014 両親の反応

「龍斗、怪我はないかい?」


「よく戻ったな、無事でなによりだ」


 龍斗が家に帰ると、両親が駆け寄ってきた。


「大丈夫、見ての通り問題ないよ」


「それはよかった。新しい狩場に行くって言ってたから心配したのよ」


 母親は目に涙を浮かべ、口元には安堵の笑みを浮かべた。


 それを見た龍斗も思わずもらい泣きしそうになる。両親の反応を大袈裟だと思う一方で、気持ちは理解できた。


「これ、今日の報酬。よかったら生活の足しにしてくれないか」


 ダイニングに行くと、龍斗はテーブルの上に札束の入った封筒を置いた。中にはブラックライオン狩りの取り分である100万円が入っている。正確な稼ぎは107万2000円だったが、端数は抜いておいた。


「なんだこの束は。今までの倍、いや、それ以上じゃないか」


 驚く父親。


「ぴったり100万だ」


「今日だけでそんなに稼いだのかい?」


 母親も目をひん剥いている。


「狩場が変わったからね。今後もこの調子で稼いでいくよ」


「冒険者ってのはそんなに稼げるものなのかい?」


 母親が尋ねた相手は龍斗ではなく彼の父だ。


「いいや、これほど簡単には稼げないはずだ。もしも稼げるならもっと冒険者になる者が多いだろうし、それになにより、経済バランスが破綻しかねない」


「お父さんの言う通りだよ。一日にこれだけ稼ぐ冒険者は殆どいない。大抵の人間は月に30万、レベルがそこそこある奴でも60万くらいだ」


「じゃあどうして、龍斗はそこまで稼げるの? 無理をしているんじゃないでしょうね」


「無理なんてしていないさ。もちろん冒険者だから多少の危険はおかしているよ。だが、闇雲に戦っているわけじゃない。昔から言っているように、俺には綿密に構築した理論があるんだ。それを実践しているだけのことだよ」


「お母さんにはさっぱりだけど、とにかく貴方は凄いわけね」


 母親は龍斗の言葉がよく分からない。彼女は冒険者に関する知識が全くないのだ。一般大衆がそうであるように、「冒険者は誰でもなれる職業で、稼ぎはいいがリスクには見合わず、えてして底辺がやる仕事」と認識していた。


「俺たちの息子はまさに天才だな」


 父親もそれ以上は言いようがなかった。


 もはや、龍斗の両親は彼が冒険者になったことを誤った道とは思っていない。


 龍斗は実力をもって両親に証明してみせたのだ。自らの正しさを。


 だが、彼はまだ満足していない。


「今年中に億万長者になる。だからもう少し待っていてくれ」


 更なる高みを目指して、龍斗は浴室に向かった。


「俺たちも……」


 龍斗が消えた後、彼の父がおもむろに言った。


「やるか、冒険者」


「なにいってるのよ、私たちに務まるわけないじゃない。仮にレベルが高くても体が追いつかないだろうし、そもそもレベルが低いでしょ」


「だよな」


 父親は椅子に座り、天井を見上げる。


「まさか中学を出て1ヶ月の息子に稼ぎで負けるとはな……。嬉しい反面、なんだか虚しいよ。男として情けなく感じる」


「別にいいじゃない、あの子は特別なのよ」


 龍斗の無事を祝して、二人は静かに晩酌を始めた。

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