最後のベルとカレー
春嵐
01.
この街の教会は、決まって17時に鐘を鳴らす。子供は帰る時間。大人は就業時間。
丘の上からの鐘の音は、まいにち、街をやさしく包みこむ。
その鐘の音が、好きだった。でも教会というのがよく分からないので、入ったことはない。
「珍しいですね。あなたが物怖じするなんて」
「なんか変な勧誘されたらどうしよう、って」
「保険の勧誘や新聞の勧誘で来た人とさえも仲良くなるあなたなのに?」
「だって。入信とかこわいし」
「あなた、宗教の勧誘とかとも仲良くなって、そのくせ入信したりお金払ったりは一切しないじゃないですか」
「だって、あのひとたちもお仕事で来てるのよ。こちらもお仕事的な受け答えをすれば入信もお金払ったりも全然しなくていいの」
「いやあ、僕には真似できないな」
「真似しないでよ?」
「そもそも玄関先に出ていかないです」
「あなたは大切なので。防犯的に」
「あなたはつよいですもんね」
「あなたをまもらなくちゃ」
「義務感」
「わらわないでください。あなたのほうが家事できるんだもの」
「今夜は何がいいですか?」
「あなた」
「僕が料理されるんですか?」
「あっ冗談つうじない」
「緊張してますね?」
「それはもう。めちゃくちゃ緊張してます。冗談言ってないと、やってられないです」
「気楽にいきましょう」
「こわいよお」
「じゃあ、手でも繋ぎますか?」
「てあせ拭くから待って?」
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