03 最後で最初のベル.

「17時よりも後の時間に鐘を?」


「はい」


「なぜ?」


「その日は、私たちにとって、夫婦で最初の日になるからです。最初の鐘の音が、街で最後の鐘の音でありたいんです。おねがいします」


「ごめんなさい。この子、この教会の鐘の音が大好きなんです。どうしてもって」


「ああはい。さっき入り口でいちゃいちゃしてたときに言ってましたねそういえば」


「カレーおいしいです」


「おかわりありますよ?」


「おかわりします」


「おくさま、よく食べますね」


「帰ってからも食べると思います。スポーツとか大好きなんですよ、この子」


「ふくじんづけありますか?」


「ありますよ。しかし条件があります」


「うっ」


「17時の後の鐘ではなく、17時の鐘をいつもよりも長く打つ、ということでどうでしょう?」


「時間ではなく、長さかあ。どうしよう?」


「いや僕はどっちでもいいです。できるなら、教会の鐘はみんなが時計がわりにするものなので、街のみなさんが混乱しないかたちがいいかなと思います」


「だんなさまのお考えが立派すぎる」


「うぐぅ」


「大丈夫ですよ。冗談です。ふくじんづけは担保されますから」


「あっ神父さんうまいですね。ここで譲歩してふくじんづけを出したら、この子も譲歩せざるをえない。さあ。それで手を打ちましょうね、おくさま」


「しかたないか」


「ありがとうございます」


「多めにおねがいしますね?」


「はい。それはもう。鐘もふくじんづけもたっぷりとサービスさせていただきます。あと私は牧師です」


「しんぷさんっ」


「神父さん。このカレー、隠し味はコーヒーですか?」


「あっはい。もう神父でいいです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る