中々始まらない……
▲
「風紀委員のみなさん。それに麗奈さん、おはようございます!」
いつもの爽やかさを取り戻した船岡が、国見以外を『その他』扱いするような挨拶をした。
一緒に生ゴミの清掃も済ませちまうか……。
「お、おはようございますッ!」
そのあとに琴葉が、部活で自然に鍛えられたであろう声量で挨拶を口にした。
「それでは、生徒会メンバーも集まったことですし、清掃活動を始めていきましょうか」
「まさか、好感度を上げようという魂胆ではないだろうな……?」
「そのような低能な考えはしません。本日ワタクシは、副会長の岩沼さんから早朝に提案を受けまして、意見を尊重するため実行に移したまでです」
「ほぉ、では岩沼。今回清掃活動を提案した理由はなんだ?」
「はぁい。日曜日って暇なのでぇ、無駄に一日過ごすよりかは学校周辺を掃除してぇ、綺麗にしたいなぁって思ったんで~す!」
豪く真面なことを言っているが、妙に引っ掛かるのはどうしてなのか……。
「そうか。だとしたら、互いに清掃範囲を決めておいたほうが良さそうだな」
「その必要はありません」
「は? どうしてだ八乙女?」
「町内を綺麗にするのも貢献にはなりますが、ワタクシはどうしてもアナタと同じ内容の事をしたくありませんので、生徒会は校舎内の清掃を致します」
「…………(ビキッ)」
なぁんでこの人は委員長を怒らせるのかなぁッ!?
「え……ちょっと会長ぉ、待ってもらって良いですか~?」
「どうしましたか、岩沼さん?」
「あのぉ、えっとぉ……生徒会も町内のお掃除にぃ、しませんか~?」
会長が掃除場所を変更してから、コハ姉の様子がおかしくなった。
動揺し、こちらと同じ場所での活動を希望している。
うん、大体分かった……。
コイツ、俺と一緒にいたいためだけにボランティア清掃を会長に提案したんだな!?
これは決して惚気じゃない……怪談話だ……。
「申し訳ありません。せっかくの主張ですが、それは通せません。新田さんと一緒のことをするなど虫唾が走ります」
「で、でしたらぁ、ウチだけでも町内の清掃に移ってもぉ、良いですか~?」
「イケません。アナタ一人が欠ければ校舎内は人手不足になってしまいます。いくら提案していただいたとはいえ、勝手な我がままは許しません」
委員長と同じ場所で活動したくないから活動場所を校舎内に移したアナタの考えは、我がままと言わず何と言うのでしょうかね。
特大ブーメラン刺さってますよ。
「あのッ!」
「はい、泉さん。どうされましたか?」
「あ、アタシも町内清掃のほうが良いですッ!」
コハ姉に続き、琴葉も清掃場所の変更を希望してきた。
「どうしてでしょうか?」
「えっとあの……広いからです!」
「広い……から……?」
「そうです! 風紀委員って四人しかいませんし、四人で広い町内の清掃とかしたら、きっと夕方まで掛かってしまいます」
どこまで掃除すると思ってるんだコイツは。
「泉さん。そこまで掃除の範囲は広くないので、心配しなくても大丈夫ですよ?」
国見が優しく訂正しに来るも―。
「いいえ! 広くなくても絶対大量のゴミが落ちてるので、人数がいないと回収できません! そうですよね、岩沼先輩ッ!」
「え、あ、そうそう! ぜ~ったいゴミがいっぱ~い落ちてますからぁ、大人数でやったほうが効率的ですよ~?」
それほど広くない範囲で四人でも回収困難な大量のゴミ落ちてたら、それはもう専門業者が動いてくれるのではないのだろうか……?
最悪行政が動くぞ。
「そうですか……。それほどまでに二人が町内を綺麗にしたいのでしたら、認めます」
「「…………!」」
珍しくコハ姉と琴葉がハイタッチしている。あの仲良さも明日には消滅しているだろう。
「それでは、白石くんを含めて三人で校舎内を掃除しましょう」
一難去ってまた一難。
「オイふざけるな……。白瀬は元々風紀委員の町内清掃でここに来たんだぞ……。勝手に来ておいて勝手に活動場所変えて勝手に人員持っていくな」
まったくだ。
委員長もっと言ってやってください!
