011 八王子城跡 地下大空洞
龍斗たちは八王子城跡トンネルの近くから行ける地下の大空洞にやってきた。
大空洞は鍾乳洞を彷彿させるひんやりした場所で、入り組んだ内部には魔物が点在している。龍斗が密かに倒そうとしているブラックライオンは、大空洞の最奥部に棲息していた。
「そういえば龍斗、武器は?」
仁美がゴブリン群れを斬り捨てながら尋ねる。自身及びポポロのスキルによって身体能力が超強化されている為、一騎当千の活躍ぶりだ。その動きは素早くて、龍斗の目ではしばしば追い切れなかった。
「俺はスキルで戦うタイプなんだ」
「なるほどねー。じゃあ、あんまり動き回らない方がいい感じかな? 私たちは普段、ガンガン動くんだよね」
死角に伏せていたゴブリンが仁美に襲い掛かる。
「そうはさせないのです!」
ポポロが掌から炎の矢を放ち、ゴブリンを射抜いた。これはスキルではなく魔法だ。エルフ族など一部の種族にのみ許された力である。
「俺としては定点狩りができるならそれにこしたことはないけど、できればもう少し奥まで行きたいかな」
「奥ってどのくらい?」
「できれば最深部」
「「えっ」」
仁美とポポロが驚く。
「実は俺、ブラックライオンを狩りたいんだよね」
「ちょっと、正気なの? この人数で勝てるわけないじゃん」
「俺は正気だし勝つつもりだよ、ソロで」
「ソロォ!?」
「PTメンバーを募集したのは、ブラックライオンまでのザコ掃除を円滑にしたかったからなんだ。だから、そこから先――ボスは俺が一人でやるよ。危険なのは承知しているから一緒に戦ってくれとは言わない」
龍斗は素直に真実を話した。この二人なら話しても大丈夫だと判断したのだ。それに、二人のことを気に入っている。だから嘘をつき続けたくなかった。
「謹んで言わせてもらうけど」仁美が龍斗の目を見て言う。「あんたイカれてるわね」
「今はそう思ってくれてかまわない」
「今はって?」
「俺の理論が正しければ、俺はイカれていないと証明される」
「大した自信ね。ま、いいわ。ボスの手前まで護衛してあげる」
「助かるよ。とはいえ、寄生しっぱなしもよろしくないから俺も戦うとしよう」
「その必要はないわ」
スキルを発動しようとする龍斗を仁美が止めた。
「戦闘は私とポポロで引き受けるから、龍斗は魔石の回収をお願い。その方が効率がいいと思う」
「オーケー」
こうして三人は自らの役割を果たしながら奥へ進んでいき、そして、これといったトラブルもなく最奥部の手前に到着した。
「あれがブラックライオンか、思ったよりでけぇな」
龍斗の前方100メートルの距離に漆黒のライオンが眠っている。うつ伏せの姿だけでも、一般的なライオンの数倍はありそうな体躯をしていると分かった。おそらくゾウと同等のサイズだ。
「本当にあのライオンさんをお一人で倒すのです?」
ポポロが心配そうな顔で龍斗を見つめる。
「そのつもりさ。だから二人は帰ってくれ。もしも俺の思惑通りにことが進まなかった場合、俺は即死だし、そのあとは二人にも敵の攻撃が及ぶ。それは避けたいから、ここから先は俺だけで十分だ」
ポポロは何かを言いたげな目で仁美を見る。
彼女の視線を感じ取った仁美は頷き、それから龍斗に言った。
「私たちも残るわ」
「おいおい、馬鹿なこと言わないでくれよ」
「そっちこそ馬鹿なことは言わないでもらえる?」
「なに?」
「ここであんたを見捨てたとして、それで死なれたら後味が悪いじゃない」
「でも敵は数十人で挑むのが当たり前とされているボスだぞ?」
「そうだけど、これもなにかの縁よ」
「いいのかよ、アーリーリタイアしたいんだろ」
「そうよ。だから正しいことを証明してね、あんたの理論ってやつ」
「頑張るのです、龍斗!」
もはや龍斗に言い返す言葉はない。
「ふっ、分かったぜ。絶対に後悔させねぇ」
そう言うと、彼はブラックライオンに向かって歩き始めた。
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