第5話 冒険者になろう!
ギルドの中は意外にも閑散としていた。
もっと沢山の人で賑わってたり、お決まりのマッチョ冒険者に絡まれる! とかのイベントが発生するのを期待してたのに残念だ。
とりあえずよく分からないので、受付カウンターに向かってみることにした。
受付にはリアル猫耳をつけた獣人の綺麗なお姉さんが暇そうに大きな欠伸をしながら座っている。
お姉さんは私が見ていることに気がつくと、恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「い、いらっしゃいませ! どうされましたか?」
「ギルドに来るのはじめてだから、適当に色々教えてほしいんだけど?」
猫耳のお姉さんは私の言葉にピクッと耳が反応したかと思うと、頬を引きつらせながら張り付いたような微笑みを浮かべた。
「適当にですね! 分かりました! ここが冒険者達が集う冒険者ギルドです。あなたも魔物の討伐や依頼を受注してジャンジャン稼いじゃいましょうっ! はい。以上です」
おう……。適当すぎてよく分からん。もしかして私が適当にって言ったから怒ってる?
「これでもうよろしいですか? 私も暇じゃないので、用がないならさっさと何処かに行ってもらってもよろしいでしょうか?」
「いや……。すっごく暇そうに欠伸してたじゃん」
「そ、そんなことないニャ! ……あっ!」
「ニャ?」
猫耳のお姉さんは手で口元を押さえながら恥ずかしそうに瞳を伏せる。
やっぱり語尾にニャをつけて話すみたい。普通に話してるからてっきりアニメや漫画の世界だけなのかと思ったよ。
受付のお姉さんが黙ってうつむいているので、仕方なく私から声をかけてみることにした。
「ニャ? お姉さんどうしたニャ? 大丈夫かニャ?」
もちろんネコ語でねっ!
両手を丸めて猫の手ポーズも忘れない。
「な、なっ……!」
猫耳お姉さんが目と口を開けて間の抜けた声を漏らしたかと思うと、うつむいて身体をプルプル震わせている。
「ニャ?」
私が猫の手ポーズのまま首を傾げると、猫耳お姉さんがバッと顔を上げて、顔を真っ赤にして私を睨みつけながら大きく息を吸い込んだ。
「ふざけるニャ──ッ!! お前喧嘩売ってるんだろ? いいニャッ! その喧嘩買ってやるニャッ!! さあっ! かかってこいニャッ!!」
「おふっ……。ごめんなさい! まさかそんなに怒るなんて思わなかったんだよ! ねっ? 機嫌治して?」
猫耳のお姉さんは息を切らせながら、ジト目で私を見つめる。
「はぁ……はぁ……。それで? なんの用なんですか?」
「あはは。えーと。ちょっとさっきのじゃよく分からなくてさ」
猫耳のお姉さんは呆れた表情で大きく溜息をつくと、両手をバンッとカウンターに叩きつけて、前のめりになりながら私を見つめた。
「じゃあ初めから適当になんて言わないでくださいよ!」
「あはは……。ごめんなさい」
「じゃあいいですか? よーく聞いててくださいね? 魔物は素材になる部位を剥いでギルドに持ってきてくれれば買取致します。またギルドには冒険者ランクと言われるものがあります。Fランクからはじまって最高がSSランクになります。この冒険者ランクに応じて受注できる依頼が異なります。依頼は毎朝あそこの掲示板に貼りだしますので確認してみてください」
そう言って、猫耳のお姉さんは壁に貼り付けてあるボードのような物を指さした。
「討伐した魔物は丸々持って来ちゃだめなの?」
「できるならそれでもかまいませんよ? 解体を代行することになるので、手数料はいただきますがそれでよければ」
「ふむふむ」
「それでどうされますか? ギルドに登録しますか?」
「うん! 登録したーい! お願いしていい?」
「では登録手数料として銅貨5枚になります」
「えっ?」
「ですから登録手数料として銅貨5枚いただきます。」
「お、お金いるの!?」
「もちろんです」
マジかぁー!! 困ったなあ。お金がないから来たのに……。
「あの。もしかしてお金持ってないんですか?」
「……はい」
「はぁー……。分かりました。私が貸しといてあげますよ。ちゃんと返してくださいね?」
「おおっ!! ありがとー!! 本当に助かるよ。えーと……。お姉さんお名前は?」
「ああ。私はミリア。よろしくね」
「ミリアさん! 私はミサキだよ。こちらこそよろしくね!」
「じゃあ登録するので、この水晶に手を置いてください」
「はーい!」
ミリアさんはカウンターの下からボールぐらいの大きさの水晶玉を取り出して、テーブルに置いた。
