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◇◇
――二千十八年三月一日、光鈴女子高等学校卒業式。
母は私の晴れやかな姿に感涙した。私はそんな母を見て号泣してしまった。
明け方に卒業式の夢を見たせいか、卒業式を二度繰り返したような錯覚にとらわれている。校長先生の式辞も、来賓の祝辞も、そっくり同じだった気がしたからだ。
卒業式を無事に終え、私は卒業証書を胸に遥や友達と桜の木の前で記念写真を撮った。
「……希、ちょっといい?」
「……千春」
「ちょっと、千春! 卒業したのに何の用よ!」
遥が千春に先制攻撃をする。
「待って遥。私はもう大丈夫だから。私も千春と話がしたいと思ってたんだ」
「希、本当に二人だけで大丈夫なの?」
「私達はもう子供じゃない。四月からは大学生なんだから。ちゃんと話し合うから大丈夫だよ。千春、行こう」
明日香君……。
変だよね。
夢と同じ……だなんて。
私は千春と一緒に光鈴大学と隣接するフェンスに行く。そこは明日香君や田中君と昼休憩の時間に、よく一緒に過ごした懐かしい場所だったから。
「……希、このまま卒業したら、私……後悔しそうで……」
「……うん」
「私ね、亀田君のことが好きだったんだ。だから高二の時に告白したの。見事に振られたけどね。亀田君が好きなのは、私じゃなくて希だった……。希は成績もよくて、可愛くて、だから悔しかったんだ」
「……千春。私は悲しかったよ。千春とは友達だと思っていたから。千春に意地悪されて辛かった……」
「高三の時に、亀田君に呼び出されて、『俺が好きなのは朝倉希ちゃんだけど、希ちゃんが好きなのは俺じゃない。それでも俺は希ちゃんが好きだ。好きな人の幸せを願うのが、本当に好きってことじゃないのかな』って言われて……。『ファンクラブも解散して欲しい』って、『そんなことをされても嬉しくない』ってハッキリ言われたんだ。でも別れ際にね、亀田君が『こんな俺を好きになってくれてありがとう』って言ってくれて、初めて目が覚めた……。自分がしてきたことが、恥ずかしくなった……」
「達哉君がそんなことを……」
「……私、バカだったんだ。希に嫌がらせをしても、亀田君に想いなんて伝わらないのに。希は……そんな私を一度も責めなかったのに……。私は嫌がらせを続けた……。本当にごめんなさい」
千春は顔を伏せて、涙を拭った。
千春は恋をしていたんだ……。
達哉君に恋を……。
私と同じ片想い。
千春のことはもう怒ってないよ。
それよりも、明け方に見た夢の方が怖い。
――春の嵐みたいな突風が吹き荒れ、砂埃が舞う。
光鈴大学のフェンス前に植えられた大木が、左右に激しく揺れ校庭にいた女子が「キャーキャー」悲鳴を上げた。
その時、頭上からふわふわと何かが落下した。足元に落ちたのは……私の紙飛行機だった。
大木の幹に引っかかり、生い茂る葉に守られ風雨に晒されていた紙飛行機。
達哉君が捨てたと話していた紙飛行機。
夢と同じだ。ずっと……ここにあったんだね。
「希-!! 凄い風! 大丈夫だった?」
遥が私に駆け寄る。
「……遥! 紙飛行機があったの!」
「……は? 紙飛行機? 嘘ーー!?」
千春は頭を下げて、その場から走り去る。遥は私の傍にきて、紙飛行機を見つめた。
「やだ、本当に……? これって奇跡だよね? 卒業式の奇跡!」
「……奇跡?」
これが奇跡だとしたら……。
現実は……。
「遥、ごめん。私、卒業パーティーにはいけない」
「……希、逢いにいくの?」
「うん。紙飛行機を見せにいくの」
「わかったよ。みんなにはそう言っとくね」
「……遥、じゃあ行くね」
「うん!」
――夢と同じにはさせない。
あれは、予知夢なんかじゃない。
私は春風に背中を押され、校庭を飛び出した。
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