第3話

――ザザー

 無線の音。いつもいつもうるさくて嫌いだ。そんな音で目が覚める。

『F、司令室より命令。明後日1900時にて武器密輸組織のリーダーを排除せよ』

「……」

 またか。また仕事か。全く僕が人間じゃないのをいいことに滅茶苦茶を言ってくる。それに逆らえないのもまた事実だが。

「了解した。行きの足と帰りの足は?」

『行きはある』

「……了解」

 やるしかない。そうでなければ僕に居場所はない。とにかく今日は休みだ。何をするわけでもないがフラリフラリと歩き回ろうか……いや、部屋でゴロゴロしていよう。どうせ僕が出歩いても何も得るものはない。出歩くのは仕事の時だけでいいんだ。


――コンコン

 誰かがドアを叩く音がする。その誰かは決まっているといえばそうなのだが。

「なんだ、ロックス」

「おはようF。今日もいい酒が入ってね」

「いらない……っていってもここまで来たってことは引き下がらないんだろ。入れよ」

「あはは。お邪魔します」

 全くこの男は。何が楽しくて僕なんかと一緒に居たがるんだ。

「ホントに何もないね、Fの部屋は。ちょっとくらい家具でも置いたらいいのに」

「余計なお世話だ。簡易テーブルならそこにあるだろ」

「これは家具って言わないんだけどなぁ。まぁいいや」

 そう言うとロックスは持ってきた大きめのクーラーボックスからグラス二つと酒を取り出し片方に白ワインを片方に赤ワインをついだ。

「どっちがいい?」

「赤は渋いだろ。白がいい」

「言うと思った。じゃ、乾杯」

 カチリとグラスを合わせる。ロックスと飲むのはなにも初めてじゃない。これまでも何度かやっている。だがなぜロックスは僕の好みを当てられるのだろうか。それが不思議で仕方ないが持ってくる酒が本当にいいものなのは確かだろう。僕は酒に詳しくないが。

「ふぅ、美味しいなぁ。今日はFと飲めて嬉しいよ」

「ふん」

 後は何を言うでもなく酒だけが少しずつ減っていく。僕がロックスに話すこともないし、ロックスから何か話してくることもない。

……この男は何がしたい? 本当に読めない。人の考えることを当てるなんてこともにはあったがそれをもってしてもロックスの考えはわからない。わかることといえばいつもいつもニコニコしている奴、とだけだ。

 そんなこんなしていると二瓶ほど空いて時刻は昼過ぎになってきた。朝っぱらから飲んでいたのも大概な気はするがまぁいいだろう。今日は休みだし何かあったとして別段問題にはならない。

「うーん、酒がなくなってしまったね。追加を買いに行こうか」

「勝手にしろ」

「勝手に、ってFも行こうよ」

「なんで僕が行かなきゃならないんだ」

「んー……気分、かな? あはは」

「チッ、仕方ない」

「決まりだね。足は……ジードに頼むかな」

 出かける気はなかったがもうここまできたら酔っぱらいに付き合うより他はない。さっさと行こう。こんなことを考えるあたり僕も酔っているのだろうか。


――シェード社武器開発区域

「おーい、ジード。いるかい?」

 様々な銃器が並ぶ場所でロックスはジードを呼ぶ。ジードという男はこの武器開発区域の管理人でよく暇をしている奴だ。

「なんだぁ? 俺は忙し……お、ロックスか! それにFも」

 どっかりと椅子に座って新聞をアイマスク代わりにしていた大柄な黒髪の男が起き上がってこちらにフラリとよってきた。

「何用だ?」

「いやー、Fと飲み会をしていたら酒がなくなってしまってね。今から買いに行きたいんだけど車を出してくれないかな?」

「はー、そういうことかい。まぁいいぜ。その代わり俺も飲み会に混ぜろ」

「私は構わないけど」

「……もういい。好きにしろ」

「んじゃ決まりだ。ついてきな」

 はぁ。なんで僕のまわりには変な奴がいるんだ。このジードもまた僕を気味悪がらない変な奴だ。


 そんな感じで僕の休日は過ぎていった。

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