優しい怪物のお話 4


 花畑の真ん中に、一人の少女と一匹の黒い怪物がいました。二人は身体を寄せ合って、日が暮れるまで話をしました。

 インディは真っ黒になった自分の手を見つめて言いました。


「おばあさん、僕はどうなってしまったの」


 昨日の花畑から帰ってからインディは自分の身体が真っ黒になってしまったことに気が付きました。


「あぁ……インディ。なんて可哀想に……」


 おばあさんはインディの手をとって言います。


「こんなに身体を黒くしてしまうなんて、お前いったい何をしたんだい?」

「何もしてないよ。気が付いたらこうなってたんだ」

「お前はね。特別な獣なんだよ」


 おばあさんの言葉にインディは首を傾げます。


「特別?」

「そうだよ、インディ。お前は特別な力を持っているんだよ。奇跡を起こす特別な力を」

「奇跡? 奇跡って何?」

「何でも叶える不思議な力さ。でもね、それは自分のためにつかっちゃいけないものなんだよ」


 真っ黒になった髪の毛を、おばあさんは優しく撫でました。


「お前が自分の思うままに奇跡を起こすとね、お前はその代わりに身体も心も黒に塗りつぶされて、本物の怪物になってしまうんだよ」

「え……」


 インディは言葉を無くしてしまいました。


「今は身体だけだけど、このままだと心も怪物になってしまうんだよ」

「嫌だ!!」

(僕は怪物なんかじゃない。僕のココロは)


 インディは泣いておばあさんに言いました。


「怪物になんてなりたくないよ! どうすればいいの、おばあさん! 僕を助けてよ!!」

「怪物になりたくないのならね、誰かのために奇跡を起こすんだよ。誰かの幸せのために」

「誰かの?」


 こくりとおばあさんは頷きます。


「インディ。分かっているんだろう? お前のすぐ近くにいる子のことだよ」


 インディの胸がちくりと痛みました。


「あの子をここへと導いたのもお前の起こした奇跡なんだよ。あの子を帰してあげられるのもお前だけなんだよ、インディ」


 しくしくとインディは泣きました。


 あの子の幸せのために。インディは静かに涙を拭いました。


「インディ? どこにいってたの?」

「あぁ、起きたんだね。おはようアルマ。ちょっとおばあさんのところに行ってたんだ」


 インディはそういうと、腕いっぱいに持った荷物を床に置きました。


「アルマ、パーティをしよう」

「何のパーティ?」

「ええっと、考えてないや」


 インディがそういうとアルマはくすりと笑いました。


「なにそれ、ヘンなインディ。ほら、誕生日とかあるじゃない。そういえばインディって誕生日いつなの?」

「うーん、知らないや。アルマは?」

「年の終わりだよ。冬のちょうど真ん中なんだ」

「ふぅん」


 アルマは両手をぽんと叩いて言います。


「じゃあ、今日がインディの誕生日にしようよ。それならパーティもできるしね」

「そうだね、それがいい」


 インディは張り切って準備を進めました。


 家を飾り付けて、いつもよりもろうそくを多く点けて、部屋を明るく彩ります。料理もふんだんに手をふるって、インディの誕生日パーティが始まりました。


「お歌を歌うわ。誕生日の歌よ」


 アルマが目を瞑って歌を歌います。インディは優しい歌声に耳を澄ませて、ココロの中に大事にしまっていきます。


「プレゼントを用意してないわ……そうだ!」


 そう言ってアルマは抱いていたティナの足から鈴を外して、インディに差し出します。


「ティナからプレゼントだよ」


 アルマは手探りでインディの左手を掴んで、薬指に鈴をくくりつけます。


「何で薬指なの?」

「インディが「おとな」になったらわかるよ。絶対、外したら嫌だからね」


 アルマはそう言ってインディの手の甲に頬を当てました。

 そして二人は食事を食べて、お話をして歌を歌いました。たくさんたくさん時間が流れました。

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