クラス一の美少女な彼女と、世界一の美少女な俺の妹 〜モデルを目指すクラスメートと、国民的女優な妹と〜
山田よつば
第一章
第1話 今日は可愛いかな
『お兄ちゃん! 朝だぞ!』
「…………」
朝食の途中。
CMの声に呼ばれた気がしてボーッとテレビを見てしまう。
テレビに映っているのは睡眠に効果があるらしい栄養ドリンク。
CMによると朝起きれない人はこの一本で全て解決! らしい。
解決しなかった人からクレーム来そう。
『皆もこれ飲んで、頑張って!』
女優のウインクでCMが終わると、次は違うCMに同じ女優が登場する。
最近、高校生とは思えない美貌、1万年に1人の逸材、とか言われて持て囃されてる人気女優。
名前は、
1万年って人類ナンバーワンじゃね? みたいなことを皆思うんじゃないかと思いきや、別にメディアがゴリ押してるわけじゃなく視聴者からの支持も高いらしい。演技力も高いとかなんとか。
今流行りの女優ということで知っているのが当たり前らしく、クラスでも話を振られる。
ただ、残念ながら俺は「○○って可愛いよね」と話を振られても全く話に乗れない。
そりゃ「うん」と答えることくらいはできるけど、本心では「そこまでか?」と思ってるせいで話が続かない。
「最近あのグループが来ててー」と話してる同年代と、「最近アイドルの顔も大体同じに見えるんだよ」と話してるおじさんがいたら全力でおじさんに賛同する。
これも当然口には出さないけど。
興味がないせいで、どれだけ可愛いとか美しいとか言われてる女優とかモデルとかを見ても、心の底からなんとも思わない。
だからと言って男が好きというわけじゃなく、女子に近づかれたらドキドキする心は残ってるから、多分綺麗な人間を見るのに慣れてしまったんだと思う。
今やテレビをつけたらほとんど美男美女しかいないわけだし。俺みたいな人も探せばいるだろう。
「ふふ……おはよぉ〜、
「……おはよ」
そうして朝食を食べてるうちに、妹が起きてくる。
ボサボサの髪で、俺を見るなりにへらと笑って椅子に座る。
テーブルにつくと、俺達よりも早くに家を出ていった母さんが作ってくれた朝食を二人で食べ始める。
いつもと同じ朝。毎日見る景色。毎日見る顔。
だから――「慣れた」ということを言うなら、さっきのCMの女優についてだけは特別かもしれない。
「今日も忙しいから、頑張ってくるね」
「……はいよ」
「早人はどこ行く?」
「特に行くかわからないし伝える意味もないし」
「ダメだってちゃんと教えてくれないともしもの時困るんだから」
「もしもの時があったとしてお前は仕事で来れないはずだ」
「仕事なんて休めばいいだけだし。どこか行く気になったらちゃんとその時連絡してよね」
「今の会話のせいでどこか行く気は失せた」
「なら良かった」
何故なら。
ナチュラルに束縛する恋人のようなことを言っている目の前のすっぴんの美少女こそが、一万年に一人の美少女、赤羽美優なんだから。
◇◆◇◆◇
「ねえねえねえ! 聞いてよ早人! 朝起きてテレビ付けたら僕美優ちゃんに『おはよう』って言われちゃってさあ!」
俺が登校して席につくと、後ろの席から重大なニュースでもあったような勢いで話しかけられる。
「……ああ、CMだろ」
「そうそうそう! あれ今日からじゃなかったかな? 僕もうテンション上がっちゃってさあ!」
「じゃあとりあえずテンション下げような」
「もう上がりっぱなしなんだよね!」
「じゃあ下げような」
男にしては甲高い声で大声を上げるのは、今年の春から同じクラスの前後の席になって知り合った
初対面でショートカットの女子と間違われるルックスで、何故か常にファッション誌を持っているくせに、口を開けばバリバリ男の子なことしか言わない微妙に残念な男子。
俺とは全く趣味が合わないと言ってもいいけど、会話は気軽だし、なんだかんだで気が合うことが多いからか、いつの間にか仲良くなってた。
「今日のあれは幸せな登校だったなあ! 早人は見なかった?」
「俺は……テレビつけることないから」
「朝のニュースも見ないの?」
「時間もったいないし」
「ほぇー」
「変わってるね~」と中性的な声で言った辺りで、まことのテンションは徐々に落ち着いていった。
まことは、簡単に言うと『可愛い』が好きな人間らしい。
こう言うと可愛らしいけど、もっと言うとまことは可愛い女の子が好きな人間だ。ここまで言うと一気におっさん臭くなる。
