会社員とJK、お隣さん歴1年目。【先行試し読み】
ナナシまる/角川スニーカー文庫
プロローグ お隣さんとお兄さん 1
どうしてだろう。
どうして、二十四歳の会社員である俺の家に、制服を着た女子高生がいるんだろう。
「肉じゃが美味しいね~。お兄さん料理スキルにポイント振りすぎじゃない?」
そう言って人参だけを俺の器に放り込む女子高生の
この間アパートのお隣に引っ越してきた
「人参もちゃんと食えよ……」
「人参って凄い健康に良いんだよ? いつもご飯食べさせてもらってるし、お兄さんに私の分の健康を分けてあげてるんだよ」
「屁理屈はいいから食え」
入れられた人参を
ムスッとした
「何笑ってんだ」
「お兄さん、大胆だね~」
何を言っているのかわからなかった。
ただいつものこのニマニマした笑い方は、良い予感がしない。だって
「それ、お兄さんが使ったお箸でしょ? 間接キスじゃん」
「ばっ、馬鹿ちげぇよ! 無意識だ! 誤解だ!」
まただ。また
どうやらこの女子高生は、俺を
「にっしし~。華のJKになんてことしてくれんだよ~。仕方ないな~、この美味しい肉じゃがに免じて許してやろう!」
そう言って、
「うん、やっぱり人参は不味いね」
「人参農家の方たちに謝れ」
いつからかこんな風に、
最初はもっと大人しかったのに、いつからこんなにウザくなったんだろう。そう思い、思い返してみたが最初からウザかった気がしてきて、思い出すのをやめた。
――ピロリンッ
流石は華のJKといったところだ。俺と違って
「ん、ねぇねぇお兄さん」
「なんだ」
毎週面白くて見ているバラエティ番組を見ながら答えた。
普段あまりテレビは見ないけど、これだけは毎回逃さずに見ている。
子供の頃から母さんと一緒に見ていたのを思い出すな……。
「チャンネル変えるね」
変えてもいい? じゃなくて変えるね? ここ俺んちなんだが……。
当たり前のようにテレビのリモコンに手を伸ばしてチャンネルを変える
「自分ちで見りゃいいだろうが」
「もー始まっちゃうし肉じゃが食べてるもん」
じゃあ自分ちで飯食えよ。このアホ
「なんだ、これ」
オープニングの映像が流れ始めて、タイトルと共に最終回という文字が映し出される。
「オジ恋。今超流行ってて、めっちゃキュンキュンするんだ」
オジ恋。オジさんと恋しちゃダメですか? というタイトルの略らしい。
そういえば誰かが話していたのを聞いた、ような気がする。しらんけど。
内容はどうやら一人暮らしのオジさんの隣に引っ越してきた大学生の女の子が、援助交際を目的に近づいて、断られた上に優しくされて惚れてしまったという内容らしい。次第に惹かれあっていく二人にキュンキュンが止まらない! という誘い文句がネットの記事に書いてある。
「え、なに調べてんの? もしかして知らなかったの? 時代遅れすぎない? オジさんなの?」
「うるせぇ、俺はまだ二十四だぞ。見たらとっとと帰れよ」
食べ終わった食器を片しながら、中身が無くなりかけていた
「ありがと。もしかして優しくして私を惚れさせようとしてる?」
「アホか」
こいつに構っていてはアホがうつる。
さっさと洗い物を済ましてしまうために、台所に向かった。
洗い物を終えて、
普通に考えれば客が来ているのに何も言わずに風呂に入るのは非常識に思える。
でも、普通じゃないのはこいつだ。
隣だからと、どこからか入ってくることが多々ある。
鍵を閉めたはずなのに、どうやっているのか勝手に開けて入ってくる。まじでなんなんだよこいつ……。
風呂から上がると、どうやらドラマは熱いシーンに入ったようで、
「目悪くなるぞ。ちょっと離れろ」
「うーん。お兄さんも見なよ、今から告白のシーンっぽいよ」
「告白ねぇ……」
自分には無縁だから、恋愛ドラマなんて見たことがなかった。でも
『私、貴方が好き! 歳の差なんて関係ない! 周りの声なんて関係ない! 私は貴方じゃなきゃダメなの!』
『ダメだよ、僕らは結ばれちゃいけないんだ。だって二十も歳が離れてるだろ? 僕らが良くても、社会が許してくれないよ……』
二十も離れてるのかよ……。
画面を見ると、オジさんは思った以上にオジさんだった。
生え際は後退しているし、お腹には肌に覆われたバランスボールがある。顔は脂でテカテカだ。これ本当に流行ってんのかよ……。
『貴方が私を選んでくれないなら……私……死ぬっ!』
女性が屋上に身を乗り出す。そうか、これがメンヘラというやつか。
『わ、わかった! わかったから! 僕も君が好きだ! 愛している!』
汗をダラダラ垂らしながら、女性を抱きかかえて屋上から飛び降りることを阻止したオジさん。
なんだよこのドラマ……。
「ねぇお兄さん」
「ん」
ドラマのせいでつい放心状態に陥っていた俺は、
「この二人、まるで私たちみたいだね?」
俺がこのオジさんと同じ?
そうか、そうやって俺を
こいつの考えは単純だな。残念だが今日は俺が勝たせてもらう。
「はいはい」
「私たちも……恋、しちゃう?」
「えっ……!」
生え際とか、脂とか、そういうところを似ていると煽って来ているのかと思っていたが、違ったらしい。
凄く良い匂いで、息のかかるほどの距離で肌の温もりが少し感じられた。
相手は女子高生だ。
もし何かあれば俺が社会的に死ぬ。それだけは避けなければならない。
「ねぇ、お兄さん。いい……よ?」
待て待て待て。何がいいんだ、ナニしようとしてるんだ。
「ちょ、ちょっとまて、ちょ、おまっ、ちょまてよ!」
床ドンされて逃げられない。まさか女子高生に襲われる日が来るなんて思っていなかったから、緊張で声が裏返る。
「ぷっ」
「……!?」
突然
「あはははははっ! 照れた? 今照れたよね? ちょまてよってチムタクじゃん!」
「て、てめぇ……」
またやられた。こいつはいつもこうして俺を
見た目は可愛いのに性格は最悪で、いつも俺にちょっかいかけてはケラケラ笑って帰っていく。まったく……。
「お前は本当、何がしたいんだよ……」
「お兄さんを
だから嫌なんだ。何を考えているのかさっぱりわからない女子高生、
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