「仕方ないじゃないですか。そうなるとワタクシと船岡くんの二人でこの広い校舎を掃除しなければならないのですよ? 岩沼さんと泉さんがいなくなった今、頼りにできるのは船岡くんと白石くんしかいませんから」
「「校舎内清掃に戻りますッ!」」
コハ姉と琴葉が口を揃えて思考をUターンさせやがった。
お前らこれが高速道路だったら事故数件起こってるぞ。
「あら、どうしてでしょうか?」
「やっぱやっぱ、狭い範囲ならそんなゴミも落ちてませんし、少数で事足りると思うんですよね!?」
「そういうことですぅ。それならぁ、掃除箇所の多い校舎内のほうが綺麗にするし甲斐があるってものですよね~」
おーい、さっきと言ってること違うぞ。
「そう思っていただけて助かります。では、人員は確保できましたので、白石くんはそちらのほうに―」
「「やっぱ町内―」」
「いい加減にしてもらえますか…………ッ!?」
温厚な表情を保ってた会長が遂にキレた。
当然の結果だ。
「一体どうしたいと言うのですか……。ワタクシを困らせたいのですか……?」
口元は笑っているが目は完全にガチギレモードだ。
空気が濁ってくるのを感じる。
「あの……会長……」
「なんですかッ?」
勇気を持って話し掛けたが、凄い威圧的な態度だ。
委員長と引けを取らない迫力がある。
「お、恐らく生徒会も清掃場所を町内にすれば済む話なので、ここは我慢して町内の清掃にしませんか……?」
「それは無理な話です。新田さんと同じ町内の清掃をするだなんて、一緒にいるだけでもワタクシのプライドが許しません!」
「でしたら距離を置いて活動すれば良い話では……?」
「同じ範囲で活動してるってだけで嫌なんですッ!」
なんちゅう我がまま……。
だが脳内の言葉を思ったまんま発言すれば、妙な企画に参加させられそうだから口をつぐむことにする。
しかし困った……。
このままじゃ永久に活動できないぞ。
船岡は国見にまたしつこく話し掛けてるし、南先輩は空ぼーっと眺めてるし、コハ姉と琴葉は叱咤されたショックで凹んでるし、委員長はイライラがおさまってない。
今一番問題視されている内容は『人員不足』だ。
俺が町内清掃に残ると、コハ姉と琴葉がこっちに来て、校舎内組は人員不足になる。
反対に俺が校舎内組に行くと、二人も付いてくる。
しかし、本来俺が参加したかった風紀委員のボランティア活動から抜けることになってしまうため、委員長との『もしかしたら進展』が消失してしまう。
俺が我慢して校舎清掃に移ればこの問題は解決するが、せっかく日曜を返上してまで風紀委員の活動をしに登校してきたんだ。
委員長と一緒、しかもジャージ姿を合法的に拝見できるのならこのチャンスは逃したくない。
だがそうなると、結局話は最初に戻ってしまう。
コハ姉と琴葉を説得するのも一つの手だが、多分見返りがエグイことになるだろうからやめておく
人員確保ではなく、なにか掃除をスムーズにしてくれる機械でもあれば良いんだが……。
ん…………機械…………?
「あ!」
気付くと、自然と言葉が漏れていた。
「どうしましたか……? なにか案でも思い付いたのでしょうか……?」
不機嫌な会長を前にするが、グッドアイデアを思い付いた俺にとっては怖くなかった。
「はい、少々お時間をいただいても良いでしょうか?」
「構いませんけど……」
「白瀬、どうするつもりだ?」
「まぁまぁ、委員長。自分に任せてくださいって」
スマホを取り出し、〝例のアプリ〟を開く。
トーク履歴から対象を選び、タップする。
あとは電話アイコンを押し、音声通話を選択したら待つのみ。
微かな希望に縋(すが)るとしたら…………。
起きててくれッ! 紅葉ッ!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます