第3話 コタツ防衛線

「誠に恐縮ですが、皆様にお願いがあるのです」

「私たちを救っていただきたいのです」


 シファー・マラクさんとアル・ファールドさんが声を上げる。救ってほしいとはどういう意味なのだろうか。


「まあ落ち着いてください。俺たちに何ができるか分からないのですが、とりあえずお話しください。協力できることであれば喜んで協力しましょう」


 社交辞令としては申し分ない俺の一言に妹たちも頷いていた。


「実は、私達の国は危機に瀕しているのです」

「他の国からの侵略です。私たちは戦火を逃れるため日本に来ているのです」

「私達の国、猫獣人の国をお救い下さい」

「お願いします」


 話がとんでもない方向へと飛躍した。

 助けるも何も、戦争状態の国をどうすればいいのだ。自衛隊は専守防衛だから動けない。しかも、俺は防衛大臣でも総理大臣でもない。頼りになるのは米軍か? しかし、彼らの国はアメリカと同盟関係にあるのだろうか……。俺があれこれ考えている間に、妹とその友人たちは立ち上がった。


「任せて」

「私たちが戦うよ」

「絶対、守って見せます」


 我が妹と星子、そして波里の三人が意気揚々と宣言する。そしてあの自動人形まで乗り気だった。


「ふふ。どんな敵でも粉砕して見せる」


 疑問は尽きないが、俺は意を決して口を開く。


「話の概要はわかりました。いや、ちょっとわかんない事多すぎるけど、貴方たち二人を保護することはできると思うのです。ただし、貴方達の国を救うとなると、情報が少なすぎるし個人の力でどうすべきなのかは見当がつきません」


 これは正直な気持ちだし、判断としても間違ってはいないはずだ。これで彼らの力になれるのかどうか分からない。


「ありがとうございます。さすが和也さまですね」

「話の核心を的確に捉えていらっしゃる」

「それはつまり……」

「ええ。私たち二人を保護していただきたいのです」

「二日間で結構です。お願いします」


 アル・ファールドさんとシファー・マラクさんが頭を下げる。


「事情は分かりました。しかし、俺は何をすれば?」

「和也さまはこの、四次元掘り炬燵を死守してくださればよいのです」

「我ら猫獣人にとって、この掘り炬燵はまたたび以上の快楽をもたらす禁忌の暖房器具なのです」

「禁忌? 快楽?」


 二人の言葉に唖然としてしまった。

 いや、それよりも猫獣人って何だ?


「我ら猫獣人は残念ながら快楽には弱いのです」

「つまり、このコタツに接すれば任務そっちのけで足を突っ込んでしまいます」

「要するに、このコタツをトラップとして活用し、追手を阻んでいただきたいのです」

「さらに、このコタツの効能を知れば必ず奪おうとするはずです」


 やっと話が見えてきた。


「このコタツを防衛ラインとして戦うって話ですね。コタツの機能を使って」


 俺の言葉に頷く二人だった。

 この四次元掘り炬燵の機能……すなわち、ゲーム召喚機能を使って侵略者である猫獣人の追手と戦うのだ。


「やったー」

「今夜から二日間はゲームし放題だね」

「ふふふ。腕が鳴りますわ」


 妹とその友人二人は夜通し遊びつくす気のようだ。

 大丈夫なのか?


 不安感はぬぐえないものの、高級牛肉を食ってから考えようと提案したら、その場の全員が賛成した。


 まあ、そうだろうな。

 早く食べてしまわないと、肉が固くなるからだ。


 その後、俺たちは一心不乱にすき焼きを食べ始めた。 

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