第78話 『復興祈念駅伝』から:何にも役に立たない活動から学ぶこと

 毎年3月に行う僕の社会活動のひとつが、『復興祈念駅伝』の開催だ。

 福島県南相馬市と浪江町とを貫いている旧国道の一部、30キロを3区間に分けて走る。原発事故によって分断されたエリアを、再び一本のタスキでつなぐというものだ。1人10キロ前後ということになるから、それなりの距離はある。

 募集を呼びかけたところコロナ禍にもかかわらず、県内外40人の参加をいただいた(スタッフを含めると60人)。


 毎年参加してくれるリピーターのなかで、今年はじめてという人の割合もまあまあ多かった。

 理由を尋ねてみると、「東京から復興支援に来ていたところ、たまたまこのイベントを知った」という人や、「以前に参加した友人に『面白いから出てみよう』と誘われた」という人に混じって、「ほとんどが潰れるなかで決行するイベントは珍しい」なんていう、主催者冥利に尽きることを言ってくれる人もけっこういた。


 そうなのだ、皆さんイベントに飢えているのだ。

 僕自身、さまざまな会議や催しが中止されるなかで、「無駄な集まりが減ることは悪くない」なんて悠長なことを思っていたが、多少のイベントごとは、やはりあってもいいのかもしれない。


 そんなはじめての参加者がいる影響からか、今年のランナーの雰囲気は去年までとは少し違った。悪いことではけっしてないのだが、つまり今年は、ジョギングや運動を習慣化していないものが多かった。

 マラソン大会や駅伝なんていうのは、経験者というか、走りを楽しんでいる人の参加が多いと思うのだけれど、「マラソン大会に出たのは10年前です」とか、「いや、普段はぜんぜん走っていません」とか、「誘われたので、とりあえず出てみようかと思って」とか・・・・・・、マラソンを舐めているとしか思えない人の参加も多かった。


 スタート30分前になっても屋内から動かない。

「30分前になれば、普通は準備体操とか、軽いウォーミングアップをはじめるんですけどね」と言ってみたところで、「風強いし、体操で余計な体力を使いたくないし・・・」というような返答だった。そして、10分前になってようやく上着を脱ぎだすという始末だった。

 興味本位で来たという人は、マラソン大会のなんたるかがまるでわかっていない。こんなんで10キロ走れるのかと不安がよぎったが、まあいい。やるだけやってもらうしかない。


 結果は案の定、例年よりリタイアが多かったものの大きなトラブルはなく、なんとかやり遂げることができた。


 ある男性参加者の感想は、「走ることは大嫌いだ。特に長距離を走るなんて正気の沙汰とは思えない。でも、普段ぜんぜん練習していないのにこの日だけは走ろうと思っている。復興支援なんてものは頭で考えるものじゃない、身体で反応するものだ。一人だったら絶対に走ろうと思わない距離を、皆でなら達成することができる。だから、毎年死ぬ思いだけれど懲りずに参加している」だった。


「だったら、普段から練習したら」と思うのだけれど、彼のような覚悟を持つのも悪くない。


 はじめて参加したはいいいが、残念ながらリタイアした女性からは、「“震災から10年”という記念と思って参加しました。ところが膝が崩壊して完走できませんでした。実践は甘くなかったです。自分に負けた・・・、悔しかった・・・。でも、みんな優しかったから救われました」というものだった。


「だったら、練習してからくれば」と思うのだけれど、彼女のように悔しがるのも悪くない。


 今年の参加者に触れてわかったことがある。

『復興祈念・・・』という名前は冠せられているが、有志者を募って開催しているこのイベント自体に何の力もない。走っても何も変わらない。もちろん復興に結びつくこともない。走る行為の基本は自分との闘いだし、もっと言うと自己満足だ。

 でも、きれい事になってしまうけれど、力を合わせれば、というか周りに触発されることによって自分一人ではできなかったことが成し遂げられる。逆に、一緒に走るからこそ、成し遂げられなかったことへの悔しさが増す。


「何にも役に立たないけれど、個人の内面を鍛えるだけの、そういう復興支援があってもいいではないか・・・」、と開き直ろうとしたのだが、皆の態度を見ていると、きっと復興というのはそういうことで、「誰かのために何かをするのではなく、自身の信念を貫こう、己の弱点に気づき少しでも向上しようとすることこそが本当の意味での復興なのだ」と感じた。

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