第9話 ダンサーは歴史が詳しい

 モブゴンは2度目の朝飯を食べている時。

 1度目は朝の4時くらいに食べたからだ。

 今は朝の7時くらいとなっている。

 村長が簡潔に「無理せずがんばれ」と励ましの言葉を頂いた。



「これから屋敷にダンサーの歴史家さんが来ますので、歴史の勉強をするように言われています」

「それは理解しているけどなぜにダンサーなんだ?」


「ダンサーは彼女の趣味であり、本来の仕事は歴史家なのです」

「なんだか滅茶苦茶だね」


「この村にいる人々は基本的に滅茶苦茶です」


 メイドの発言により異常な人物達が頭に浮かんだ。

 ガキ師匠は賢者級に凄そうだし、酔っ払いも武術の達人だし。


「うんそうだね」


「奇遇ですね、意見が一致するなんて」

「この村は異常だからね」


「そんなあなたも異常な1人になれるのですが」

「それもいいよ」


 そう言いながらパンにがっつくのであった。

 これだけお腹いっぱいに食べた事はなかった。

 前の世界では皆が貧しい生活を送っていた。

 それは戦争が起きているからだろう。



 来訪者の鐘の音が鳴った。

 鐘の音とは玄関にある紐を引っ張る事で鳴らす事が出来る。

 モブゴンは一気に食べ物をかっこむと、ごくんと飲み込んだ。

 メイドと一緒に歩いて行くと。扉を優雅に開けた足の長い女性がいた。

 びしっとしたズボンを穿いている。

 体にフィットしていて、黒一色となっている。

 ジャケットも黒一色であり、ネクタイだけが白であった。

 ダンサーは細長い帽子を被ってこちらを伺っている。


「さて、話は村長から聞いてます事よ、一緒にダンス間違った歴史を学びましょう」


 この人一緒にダンスを学びましょうと言いかけたよな?


 それは気のせいで片付けて置いてと。

 それからこの屋敷の会議室を借りた。

 それ以前に会議室なんて必要なのかと疑問に思った。


 モブゴンとダンサーは向かい合って座った。

 彼女が取り出したのは分厚い1冊の本であった。


「モブゴンさんにはこれをマスターして頂きます」

「それは何ページあるんだ?」

「500ページです」


「ほぼ図鑑じゃねーか」

「そうです」


 そうして地獄の猛勉強が始まった。

 基本的なものはドラゴンの心臓であるコアが隣国によって集められ兵器として使われようとしている。現在使われているそうだ。

 それを集めるのがドラゴンハンターの役目である。


 時代は300年前にさかのぼり、その時代でもドラゴンハンターはいたそうだ。

 彼等はドラゴン狩りをした。不思議な事に昔の人はドラゴン使いがドラゴンハンターになる時もあれば、ドラゴンに乗らないハンターもいる。

 ドラゴンハンターには2種類いたそうだ。



 隣国と言ってもドラゴン王国とはつまりドラゴン学園がでかすぎて小さな国ばかりとなった隣国は何度か小さな国同士で同盟を結びドラゴン学園を滅ぼそうとした。


 

 その度に立ち上がったのが学園長のデイデイと呼ばれる。

 彼には寿命がないという説や実は人形じゃないか説や化け者の説があるが。

 現在の今も学園長をしている。



 100年前はドラゴンハンターが大勢いた。

 沢山のドラゴンの心臓が奪われた。

 沢山の相棒を失った人間達が生まれ。彼等は【孤独者】と呼ばれるようになった。


 孤独者が増えて精神科医が増えたそうだ。

 彼等はうつ病と呼ばれる病気にかかったそうだ。


 それからありとあらゆる歴史が述べられていく。

 頭に入っていくのはなぜなのだろうか?

 こういった歴史を忘れてはいけない事をモブゴンは知っている。



 彼等は帰ってこない。

 戦場に出て行ったドラゴン体は2度と帰ってこない。

 彼等が見る世界は地獄なのだから。


 ドラゴン達は永遠に帰ってこない。

 彼等は殺されていくのだから。


 脳味噌にそれが響くと、ぱちりと辺りを見回していた。


「大丈夫ですか? 気配そのものが消えましたが」

「大丈夫です」

「では続けましょう」


 その日から毎日のように勉強した。

 ノートに書く練習もしたし必死に記憶した。

 1つも忘れないようにした。

 そして全てを暗記ではなく物語のように理解した。


「ダンサーの話を聞いて頂けますかな?」


「はいダンサー」


「ダンサーになる夢を諦め歴史家になりました。しかし歴史を学べば学ぶ程人間の愚かな歴史が消えないのです。いや逆に増えているでしょう。人間は過ちを繰り返していき学び改善していきます。ですが人間は過ちを増やし続けてちょっとずつ改善しているのです。ダンサーは気付きました人間が滅びるしかないのではと」


 モブゴンはじっくりと考えた。

 口をゆっくりと動かすと。



「人間は過ちを繰り返します。戦争も繰り返し、改善したら別な理由で繰り返します。でも人の中には正義を貫く人がいます。人によると正義とは悪の裏返しだという人もいるでしょう、戦争だから兵士を殺す事を許される。それは違うのだと思います。だから、なというか、ダンサー先生の気持はわかります」



