第61話 劣勢

 早坂、井天の双子はもう一人の〈人〉の幹部と戦っていた。


 しかしこちらも戦況は芳しくない。


 その理由はこちらの幹部の男が使っている召喚兵器。


 モチーフとなっているのはカブトムシとクワガタだが、全長は30センチの大きく、角の部分が代わりにブレードになっていて、自由に飛び回って角の代わりのブレードで相手を貫いたり、クワガタの二本のブレードは相手を挟んで拘束することもできる。


 そしてその召喚虫は戦場に常に15体存在して、その全員が3人の相手を無視して橋の方へと飛んで行っているのだ。


 井天の双子は光弾を使いその虫を駆逐しているものの、引き続き召喚され続ける虫たちへの対応に追われている。


 幹部からすると、敵と橋、狙いどころが2つあるのが強みになっている。必然的に対する反逆者側は、橋で頑張っている仲間へ攻撃を通さないために行動が制限される。


 結果、幹部1人を早坂が相手して、虫たちを井天2人が対応するとい連携の分断が自然に出来上がっていた。


「ちょこまか動き回るな……!」


「雲! そっちいったぞ!」


「う……!」


 単調な攻撃であれば対応もできたかもしれない。しかしその虫はある程度の知能を持ち、攻撃をかわしながら敵に迫る機能を持っている。


 光弾を生み出し、射撃である程度撃ち落とそうとしても、潜り抜けてくる虫。


 そして井天が不得意とする近接での対応をせざるを得ない。


 一応、反逆軍所属の人間は全員、銃か光弾生成か弓のいずれかの射撃訓練と、刀による近接戦の訓練を行っているため、全くできないということはない。


 しかし、その精度はあくまで専門としている者より数段劣る。


 戦闘のプロにである反逆軍の井天の双子は、相手の召喚兵器の絶妙に連携の取れた動きに翻弄され、近づかれてからは苦戦を強いられていた。


 一方、早坂は1人で相手の〈人〉と戦わなければならない。


「ククク」


 笑いながら突剣による刺突を繰り返す相手。自分に迫る剣先を見極め、持っている短剣でしのぐ早坂。


 彼女もどちらかというと暗殺を得意とするため、正面戦闘は東堂や壮志郎などに比べて一歩劣る。


 現状防戦一方だった。


「どうしたどうした?」


「……静かに戦えないんですか?」


「なんだよ、ノリ悪いなぁ」


 一度攻撃の手を緩める敵。できた隙を見極め井天達の様子を確認する。先ほどよりも表情が厳しくなっている様子を見て早坂は焦りを隠せない。


「せっかく手加減して、楽しくやってるんだから、もっと楽しませてもらわないとねぇ?」


「度し難いですね。命のやり取りを楽しむなんて」


 短剣を逆手で持ち、余裕の笑みを浮かべるその男を見据える。その瞳には余裕はなかった。





 季里によって地下へと連行された昇。


 地下は発電所の区域。数多くの人間が、多くのコードと呼吸器を取り付けられて、老化や衰弱を著しく減速させる特殊な液体でいっぱいな水槽に閉じ込められている。


 水槽は1人につき1つ、お1人様サイズで用意されているため、ここにはたくさんの水槽が並んでいる。普通の人間が見れば恐怖を抱かずにいられないだろう。


「懐かしいだろう?」


 季里は昇に語り掛けた。


 昇は下を向いたまま何も言わなかった。


「お前はあの日、ただひたすらに逃げた。ここにいる連中を見捨てて。まあ無理もない。意識を奇跡的に取り戻しても半狂乱状態だったお前に、他人を助ける余裕はなかったからな」


 季里は水槽の操作をすべて統括するコンピュータパネルの軌道を始める。必要な操作を行うために。


「当時の監視の職員は驚いていた。警報が鳴って人間の水槽を見に行ったら、コードが外れておぼれてしまう寸前だった。すぐに水槽の水を抜いてやったそうだ。そしたら、急に暴れだしたそいつは、どこにそんな力を隠し持っていたのか、ガラスをたたき割って、その場にいた職員に襲い掛かった」


 昇から反応はない。それが気に入らなかった季里はしかめっ面になり、続きを語る。


「デバイスだけを奪うと、研究所の外に何とか脱出。外の警備兵から逃れるために川に飛び込んだ」


 パネルを操作しながら、季里は昇を邪魔そうな顔で投げ捨てる。床に転がった昇を見下しながら、口を動かした。


「私はね。その時――」

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