だから当然今をときめく若手女優である赤羽美優のことも大好きで、俺と血縁関係があるなんてことは全く知らずに俺の妹の話を振ってくる。
と言ってもその時は、俺は他のアイドルや女優の話と同じように軽く流すだけなんだけど。
「僕はテレビ見ない生活なんて考えられないな〜」
「一回消してみろよ。そんな必要ないって気づくかもしれないし」
「でも多分消した瞬間耐えられなくなってつけると思うんだ」
「なら仕方ないな」
もうそこまでいってるなら俺にできることはないですね。
まあ、暇な時に音を求めてテレビをつける気持ちは俺にもわかるけど、単純に見るものがないからテレビに熱中する気持ちは俺にはわからないな。
「なに見てるんだ?」
「何でも見るね! 好きな子が出る番組は全部録画するから!」
「へー……ドラマとかか」
「何でもだよ何でも! なんかよくわからない教育番組とかでも可愛い子が出てれば見てるだけで幸せだね!」
「そりゃ凄い幸せだろうな」
まことのメンタルがあればどんなテレビ番組でも楽しめそう。
正直ちょっと羨ましい。
「早人も同じ趣味なら僕のおすすめ番組教えてあげるのになあ〜」
「多分そんだけ見てる奴のおすすめならネットに投稿したら結構ありがたがられると思うぞ」
「可愛い子が出てればどんな番組でも見てきた僕が教えるおすすめ番組十選!」みたいな。
説得力あるもん。
「正直に言うと無理やりにでも早人には布教したいんだけど」
「多分布教しても何一つ響かないからやめた方がいい」
「そうなんだよねぇ」
無駄な努力はしない方が賢明だ。
「早人には可愛いって言う感情がインプットされてないしなあ」
「俺をロボットみたいに言うな」
「……あ、というか、それで言うと気を付けないとダメだよ早人」
「なんの話だ」
「
「……美山さん?」
まるで共通の知り合いのように言うまこと。
そう言われても俺の頭に美山さんはインプットされてないし。
ただ、クラスに美山という苗字の生徒はいた気がする。
「登校してきたら可愛いかどうか聞いてくるんだって」
「…………あれ、今妖怪の話ししてる?」
「失礼すぎない!?」
「いやだって」
朝登校してきたら「私可愛い?」って聞いてくるんだろ。
多分口裂け女の親戚か何かだと思うけどな。
「普通に、今日のメイクとかが可愛いか確かめてるだけで……変な意味はないと思うけど」
「そうかねぇ」
自分が可愛いか聞く時点で結構おかしいと思うけど。
「でもそれ、仲間内でやってるだけだろ」
「ううん? 知らない人にも聞いてるらしいけど」
「……なんで?」
「皆と顔見知りになりたいとかじゃない? 僕達も話したことないし」
「ああ……」
「私可愛い?(はじめまして)」ってことか。
普通に話しかければいいだろうに。陽キャは何考えてるのかわからん。
「それでさあ、早人だったら可愛くないとか言いそうで心配なんだよ! スマホ見ながら答えそうだし」
「さすがにスマホ見ながらは話さないけど」
「僕と話してる間ずっと見てるけど!?」
「いやいやそんなわけ…………あ」
……見てるわ。
気づかなかった。
暗記系のやつずっと見てるからもう無意識にスマホ開いてるんだよな。
「初対面でそれやられたら結構イメージ悪いからね?」
「いや、さすがに初めて話しかけられたらそっち見るし……『可愛くない』なんて絶対言わないし、大丈夫だろ」
「ホントかなぁ」
別に可愛いと思わないことに誇りを持ってるわけじゃないし。
人間関係をわざわざ面倒くさくするようなことは言わない。
「まあ、本当に可愛いかは知らないけど、可愛いか聞かれたら可愛いとは言うよ」
「それならいいけど……ん、あれ……早人、もしかして美山さんのこと知らない?」
「さっきから誰の話だろうと思ってたな」
「えっ!? そうなの!? いや教室で過ごしてたら……いやでも、早人は誰が可愛いとか話してても興味ないから……あり得るか」
「有名人なのか」
「そりゃもう!」
まことのテンションの上がり方からして本当に結構な有名人ではあるらしい。
ただ、そんな美山さんも大勢いるクラスの女子の一人として処理されてしまっていたらしい俺の脳内では、美山さんの顔は全く思い浮かんでこない。
「凄い美人でね? モデルでスカウトもされたらしくて、今度何かに載るんじゃなかったかなぁ。で、それでいて結構フレンドリーというか、まあちょっと独特な性格をしてるところもあるんだけど、それもまた魅力的というか、常人には理解できない芸能人のオーラが――」
そんな俺に美山さんのことを熱弁するまこと。
