異世界で史上初の魔法使いになったので、世界は私のものかもしれません!

ヨモギ餅

序章

第1話 異世界へ行くことになりました。

 私の名前は神田美咲かんだ みさき

 オンラインゲームが大好きな普通のOLだ。


 今日もいつも通りの職場で、ムカつくパワハラ上司に耐えながら仕事を終えて自宅のアパートに帰ってきた。


「あのクソ上司! 私達にサービス残業ばかりさせて先に帰りやがって! ……はぁー。もうホントに生きてるのが嫌になる」


 溜息を吐きながら疲れた顔でポストの中を確認すると、ポストに1通の手紙が届いていた。しっかりとして高級そうな黒い封筒だ。


「なんだろ? この手紙……」


 こんな手紙受け取ったことない。

 どこか別の家と間違えてんじゃないの?


 不審に思いながら、黒い封筒をポストから取り出して宛名や住所を確認してみる。


 手紙には文字が一切書かれていなかった。

 それどころか切手すら貼られていない。


「こわっ!! まさか不幸の手紙とかじゃないよね?」


 なにが書かれているのか気になって、恐る恐る封筒を開けてみると、金の羽の模様が描かれた一枚の高級そうなメッセージカードがはいっていた。


 不幸の手紙にこんなメッセージカードつかうかな? でも名前も書いてないしなぁ。


「ん〜。なにが書かれてるんだろう?」


 興味本位でメッセージカードを開いてみると、短い文章でこう書かれていた。



『新たな人生始めませんか?』



 メッセージカードを見て、おもわずミサキの口元がほころぶ。


「あははっ! な〜んだ。ただの悪戯か。もうっ! ドキドキして損したぁ。まったく! なにが新しい人生だよ! 始められるもんなら今すぐにでも始めたいつーのッ!!」


 メッセージカードをコートの中にしまって、アパートの階段を登ろうと一歩足を踏み出した。次の瞬間。目の前が激しい光に包まれた。そのあまりの眩しさに思わず目を閉じる。


「きゃっ! なにこれ!?」



 こうして神田美咲かんだ みさきは光とともにこの世界から消失した。



◆◇◆◇



 ゆっくりと瞳を開けていくと、目に執事みたいな格好をした髭の長いお爺さんが椅子に座って私を見つめていた。


「えっ! あんた誰!?」


「フォフォフォっ。はじめましてミサキさん。私は神代行をしているフォルスです」


「な、なんで私の名前を知ってるの!? あっ、もしかしてストーカー!?」


 慌てて辺りを見渡すと、先程までアパートの階段にいたはずなのにまるで西洋の貴族の部屋みたいな煌びやかな光景が目の前に広がっていた。


 高級そうなテーブルと椅子。優雅な純白のレースの天蓋がついたベット。どれも高級そうでとてもじゃないが私の給料じゃ買えそうもない。


「ストーカーではありませんよ。貴女が望んでここにきたんじゃないですか?」


「私が望んでここにきた?」


 このお爺ちゃんはなにを言ってるんだろ?関わっちゃいけないタイプか?


「ミサキさんは新たな人生を始めたいんですよね?」 


「あっ! あの手紙のこと?」


「ええ。その通りです。始めてみたくはありませんか? 剣技とスキルが存在する別の世界へ」


「行ってみたいです!!」


 私が即答するとお爺ちゃんは目を丸くして驚愕の表情を浮かべた。

 

 あんなバランスの悪い無理ゲーな世界より別の世界のがいいに決まってるじゃん。なに驚いてるんだろうこのお爺ちゃん。


「そ、即答ですか。普通は戸惑ったり、躊躇したりするんですけどねえ」


「悩む理由がひとつもないからね! でもこのまま放り出されるのは嫌だよ?」


「それはもちろんです。なにか希望はありますか? よほど世界のバランスを壊すような要望でなければ叶えますよ」


「バランスを壊すって例えば?」


「そうですねぇ……。例えば最強の力とか不老不死とか魔法とか、そういったものですかね」


「んーっ!!」


 腕を組みながらどうするか考える。


 剣技とスキルの世界か……。んー、わたし運動神経とかあまり良くないから何にするか迷うなぁー。


 私のやってるゲームのキャラみたいなステータスとスキルが使えれば何も困らないんだけど……。でもきっとダメって言われるよねぇ。


 いや? でもダメ元でお願いしてみるのもありか?


「ねえお爺ちゃん! 私のやってるゲームのキャラのステータスとスキルを持っていくことはできる?」


「ん〜? 初めての聞く要望ですね。そのゲームというのは……これのことですか?」


 お爺ちゃんが手を軽く振ると、空中に私のPC画面が映し出された。


「おーっ!! 私のPC画面だ! じゃあそのアイコンを起動して? そうそう。そのキャラクター!」

「ほぉ……。こちらの世界にはこんなものがあるんですね」


 映し出された映像には、ゲームのキャラクターを選択をする画面が映し出されていた。

 ステータス値やレベルも表記されている。


「この赤髪の可愛らしい騎士のキャラクターでいいんですか?」


「そうそう! このをしたキャラクターがいいの! アイテムや装備もついでにつけてよ!」


「ふむ……」


 お爺ちゃんは髭を撫でながら険しい表情で考え込む。


 ここで考えさせちゃいけない! そうだ! お爺ちゃんと孫作戦でいこうっ!!


「ねぇお爺ちゃん。新たな世界に行くのに今のままじゃ私すぐ死んじゃうよ? ねぇねぇ。だめかなぁ......?」


 私はお爺ちゃんに近づくと、そっと手を握ってお爺ちゃんの瞳をジーっと見つめた。


「し、しょうがないですねぇ! たしかにミサキさんの言う通りなのでそうしましょうか」


「ありがとうっ! お爺ちゃん!」


 このお爺ちゃんチョロすぎない? 神代行がこんなので大丈夫なんだろうか……。


「ではミサキさん。心の準備はいいですか?」


「もちろーん! 早く送っちゃってぇ!」


「貴女は本当に変わった人だ。では新しい世界をどうぞ楽しんでください」


 再び目の前が激しい光に包まれたので、私は反射的に目を閉じた。



◆◇◆◇



 草木が風に揺れる音と鳥の囀る鳴き声に気がついて、私はゆっくりと目を開けた。


「ここが私の新しい世界……」


 自分の格好を確認する。


 小柄な赤い髪。リボンのついた可愛らしい鎧とキラキラ光る剣。

 

 アイテムボックスも問題なく出すことができた。中に入ったアイテムや装備もそのまんまだ。


「あっ! そうだ。ステータス画面はだせるのかな?」


 ステータス画面は、ステータスと声に出しただけで、目の前に問題なく表示された。



 ────


 名前:ミサキ

 種族:人族

 LV:99


 職業:使


 STR:5

 Agi:50

 DEX:MAX

 INT:MAX


 ────


 スキル画面もゲームで覚えてたものと、まったく同じものが並んでいた。


 思惑通りことが進んだことを確信して、ミサキはニヤリと口元を歪ませて、邪悪な笑みを浮かべた。


「あはははっ!! やった!! 大成功だっ!!」


 のまま、魔法使いで異世界にくることができた!


 私がこの剣技とスキルの世界で初めての魔法使いだ!!

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