007 両親との関係

 21時過ぎに龍斗は帰宅した。


「遅かったな」


「ご飯、勝手にチンして食べなさい」


 両親が迎えるが、その口調は冷たい。


 その理由は龍斗の帰宅が遅かったからではない。彼が高校に進学しなかったからだ。


 中学を卒業するその日まで、龍斗は全てのテストで満点を取り続けた。小学四年生の時、両親に「中学を卒業したら即冒険者になりたい」と言ったところ、「中学を出るまでの全試験で満点を取り続けたらいいよ」と言われたからだ。


 もちろん、両親は龍斗が満点を取り続けるとは思わなかった。自分の息子がどれだけ秀才だったとしても、満点を取り続けるなどまず不可能だ。特に現代文の鬼門である「作者の気持ちを述べよ」でのつまずきは必至である。それに、冒険者になりたいなどという馬鹿な夢は一過性のもので、現実を知れば考えを変えるだろうとも思っていた。


 だが、龍斗は両親の思惑を見事に裏切った。試験は常に満点だし、冒険者の夢を変えることもなかった。そうして両親の出した条件をクリアすると、高校へ進学することなく最速で冒険者になったのだ。


 そのことに両親が不快感を示すのは無理もない。どんなテストでも満点を取り続ける本物の天才なのだから、冒険者よりも向いているであろう未来は無数にあった。それを捨てて冒険者を選んだからこそ、度し難くて不愉快になる。


「今日は冒険者としてのデビュー戦だったんだ」


 龍斗がテーブルに札束の入った封筒を置く。クエスト報酬と魔石の換金額を合わせたものだ。


「今日だけでこれだけの額を稼いだ。冒険者の道は間違ってないよ」


 ダイニングで温めたご飯を食べながら、リビングの両親に向かって言う。


「あのなぁ、冒険者ってのは短期的には稼げるものなんだよ。だが、そんな生活がいつまで続くか分からない。一日で数十万稼いだからってなんだというのだ。偉そうに言うなら一般人の生涯賃金の倍に相当する5億は稼いでからにしてくれ。お前にはそれだけの才能があるんだ」


 父親が呆れたように答える。


「まぁ、そうだよな、俺が悪かったよ」


 龍斗は馬鹿じゃないから、両親が自分に対して不快感を示す気持ちは理解している。だからこそ、彼は自分の選んだ道が誤りではないと証明したかった。


「これからも結果を出す。5億どころか10億・20億と稼いでやるさ。税引き後で5億円が余るくらいに稼いでやる。そうすれば、お父さんやお母さんだって俺のことを認めざるを得ないはずだ」


「是非ともそうしてくれ。息子が中卒冒険者なんてこと、恥ずかしくて他人様には言えないからな。早く誇れる息子に復活するよう願ってるよ」


 両親が応援してくれなくとも、龍斗は両親に対して敬意と感謝の念を抱いている。冒険者になることを認めるなど、なんだかんだで自分の意思を尊重してくれているからだ。


 だからこそ、彼は明日以降も頑張って稼ごうと改めて誓った。


 長い年月を掛けて完成させた超速レベリング理論なら、1年以内に20億円を稼ぐことだって可能なはずだ。

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