残念ながらそれでも美山さんを知らないクラスメートの一人としか思えなかった俺は、たまにスマホを見ながら、まことの後ろで教室を出入りする生徒達を眺めていたんだけど。
「今日の私、可愛いかな」
教室に入って全体を眺めた後、不意に近づいてきた背の高い女子は、俺たちに向かってそう言った。
はっきりした目鼻立ちと、テレビで見慣れたような小さな顔とすらっとした体。
ドラマの世界などではなく至って普通なこの高校の中では逆に違和感すらあるスタイル。
この女子が「美山さん」なんだろうとは、ちゃんと見てみればすぐに分かった。
「かかかかかかかかかかわわわわわわわ……」
「河合まこと君だよね?」
「あ、そうでしゅ!」
思いがけず自己紹介することになったまこと。
顔を覗くと心底幸せそうな表情をしていた。
多分テレビ見てる時もあの顔なんだろうな。
と、さっき話していたことが本当に起こったところを見て、なるほどと納得しながら、俺は視線をスマホに戻そうとしたんだけど。
「――時君はどう思う?」
「……ん?」
「
顔を上げると、まことを攻略し終えた美山さんが一歩近づいてこっちを見ていた。
まさかの今日二人目の攻略。
まことじゃ簡単すぎて手応えがなかったのか。
「可愛いかな」
「…………」
――この台詞を本当に言われて今思うのは、そりゃ可愛いんだろうよ、ということ。
自分が可愛いかどうかなんて、可愛いという自信がないと言えないんだから。
聞くまでもなく自分では可愛いと思ってるんだろ、と捻くれた頭で考えながら、俺はまことに言われた通りに答える。
「可愛い」
なるべく面倒なことにならないよう、ちゃんと顔も見て答える。
すると美山さんは二人を落として満足――するはずだったんだけど。
「…………」
俺が答えた瞬間時が止まる。
何故かクラスのざわめきすら一瞬止まったような気がした。
俺の答えを聞き、笑顔を貼り付けたまま止まった美山さんを見てか、「あいつやったか……?」みたいな視線が俺に刺さる。
一秒、二秒、三秒、四秒……そして、五秒が経とうとした頃に、美山さんは唐突に手鏡を取り出した。
コンパクトな手鏡。それを使って自分の顔を見始める。
そしてまた数秒経ったあと、美山さんは、
「……ありがとう」
「え、ああ……うん……」
そう言って、誰にも話しかけさせないようなオーラを放ちながら、ふらふらと自分の席に戻っていった。
「……俺、別に間違えてなかったよな」
「え? う、うん……」
今の間で興奮が冷めたらしいまことも、おかしなところはなかったと言ってくれる。
ならあれが普通の反応なんだろうか。いやだとしたらあの教室の空気はおかしいし……。
そうして、それから一日中、俺は「ちゃんと可愛いって言えたよな……?」と、ずっと朝のことを考えて過ごすはめになった。
◇◆◇◆◇
翌日。
「……おはよ」
「おはよー」
登校した俺は、何の変哲もない朝を迎えていつも通りにまことと喋りだす。
昨日なんかあったような気もするけど、考えても仕方ないことは忘れることにした。
確か、特定の女子と初めて話す生徒に訪れる一度きりのイベントだった気がするし。
生きていれば変な奴に絡まれることの一回や二回当たり前だ。
気にせずにいこう。ドントマインド。トゥモローイズアナザーデイ。
「でさ、昨日の体育で――まこと?」
ただ、そうして話してる途中にまことがどこかを見て固まる。
まるで巨人の出現にその日人類は思い出したかのように少し上を見て固まったまことに、どうしたと聞こうとしたところで、
「どうし――」
「――ちょっといい?」
今日は俺の後ろから聞こえる昨日と同じ声。
拒否反応を示して回りたがらない首を説得してゆっくり振り向くと――昨日は下ろしていた髪を、今日は横で編み込んだ美山さんがいた。
「
「…………」
……「今日は」?
何だそれ、一人に対して二回行動とか聞いてないぞ。
そもそも、俺は可愛いと言ったはずだ。
まこともそう言っていた。間違ってないはずだ。
いや、だけど、もしかすると、その言い方や態度が気に入らなかったから今日は格好を変えて――?
――と、そこまで考えて、俺は「あ、これ、最悪今日じゃ終わらないやつだ」と直感で察し。
美山さんの問いに対して魂を込めて叫んだ。
「ウワアアアアアア! メッチャカワイイ!!!」
美山さんはしゅんとした。
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