ハズレも引けない福引


 バクメーアの爆発により、俺とカレンは真っ黒焦げになってしまった。カレンは「お風呂お風呂...」とゾンビの如く呟いており、もはや戦闘レクチャーどころではなくなった。なのでそのまま帰ることに。


研修を受けている場合の特権として、期間内ならばギルドの宿を使っていいとのこと。屋根があるだけでとてもいい。昔街中で、家の鍵を伝説の怪鳥に奪われ、帰れなくなったことがあった。その時に傘や服の生地からテントを作ったことがあったため、これからそういう生活なのかと身構えていたが、どうやらそうでもないらしい。

ちなみにその反省から製造したのが、鍵を着けておく為の、耐久重量3tのビョンビョン紐である。


それと、先ほどバクメーアに突き刺した剣が歪に曲がっていて、使い物にならなくなってしまったのは痛い。武器がなければ戦えない。

だが、そんなことをこれから考えるのも億劫だったので、シャワーを浴びて、ベッドに潜った。



翌日。

 カレンはというと、帰ってからの肌ケアやバクメーアの匂い落とし等、女子には色々とやることが多いとのことだった。だから夜遅くまで隣で音が聞こえており、肌ケアを行っていたと思われる。寝ている間に臭いが定着したりすると良くないのかもしれない。

そんなこんなで、太陽が昇ってしばらく経過しているというのに、まだ部屋から出てこなかった。


 酒場ゾーンで朝食(何故か卵焼きとごはん、味噌汁という家庭的なやつ)をメイちゃんから頂きながら、ぼーっと考えていた。

他にも転移している人がいるとなると、いつか出会うのだろうなぁ。それに転移者のスキル、俺は一体どんなスキルなんだろうか。


 そう思いながら、次にやることはないかと考えていた。つってもカレンが出てこないとなると、自分でやることを見繕わないといけないな。

とりあえずメイちゃんに指示を仰いでみよう。


「メイちゃん、これから何をすべきだと思う?」


「んー、と言われても、それを教えるのはカレンちゃんの仕事だからねぇ、あ、そういえばそのカレンちゃん、真っ黒で帰って来たけど何かあったの?」


「なんか、バクメーアという生き物が偶然現れて、爆発しました」


 通常なら現れるはずがないバクメーアが現れていて、それを誤って突き刺してしまったのだ。その結果、バクメーアが爆発した。そのバクメーアが珍しくもトーファス近くに現れてしまったのは自分の不幸が影響したことなのだろうと勝手に想像する。申し訳なく思っていた。


俺の言葉を聞くと、メイちゃんは続けて聞いてきた。


「バクメーアは何体倒したの?」


「一体ですね、爆発しましたが」


「おーけー、カレンちゃんにも聞いてみる」


というと、カレンのいる部屋に向かった。しばらくして戻ってきたかと思ったら、またすぐに酒場ゾーンからギルドゾーンへと向かった。何を忙しくしているのだろうか?


 戻ってきたメイちゃんは、小さい巾着袋を俺の目の前のテーブルに置いた。


「これは?」


「この世界のお金よ。バクメーア倒した報酬。一体分だけどね」


 巾着に入ったお金を受け取った。報酬くれるんだ、そんな簡単に!?申告制で良いの?もう二、三体嵩増ししたいんだけど。

 まぁ流石にそんなことはせず。中のお札を手に取り中身を確認する。違和感を覚える単語を見た。


「やった!しかもおお!3万円!色々と買え...3万円!?3万、『円』!?」


「結構くれるでしょ?でもそれ実はバクメーアは特別討伐対象に指定されていて、これはあなたへの報酬よ、少ないけど

最近ここいらでよく出没してたのよねぇ、その狩り残りかしら」


 初心者に優しいモンスターのバメーアと酷似している上、討伐すると爆発してしまう危険なモンスターなので、その討伐には報酬がギルドを通して支払われているらしい。


 いやそういうことではなくだ。異世界だよな!?何で「円」なんだよ!でも印刷してるのは諭吉じゃなくて、なんかキラキラしてるイケメンな男だった。


「あの、これ誰ですか?」


 聞くと、メイちゃんが僅かに表情を陰らせている気がした。


「このディネクス国の王ね」


王様若っ!前世界の俳優みたいだ。目尻がキリッとしていて、キャーキャー言われそうな見た目をしている。

お札を眺めていると、メイちゃんはさらに俺にあるものを渡した。


「それとこれ、商店街で福引が引けるから、買い物がてらチャレンジしてみたら?図体がデカイおっちゃんがガラガラさせてくれるわよ」


 あんたが「図体がデカイ」を言うのか、

 とは口に出さずそれを見た。ピンク色の紙に何かの文字が書かれている。ただ「福引券」と書かれていた。


「あ、福引ですか、まぁ、ありがとうございます。」

 運勢がからむ物を渡されても、運が悪い自分には何もいいものを引けないだろう。と思う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 これが異世界の商店街だ。というより市場?とりあえずそんな雰囲気だ。皆がみな商品を陳列して道行く人にアピールしている。

 異世界だから、住人は人間以外にもいるのかと思いきや、人はちゃんと人だ(異世界ならモンスターと共存とかもあっただろうが、そういう世界観ではなさそうだ)。それに陳列する食べ物もちゃんと食べ物だ。時折赤色のバナナや緑色のももがあったり、元の世界と違う食べ物も当然ある。青いリンゴは前世界にもあるが、ここのリンゴはグリーンではなく文字通りブルーなので食欲をあまりそそられない。


 他にも役に立つのか分からないガラクタばっかりの店や、光る液体など、異色な店もあるようだ。といっても何が使えて何が使えないのか分からないから、できるだけ買うのは控えよう。詐欺にでも遭ったらお金がもったいない。


 と頭では分かっていても、美味しそうなものがあれば買ってしまうのが買い食いというもの。クシに刺して焼かれた肉や海の軟体動物の足をゆで、それを生地に丸めたモノ(たこ焼き擬きと名付けよう)など旨すぎる。どれも慣れ親しんだ味な気がするが、前世界のそれよりもモチモチとした食感で、中身の肉は豚に近く脂があり弾力がない。だがその脂には旨味が多分に含まれており、モチモチ食感を破いた瞬間にあふれ出る。肉汁の爆弾と名付けよう。


だが異世界ならば、異世界ならではの何かを味わいたい。さっきのは飽くまでも「たこ焼き」の派生形態だ。それだと頑張ったら前世界でもできるだろう。だから「あ!これは異世界な感じ!」といった食べ物を食べてみたいところだ。

いつの間にか、出店の食べ物を食べ歩くことが目的になってきた。


さて、異世界ならではの料理はないものか?と歩いていても、やれ「焼かない焼きそば!香ばしソース!」とか「奇跡の融合!卵ラーメン!」とか、どこかで見たことのある、とりわけインスタントで庶民が気軽に手を出せそうな料理が多い。

何でなんだよ!もっとあるだろ!食べたことないやつ!こんなのめっちゃあるわ!週一の楽しみみたいな感じで味わってたわU.F.○.!

中華そばをすすりながら、香しいソースを堪能した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


結局、異世界ならではのごはんにありつけることはなかった。そうして商店街を歩いているうちに、福引きの場所にたどり着いた。ゴリゴリのおっさんが濃い緑色のタンクトップを着て店番している。メイちゃんの言っていた店はきっとここだな。


まぁソシャゲ初心者にとっては、福引きのハズレも当たりみたいなものだろう。そういった気持ちでいた。


「兄ちゃん、引いてくかい?」


クジの内訳はこんな感じ。


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 クジ内訳

 一等(虹色):ゴージャスロッド

 二等(金色):ハイパワーバンダナ

 三等(赤色):魔力増強ポーション(翼を授ける)

 ・・・

 参加賞(白色):綺麗な小石


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 綺麗な小石て、本当に綺麗なんだろうな、少しでも汚れが付いていたら叩きつけてやる。

 何の役にも、いや目の前の店主に投擲する程度しか役に立たない、全くのハズレで苦笑いた。もしかしたらこのクジ券を塵紙にしたほうがお得かもしれない。


だがメイちゃんの折角のご厚意なので、「引きます、はい」と福引券を一枚渡す。


「一等は最高級の魔法の杖、ゴージャスロッドだよ!引けるかな?」


 おじさんはニヤニヤと、不適な笑みをこちらに向ける。

 なんつう適当な名前の景品だ。当たっても魔法が使えないから意味ないし、売るくらいしか利用価値を見いだせない。

 そういう感想を飲み込んで、「あはは、どうでしょう?」とだけ言っておく。


 おじさんの背後を見ていると、一番下の白い丸には白い石が表示されていた。これが「綺麗な小石」だそうだ。(実は何かの力が宿っていたりするのかな?)という虚数の彼方の希望が消え失せた。

 だって、どうせ白い玉(ハズレ)が出るに決まっているのだから。


 何も考えず、八角形の一角にある取っ手を掴み、ガラガラと回す。


ガラガラ

ガラガラ


ん?ちと力み過ぎたか?出てこない。力を抜いて、肩を軽くして回してみよう。


ガラガラ

ガラガラ


瞬間、俺の動体視力は急上昇!クジ玉の発射口から覗かれた白い玉が一瞬見えた!

ほらやっぱりハズレだ。綺麗な小石ゲットー。


...。


 出て...来ない?


 玉の出口から、白い玉が半分だけ出て詰まっていた。白い玉がハズレであることに変わりはないが、まさかクジ玉の設計ミスか?


「ありゃ、おっかしいなぁ、口より小さい玉に設定したはずなのに」


 とおじさんは首を傾げる。口頭だから確かめようがないが、どうやら設定では玉の方が小さいらしい。

 なら何故詰まっているのだろうか?とりあえず俺はその玉を摘まみ、引き抜こうとする。


「イーーーデデデデデデ!!!なんやなんや!誰やねんケツ引っ張りよって!」


「うわぁぁ!」


 玉が喋った!?

 咄嗟に手を離した。痛いと言われるとこちらも躊躇ってしまう。だが抜かない訳にはいかず、今度はゆっくりと、そぉっと少しずつ外に出す。


 キュポンと抜かれ、出てきたのは白い玉だった。

 だが、手足のついた喋る玉だった。


「あんちゃんか?折角気持ちよう眠ってたのに、ってあれ、ここどこや?」

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