水晶には手を置くような窪みがあったので、そこに手を置いた。
「えーと。レベルが……。えっ!? じゃあ職業は……?」
ミリアさんは水晶を見つめながら、ブツブツと小さな声で呟いている。
「……な、なによこれ。こんなのありえないわ……」
水晶を見つめながらミリアさんの顔がだんだんと青ざめていき、口をパクパクさせている。
「ミリアさん?」
「ひゃいっ!」
私が名前を呼ぶと、肩をビクッと震わせて頬をピクピクと引きつらせながら私を見つめる。
「ど、どうしたの?」
「し、少々お待ちいただけますか!?」
「う、うん」
ミリアさんは慌てた様子で椅子から立ち上がり、奥に駆け出していく。そうとう急いでたのか近くのテーブルに腕をぶつけて、痛そうに顔を歪めながらぶつけた腕を逆の手でさすっている。
しばらく待っていると遠くからミリアさんと男の人の話し声が聞こえてきた。
「ニャ! 99で魔法使いなのニャッ!!」
「ちょっと落ち着けッ!! なにを言ってるんだかさっぱり分かんねえぞ!?」
ギルドのカウンターの奥のほうから筋肉質で引き締まった体格の40代前後のおじさんがミリアさんを嗜めながらこちらに向かって歩いてくる。
おじさんは私の前までくると豪快に笑いながら、バツが悪そうに頭を掻いて椅子に座る。
「はははッ! 待たせちまったみたいでわりぃな嬢ちゃん。ちょっともう一度水晶に触って見てもらってもいいか?」
「あっ。うん。これでいい?」
「おう! それで大丈夫だ。まったくミリアのやつ。ギルドにきて3年も経つのに取り乱しやがって……。おっ! でてきたな。えーと。どれどれ。……はっ?」
呆然と、おじさんが目と口を開けて間の抜けた声を漏らした。
さっきから何この反応。ミリアさんといい、このおじさんといい、一体その水晶で何を見ているの?
なんだかちゃんと登録できるのか心配になってきちゃったよ。
「ねえ大丈夫? なにか問題でもあったの? 私ギルドに登録できるよね?」
ギルドのおじさんは私の声に気づいたのかハッとしたように我に返ると、昔テレビでみたオモチャの人形みたいに何度も首を縦に振った。
「も、もちろんだぜ嬢ちゃん! ミリアが俺を呼ぶわけだ。ただこりゃちょっと困ったなぁ……」
「困った?」
「いやな。本来であれば登録時の実力に応じてランクを決めるんだが嬢ちゃんの実力が測りかねるんだよ。レベルはとんでもねえんだが、この魔法使いって職業はなんの武器で戦うんだ?」
「んー。しいていえば杖とかかなー? 杖がなくても問題はなさそうだけど」
「ふむ。打撃系の職業か。ますますよく分からねえな……。なぁ。外に訓練場があるんだが、そこでちょっと見せてもらってもかまわねえか?」
だ、打撃系? この世界で杖って使ってる人いるのかな? 全く役に立ちそうにないんだけど……。振り回して殴るならその辺にある硬めの長い木の棒とかのがよっぽど強そうだ。
「嬢ちゃんどうしたんだ? 何か考え込んでるみたいだが……。なにかまずいことでもあったか?」
「あっ! ごめんごめん! 大丈夫だよ。誤解があるみたいだけど、見せたほうが早そうだから後でいいや」
「そうか? じゃあ俺についてきてくれ。訓練場はこっちだ」
ギルドのおじさんの案内でギルドの奥の扉を開けて中に入る。
訓練場は元の世界の体育館ぐらいの広さがあった。冒険者らしき人達が木で作られた人形をつかって、木剣や長い木の棒で戦闘の訓練をしている。
なんだか教わってるような感じだなぁ。戦闘の講習でもあるのかな?
「ここが練習場だ! どうだ? 結構広々として立派なもんだろ?」
「うん。これはすごいね! もっと小さいものかと思ってたよ!」
ギルドのおじさんは豪快に笑いながら、得意げに胸を張る。
「ガハハハ─ッ!! そうだろうそうだろう。ここはアイン王国一の訓練場だからな! よし! じゃあさっそくだが準備して見せてもらっていいか?」
「りょーかい!」
私はアイテムボックスから杖を取り出した。
長さは私の身長と同じぐらいで、杖の先端は煌びやかな3つの宝石に彩られている。
ゲームでずっと使ってた私の相棒だ。まさか実際にこの手で持つことができるなんて夢にも思わなかった。
「ぷぷぷっ! あんた騎士の格好をしてるのに、そんなおかしな杖で戦うつもりなの?」
「おいっ! 笑っちゃ悪いって! ぷぷっ!」
感激しながら杖を眺めていると、馬鹿にしたように私の相棒を嘲笑う声が訓練場に響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます