジョドーとしても、だれ攻略こうりゃく出来ないシナリオは、プレイヤーからのクレームも膨大ぼうだいだった。


AI(人工知能じんこうちのう)搭載のジョドーがサービスを提供ていきょう同時どうじ接続せつぞく接客せっきゃく対応たいおうしている)するプレイヤーは、一千万人。もう直ぐ第二陣として、加えて一千万のプレイヤーを迎える執事としては、頭が痛いところなのだろう。




『ははは、ジョドーの期待に応えられるように、楽しんでくるよ!』




『ありがとうございます! 【カルマ】さま、準備が整いました! !』




『行って来ます!』




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「おぎゃああああああああああああああああああ~!」




「マルナよくやった! 元気な男の子だ! ・・・・・・よし! 【カルマ】と名付けよう!」




「カルマ、うっ、うう・・・・・・生まれてき、てくれて・・・・・・あり、がとう~」




れが、【創造神の試練】か、始まりは案外あんがいほかのアバターと、あまり変わりはないようだな。

 



下調べは勿論もちろんしていない。そんな勿体もったいない事は出来ない。どんな困難こんなんが待ち受けているのか、想像そうぞうするだけでごはん三杯さんばいえるな!




何々なになに、現在地はマルカ王国の辺境へんきょうのラック村か、両親は父親が【カリトリアス・エルブリタニア】で、母親が【マルゲレーナ・アルバビロニア】・・・・・・え、マジか! マジですか? そうですか・・・・・・


の【アルグリア大陸】には、四十七の人類じんるい国家こっか数多あまたのモンスターのコミュニティーが存在する。【アルグリア戦記】はの中から、プレイアバターを選択してゲームを始める。


ゲームクリアとは、全ての勢力(人類じんるい国家こっかとモンスター)を支配下に置きアルグリア大陸を統一とういつ制覇せいはする事だった。


人類じんるい国家こっか大陸たいりく統一とういつ制覇せいはの可能性が、戦力的に高い国家がいくつか存在した。の内の二つの国家こっかの名前が、俺の両親の家名かめいにある。


【アルバビロニア大帝国】、エルフが統治とうちするアルグリア大陸のほぼ中央に位置する軍事ぐんじ超大国ちょうたいこくだ。


【エルブリタニア帝国】、アルバビロニア大帝国と同じくエルフが統治とうちする強国きょうこくで、二つの国は隣接りんせつしている。


大国たいこくの二つが俺の実家じっかと言う事になる。もうヤバい感じしかしない。見るからに粗末そまつな部屋に大国たいこく皇子おうじ皇女おうじょって、もうちしかないじゃないですか~!


あ、あれ、ちょっと待てよ。れって最高の家柄いえがらじゃないか! 上手くやれば、どっちの国も継承けいしょう出来る血統けっとうって事だ。




でも今までだれ一人ひとりとして、プレイヤーはクリアーしていない。の事実から、プレイアバター【カルマ】に掛けられた、しばりの過酷かこくさがうかがえる。

 



れでは、お待ちかねのステータス確認と行きますか! 俺は脳裏マインドに自分のステータス情報を表示した。




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【情報表示】:▼


氏名NAME:【カルマ】


個体LV:【1】


備考:▼


年齢:【0歳】


種族:【森精霊人エルフ普精霊人ヒューマン混血クオーター


身分:【未設定】


職業:【未設定】


称号:【未設定】


才能スキル:【0】※封印ふういん


説明:▼

運命うんめい宿命しゅくめいもう


【状態表示】:▼


生命力HP:【6/6】


魔力MP :【8/8】


精神力MSP:【9/9】


持久力EP:【3/3】


満腹度FP:【11/100】


【能力表示】:▼


筋力STR  :【1】※封印ふういん


耐久力VIT :【1】※封印ふういん


知力INT  :【1】※封印ふういん


敏捷AGI  :【1】※封印ふういん


器用DEX  :【1】※封印ふういん


魅力CHA  :【1】※封印ふういん



【部隊編成表示】:▼


統率力LEA:【未設定】


攻撃力OFF:【未設定】


防御力DEF:【未設定】


機動力MOB:【未設定】


持久力END:【未設定】/【未設定】


戦法力TAC:【未設定】/【未設定】


士気力MOR:【未設定】/【未設定】


詳細:▼


主将:【未設定】


副将:【未設定】


副将:【未設定】


部隊:【未設定】


戦法:【未設定】


特性:【未設定】


説明:【未設定】




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なんだ、封印ふういんって? ふうじているなら、もしかしたら、解けるって事じゃないか、しばりが解けるなら楽勝らくしょうだけど、其処そこまでやさしくはないな。れなら、そもそも、ランカーがクリア出来ないのは可笑おかしい。




なんだかワクワクするな! れじゃ、恒例こうれいの生命力と魔力と精神力上げとまいりますか!




はぁぁぁぁぁぁぁぁ~、ふぉぉぉぉぉぉぉぉ~、丹田たんでんから身体中を魔力で循環じゅんかんさせ、魔力を操作そうさする。従来じゅうらいの二つの動作で、スキル【魔力循環まりょくじゅんかんLV1】と【魔力操作まりょくそうさLV1】が獲得かくとく出来たが・・・・・・




はてさて、封印状態ふういんじょうたいでスキルは修得不可しゅうとくふか何処どこまで生命力と魔力を上げれるかが重要じゅうようなポイントとなる。




魔力をわざ枯渇こかつさせて、生命力を魔力に充当じゅうとうし生命力ギリギリを攻めるやり方で、従来じゅうらいはスキル【魔力回復まりょくかいふくLV1】・【生命力回復せいめいりょくかいふくLV1】・【精神耐性せいしんたいせいLV1】・【痛覚耐性つうかくたいせいLv1】が獲得かくとく出来た。


だが、スキル修得不可しゅうとくふかでは、只々ただただ激痛げきつうに苦しむだけかも知れない。まあ、れでもやるんだけどね。




赤ん坊では、出来て匍匐前進はいはいくらいだから、スキル【肉体強化にくたいきょうかLV1】が獲得かくとく出来ない状態じょうたいで、たして何処どこまで、持久力をきたえられるか。スゲぇドキドキする!





おっと、満腹度が危険域ハザードエリアに達しそうだ!




「おぎゃああああああああああああああああああ~!」




「よ~し、よしよし~おなかいたの~? 泣かないで~」




ウグウグっ! ・・・・・・かあちゃん、・・・・・・母乳ぼにゅう美味うまぎる・・・・・・、ゲポっ!




よ~し! やるぞ~! 脳裏情報マインドインフォメーションに浮かぶ、魔力の自然回復数値の時間と消費数値のバランスが重要コツだ。


身体の内と外に魔力を流す、従来じゅうらいれで、スキル【肉体強化にくたいきょうかLV1】が獲得かくとく出来るのだが、封印ふういん修得しゅうとく不可ふかだし、魔力枯渇まりょくこかつに生命力を魔力に充当じゅうとうする行為は、激痛げきつう只々ただただあじわう拷問ごうもんのような行いだった。 


普通の神経しんけいの持ち主なら、絶対にしようとも思わない。おまけに、感覚調整かんかくちょうせいシステムの推奨すいしょうパーセンテージ三十(それ以上は精神に何等なんらかのダメージを与える)のところを、百パーセントに設定している。


れでも嬉々ききとして、激痛げきつうの先の夢想むそうするだけで、しあわせなのがプレイヤーネーム【カルマ】だった。




「なあ、マルナ。カルマから魔力の波動はどうを感じないか?」




「ええ、感じるわ~。流石さすが、私達の子供ね~」




「だよな! 俺もそう思ってたんだ! はっははは~!」




良かった、とうちゃんもかあちゃんも天然てんねん設定せっていで、助かった~! 


神経質しんけいしつな両親の場合、最悪さいあく気味きみわるがられて捨てられた経験をしているカルマは、ホッと胸をろしたのだった。








やく半年はんとしほどった頃、運命シナリオ歯車はぐるまが、ついに動き出した。カルマは逸早いちはや異変いへんを感じ取っていた。生後せいご十日とおかぎくらいに、不審な六人一組シックスマンセル斥候部隊せっこうぶたいがラック村に隠密潜入ステルスしてたからだ。




何故なぜ、身動き取れない赤ん坊の身でそれが解ったのか、れはゲームシステムの恩恵おんけいだった。脳裏マインドに浮かぶ周辺地図しゅうへんちず脳裏地図マインドマップ)で、簡単に味方と敵を識別しきべつ出来た。人物情報で、所属している勢力も解る。全て情報表示で数字と文言もんごんで確認出来るからだった。




の【アルグリア世界】の住民からしたら、十分チートな能力だった。鑑定系かんていけいのスキルがあれば、もっと詳細しょうさいに情報を獲得かくとく出来るが、無くても十二分じゅうにぶんにありがたい力だった。




カルマとしては、両親に異常いじょうを伝えたいところだったが、伝えるすべが無かった。言葉は「あぅあぅあぅ!」くらいしか話せず、筆記ひっきで伝えようにも、何故なぜか物が持てない! 流石さすがに筋力【1】ポイントでも羽ペンくらい持てるはずだが、持てない。地面に書こうにも、外は極寒ごくかん氷雪地帯ひょうせつちたいだった。




異変いへんを知らせる事が出来ずに、つい運命シナリオの日を迎えた。

 




「うわぁぁぁ~! 盗賊とうぞくだぁ~! 襲撃しゅうげきだぁ~!」




「ぎゃあああああ~!」




ラック村は、盗賊とうぞくよそおった武装集団ぶそうしゅうだん襲撃しゅうげきを受けたのだった。父親のカルスは、の声を聞くやいなや、母親のマルナと赤ん坊のカルマを逃がすべく行動に移した。


こんな寒村かんそん限界集落げんかいしゅうらくに、夏期かきでも雪が溶けない豪雪地帯ごうせつちたいを超えて、盗賊とうぞくが来るなど、自分達親子が目当めあてだとしか、カルスには思えなかった。




「マルナ! どうやら囲まれているようだ! 俺がおとりになる、お前はカルマを連れて逃げろ!」




カルスとの一瞬いっしゅん目配めくばせで、マルナはカルマをき、うなずき返す。




「解ったわ! カルス、死んじゃ駄目よ! 直ぐ追い掛けて来てね!」




「ふっ、閃光せんこうわれた俺だぜ! 直ぐ追い付くさ!」




「カルマ、お出掛でかけしましょう?」




「ははは、とんだお出掛でかけだ! 直ぐ追い付く! マルナ、カルマを頼んだぞ! 愛してる!」




「カルス! ・・・・・・」




二人は抱き合い、接吻せっぷんわし屋外おくがい慎重しんちょうに出たのだった。外は盗賊とうぞくよそおった集団によって、家は燃やされ、住民は問答無用もんどうむようで殺されていた。




裏山うらやまから、ハルベルト山脈に抜ける道に、山小屋がある! 其処そこで落ち合おう!」




そう言いはなつとカルスは、剣をにぎめ、住民をおそっている明らかに訓練を受けた集団にんで行った。


の言葉を聞くと同時に、マルナはカルマをかかえ、裏山うらやま道無みちなき道を進むのだった。






とうちゃん、いくら昔は冒険者で鳴らしたと言っても、相手は殺しを専門とする暗殺部隊あんさつぶたい百名が相手だ! 勝ち目は無いよ!


情報が全て解るカルマは、冷静に状況を分析ぶんせきしていた。


あれ、れってヤバくない?




「はぁ、はぁはぁはぁ!」




かあちゃんも運動うんどう不足ぶそくで体力が落ちてるから、追手おってを振り切れるかは難しい。


くっ、父ちゃんがられた!


脳裏地図マインドマップの父親のしるし灰色はいいろに変わる。そして、母親と自分の青色のしろしに迫る、敵の赤色のしるし


の赤色のしるしが、点滅てんめつをし始めたのを確認したカルマは、追手に追いつかれた事を知った!




「はぁ、はぁはぁ。カルマ、貴方あなたは私が守る!」




いつもおっとりした母親の決死けっし覚悟かくごが、カルマの集操感しょうそうかんを押し上げる。




ヒュ―――――――! ガッ!




「当たったぞ! 追え逃がすな!」




「「「はっ!」」」




矢を右肩に受けたマルナは、れでもカルマさえ無事なら問題ないと、雪の道を逃げ進む。




「おい、其処そこまでだ!」




マルナは追い詰められていた。道無みちなき雪にもれた山道は、女の身で追手おってを振り切る事は出来なかった。 




貴方あなたたち一体いったい何者なにもの? 間違っても盗賊とうぞくでは無いわね?」




「ふっはははは! れを知って如何どうする? 今頃は【カリトリアス】殿下でんかも、の世とお別れしているだろうよ! 安心して、親子三人で冥府アンダーワールド旅立たびだて!」




「おい、しゃべぎだ!」




かまうものか、どうせ此処ここで死ぬんだからな!」




貴方あなたたち、私がだれか知らないようね?」




「ああ、知る必要が無いからな! 死ね!」




暗殺者あんさつしゃがマルナに殺到さっとうしようとした時、後ろへ後退あとずさったマルナの足下がくずれ、マルナが悲鳴ひめいげながら峡谷きょうこく谷底たにぞこへと落ちて行く。


 


「ちっ! 手間てまを掛けさせる! 死体は回収かいしゅうする命令だぞ!」




仕方しかたない、りるぞ!」




「お前は、かしら報告ほうこくに行け!」




「はっ!」




四人の暗殺者あんさつしゃたちは、即座そくざに行動にうつった。一人は本隊ほんたいに状況を知らせに。残りの三人は母子ぼし遺体いたい回収かいしゅうする為に。

  







くっ、此処ここ何処どこだ? あっ、かあちゃんは?




あっ、かあちゃん・・・・・・!




母親は子供を守る為に、魔力で自分の身体では無く子供をつつみ、子供を優しくかかえながら、守るように死んでいたのだった。




「あぅあぅあぅ・・・・・・」




カルマの声はははには、もう届かない。カルマ自身も極寒ごくかん谷底たにぞこでは、ままではこごぬしかない。




追手も諦める気配は無い。脳裏地図マインドマップの赤色のしるしが、カルマの青色とマルナの灰色はいいろしるしを、目指して近付いて来る。




そんな状況でも、カルマは冷静に分析ぶんせきを開始する。現在地の確認。追手おって到着とうちゃく予想よそう時刻じこく。自分のHP(生命力)。自分の身体の調子。全てを確認したカルマが出した結論けつろんは、に向かう事だった。





運命シナリオには、必ず思惑おもわくがある。げきなら演出家えんしゅつかの。映画えいがなら監督かんとくの。小説しょうせつなら作者さくしゃの。の世界|(ゲーム)なら神(運営)の思惑おもわくが必ず存在そんざいする。




無ければゲームが進まないし、面白くないと確信するゲーム脳の変態は、常人じょうじん思考回路しこうかいろとは別の思考で、自分独自じぶんどくじの答えをみちびす!







カルマは自分のみちびした答えに向かって、匍匐前進はいはいを開始する。此処ここからは時間との戦いだった。


かじかむ身体で、こごえる手足で、赤ん坊は一心不乱いっしんふらん匍匐前進はいはいで進む。


脳裏情報マインドインフォメーションに浮かんでいるのは、HP(生命力)の残数値ざんすうちと、匍匐前進はいはいのスピードを上げるために使用するMP(魔力)数値、スピードを維持するEP(持久力)数値、そして燃料であるFP(満腹度)数値だった。


極寒ごくかんえはHP(生命力)を、極寒ごくかんいたみはMSP(精神力)を徐々じょじょけずっていく。かじかむ手足が、徐々じょじょ機動力きどうりょくを落としていく。スピードを上げるMP(魔力)を使用すると、FP(満腹度)の減りが早くなる。スピードの強弱きょうじゃくによって、EP(持久力)が下がっていく。 


手足の感覚かんかくも、寒さですでに無い。身体を動かしているようで、動いている気がしない。




ヤバい!




<<個体名【カルマ】のHP(生命力)が【0】になりました!>>




あっ!





----------






「お帰りなさいませ、【カルマ】さま。プレイ時間は【百八十一日十八時間二十五分十三秒】でした。プレイ結果によって、獲得かくとくした英雄えいゆうポイントは【三百七十七】です! リスタートされますか、それともプレイアバター【カルマ】でのプレイを終了されますか?」




ふー、全く駄目だった。雪の降り積もっている中を、闇雲やみくもに進むのは自殺行為じさつこういだ。先ず吹雪ふぶくといきが出来ない。


必ず正解せいかいのルートがあるはずだ。考えてみれば、解る事だ。マルカ王国の辺境へんきょうの村、ハルベルト山脈、答えはに必ずある。ふっふふふふ。楽しい、久々ひさびさにワクワクが止まらない。




「・・・・・・リスタートのようですね、【カルマ】さま? 最高さいこう難易度なんいどのシナリオは、如何いかがだったでしょうか?」




「ああ、勿論もちろんリスタートで頼むよ【ジョドー】! 最高に興奮こうふんしたよ! 最高さいこうのシナリオだ!」




無表情の執事が間抜まぬけにも、口をアングリとけたまましばかたまっていたのは決して錯覚さっかくでは無かった。 




「・・・・・・ゴホン! 左様さようでごいましたか、お気にして頂いたご様子。のジョドー、感無量かんむりょうにごいます! 準備が整いました! !」




「ありがとう、ジョドー! 行って来るよ!(へぇ、以外にも、バリエーションがあったんだ!)」




【カルマ】の身体が、徐々じょじょにエフェクト処理しょりされ分解ぶんかいされて、消えて行く。


【アルグリア戦記の総合案内人】であるジョドーは、プレイヤーネーム【カルマ】を見送った後、現在プレイ中の一千万のプレイヤーの中で、鬼畜きちく最高さいこう難度なんどのシナリオ【創造神の試練】をプレイ後に、クレーム以外の言葉を、してや賛辞さんじの言葉を、初めて聞いた事にようやく気が付いた。




「くっくくくく。色々いろいろ常人離れアウト過ぎて、禁止きんし事項じこう斜め上を行くオーバー流石さすがは【廃神オーバーアウト】と呼ばれる【カルマ】さまです。のジョドー、!」






----------






「おぎゃああああああああああああああああああ~!」




「マルナよくやった! 元気な男の子だ! ・・・・・・よし! 【カルマ】と名付けよう!」







【アルグリア戦記】には、セーブ機能きのうは存在しない。全て最初からのスタートとる。で、セーブなどは出来るはずもない。此処ここは【アルグリア世界】、もう一つの現実の世界。現実の一秒が、三千百十万四千秒に相当そうとうする仮想の現実世界。現実の一時間が、百二十九万六千日(三千五百五十年と二百五十日)に相当そうとうする【悠久ゆうきゅう歴史れきしきざ世界せかい】。




たして、【アルグリア世界】は、仮想の現実世界なのだろうか? れとも、実はもう一つの現実世界【異世界いせかい】なのだろうか? の答えは【プレイヤー】だけが知っている。








To be続きは continuedまた次回で! ・・・・・・

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