第6話
大井川を東に渡った頃より、一行の者達の最大の関心事であって、懸念であったところは、彼らが、いかに「箱根」だか「足柄山」だとかいう難所を切り抜けるかということであった。
音に聞けば、そこは、相当の山道で、「賊も出る」というらしい。
新たに、護衛を借り受けられる確たる保証もない。
どうやっても、今の態勢でそこを無難に通過出来るよう、この中の者達の知恵をのみ恃みとする以外に方便がないと、一行の者ども皆が腹を括らざるを得なかったものである。
まず、木曽の出である者の言う山道の切り抜け方を、皆が心に刻みつけ、なるべく、難所に差し掛かる手前までに、食事や休息により、普段よりも十分に英気をつけた上で、天候の良し悪しを鋭意気に掛けながら、宜(よ)いと見たら、これを実行する。その際、常に、女子供の体力が底をつかぬよう、配慮しておかなくてはならない。また、彼女らを取り囲むよう、進行しつつ、決して散漫にも、緊密過ぎにもならぬ有り様(よう)で、男どもは、十全に四方八方に目を光らせながら、先を目指すべきである。
かくなる趣旨の下(もと)、一行は、一路、足柄山の方に足を向けて、無事に相模(さがみの)国に入ったものであった。
陸奥介ら一行は、そのまま相模国府に入った。
人によっては、彼らの“陣立て”を目にして、「あなた様達は、非常に運がお宜しい」などと言いそやす者もあった。
「もう彼らには、恐いものなどありもすまい」と言うのは、少し誇張が過ぎるであろうか。
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