38

 俺達四人は、希ちゃんの家へ遊びに行って以来、以前にも増して親しくなっていた。大学の昼休憩にフェンス越しに希ちゃんや遥ちゃんと過ごすことも増え、それが楽しみに変わる。


 遥ちゃん曰く、『希との合言葉は、昼休憩に動物園のゴリラを見に行こう』らしい。フェンス越しに見る俺達は動物園のゴリラと同等とは、ちょっとヘコむ。


 田中と遥ちゃんは友達と言うよりは、仲の良いカップルみたいだ。まるで漫才コンビみたいなノリとツッコミに、俺と希ちゃんも笑顔が増えた。


 下校時間に正門前で待ち合わせをして四人で歩く。自然に二人ずつ並んで歩くことも増え、俺の隣で希ちゃんは歩調を合わせている。


 可愛いな……。


 いつしか希ちゃんのことを、異性として意識するようになっていた。


 ◇


 ―七月―


「今度さ、海に行かね?」


 田中の一言で、俺達は日曜日にドライブすることになった。


 ――湘南、初夏の日差しに海面はキラキラと輝いていた。


 波打ち際で海水を掛け合いながらじゃれあっている田中と遥ちゃんを眺めながら、俺達は砂浜を歩く。


「手を……繋いでもいい?」


 希ちゃんの一言に、一瞬ドキッとした。


 太陽の日差しに負けないくらい、希ちゃんの笑顔が眩しくて……。


「いいよ」


 希ちゃんに手を差し出すと、互いの指先が触れる。

 少し恥ずかしそうに笑った希ちゃんが、太陽の光でキラキラ輝いて見えた。


「ヒューヒュー」


 いつのまにか俺達の後ろを歩いていた田中が、指笛を鳴らしながら俺達を冷やかす。


「漫才コンビはあっちに行けよ」


「誰が漫才コンビだよ。俺達は夫婦めおと漫才なんだよ」


「バーカ、誰が田中君と結婚するって言った? 私はまだ高校生なんだよ。夫婦漫才なんて、冗談は顔だけにして」


「遥ちゃん、俺は遥ちゃんが大人になるまで待つからね」


「誰も待って欲しいなんて言ってませーん。大学生になったら素敵な恋人作るんだから」


「ま、まじで!? そりゃないよ、遥ちゃーん」


 二人は子供みたいに海辺を走り回る。


 俺達は手を繋いだまま、流木に腰を降ろした。希ちゃんがはにかみながらポツリポツリと話し始めた。


「明日香君、私ね……明日香君のこと、ずっと前から知ってたんだ。私、通学路で明日香君のこと見掛けていたから」


「希ちゃんごめん。その話、遥ちゃんから聞いてるんだ。高校の頃から俺のこと見ていてくれたんだよね」


「えっ!? 遥が喋ったの!? や、やだ。いつから知ってたの!?」


 希ちゃんは頬を染めて俯く。


「希ちゃんちに行った日に……。ごめん」


「そう、知ってたんだね。明日香君、私……達哉君に付き合って欲しいって言われたの」


「………亀田に」


「達哉君は幼なじみだしいい人だけど、私は……」


 希ちゃんは木の枝を拾い、砂浜に文字を書く。


【明日香君が……すき】


 俺を見上げた希ちゃんの瞳に、嘘がつけなくて……。


 俺も木の枝を拾って、砂浜に文字を書き綴る。


【俺も好き】


 希ちゃんは真っ赤な顔で、いまにも泣きそうだ。


「嬉しい……」


 この気持ちに偽りはない。


 俺は希ちゃんが好きだ。

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