 ダンサー先生はこちらを見て厚化粧で微笑んでくれる。

 少し怖い顔になっていたがあまり気にしなかった。

 

「どうやらダンサーとしての仕事は終わったようね」


 いえダンサーは一切教わっていませんがね。



「次は最後の授業よ、どうぞ、モンスター博士」


「誰がモンスター博士だよ」


 会議室の扉から入ってきたのは、獣の毛皮をまとった猟師さんだった。

 モブゴンは漁師さんによって助けられた。 

 猟師さんの計らいでここにやってきた。

 彼はモブゴンにとって命の恩人でもある。



「ではダンサーは去ります。お元気で」


「色々と助かりました。どこかで会ったらよろしくです」


「それは勿論です事よ、おっほっほ」



 ダンサーと入れ違いにモンスター博士こと猟師さんが入って来る。

 彼はどっこらしょとばかりに椅子に座った。



「猟師の授業に講座はねーぜ、とりあえず山に行くぞ、武器とか色々とこちらで準備した。お前はここまで修行を乗り越えた。猟師さんからのプレゼントだ」


「それは本当ですか」


「もちじゃ、後あそこで眠そうにしている2体の幼いドラゴンも連れて行くぞ、あいつらにはモンスターの恐ろしさを伝える必要がある」


【なになに、モンスター? それ面白そう】

【ダーク、モンスターの意味が分かってる?】



 それからモブゴン達は森の隣にある山に向かった。

 山にも沢山の木々が鬱蒼と生えそろっている。

 まだまだ太陽の光が地上を照らしている。


 いくら木々の木陰になろうと太陽の光を妨げる術はなく、モブゴンは熱さにやられそうになっていた。


「ほれ、水だ。熱射病と脱水症状には気を付けろよ」


「はい、そうですね」


 ダークの黒い鱗のせいか多量の日光を吸収するようだった。

 しかしダーク本人はびくともしていなかった。

 シャインは白い鱗だが、まったく日光を感じていなかった。



「ドラゴンって奴は昔から熱さに強いのさ」

「そう言えばそうですよね、竜の牧場にいた時も夏の時期なのに皆元気でした」


「そうだろう、それとこれから狩るモンスターだがオーガだ」

「はい? オーガってあの巨大な生物の? 角があって牙があるモンスターですよね」


「その通りだ。隣の山からこの山に新しく巣でも作ろうとしているのだろう。女王オーガはこの猟師が仕留めたが、残党達が女王いなくても巣を作りだした。女王候補でもいるのだろうな」


 それ以前に女王を1人で猟師さんが倒した事に驚き隠せない。

 女王オーガの強さは普通のオーガの強さの3倍はするであろうと言われている。

 それを猟師さん1人で倒すとは。


「お主に学んで欲しいのはモンスターの倒し方だ。どのモンスターにも倒し方がある。お主にはそれを自力で見つける力を付けて欲しいのだよ」


「なるほど」


「どんな書物にもモンスターの倒し方は書いてあるだろう、だがその場その場で変わるのだから、実際は実戦で学ぶしかないんだよ」


「がんばります」


 モブゴン達が辿り着いた山の端には巨大な穴があった。

 オーガなら2体は縦になっても歩けるくらいの広さだ。


「ここだな、松明あったけな」


 猟師は松明に火を付けると。

 松明の油を燃やし仄かな炎を灯し出した。


 モブゴンの背中には弓と槍が装着され右腰に帯剣している。

 左の腰には色々なアイテムが入る道具袋を身に着けて。

 そこには1人の剣士というよりかは狩人という雰囲気だった。


 

 この装備をくれたのは猟師さんであった。

 先程プレゼントしてくれたのだ。


 モブゴンは右腰から剣を引き抜くと猟師さんと一緒に歩き出した。

 さほど時間がかからず大きな広間に到達した。


 そこは既に炎が灯されており、オーガが3体いた。その前方には死体となっている女王オーガがいた。



「嘘だろ、確かにあいつら死体を回収していたが、こんなのは聞いた事が」


 

 猟師さんが小声で呟いてきた。

 オーガ3体は拝むように祈っていた。

 闇魔法と光魔法が使えるモブゴンには彼等の願いの力が分かった。

 それは闇の力となっている。



「早くオーガ達を倒さないと」

「ああ、そうだな」


 だが時すでに遅しで。女王オーガの死体がむくりと立ち上がる。


「あいつらアンデットを作りやがった。こんなのはありえないぞ」


 魔法の勉強をしたから知っている。

 魔法の力とは魔力があってこそだ。

 しかしオーガ達には魔力は存在しないし、ただ願っていただけ。

 何かがそれに答えたのだろうか?

 例えばあの世の何かが。




 3体のオーガはこちらに気付いた。

 2体が猟師さんの方に走って行き、1体がこちらに向かってくる。

 アンデットクイーンオーガはこちらに攻撃するよりまだ体を上手く動かせないようだ。



 かくして劣勢の状態で戦闘が始まったのだ。


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