第41話 決心

ユウゴとケイスケを送った後、事務所に戻り、日報に1日の作業量を入力していた。


『すげぇ… 昨日の倍だ… 美香の作業、めちゃくちゃ早かったもんなぁ…』


そう思いながら入力作業を終え、親会社社長である兄貴にメールをした後、『飯、どうすっかなぁ』と考えていた。


すると、すぐに携帯が鳴り【兄貴】と表示される。


兄貴は電話に出るなり「日報見たけど、数字間違えてないか?」と切り出してきた。


「いや、合ってるよ。 今まで在宅で頼んでた子が、急遽来てくれたんだ」


「そうか。 じゃあこっちにある依頼分、全部そっちに回してもいいな?」


「いや待って。 正社員じゃないし、体調がまだ万全じゃないから、明日も来れるかわかんないんだよ」


「無理そうなら早退させればいいだろ。 とにかくこれからは全部そっちに回す。 あと、明日の午後、こっちに来てくれ」


兄貴はそういった後、電話を切ってしまった。


次々にクラウドに挙げられてくるデータと、次々にプリントアウトされる書類の数に、ただただ愕然とすることしかできなかった。


『マジで言ってんの? 嘘だろ?』


そう思いながら納期の近い順に資料をまとめると、急ぎの案件がかなり多く、がっかりと肩を落としていた。



翌朝、誰よりも早く来たユウゴにその事を伝えると、ユウゴは「美香が来れるなら大丈夫だとは思うけど、今日来れるのか?」と聞いてきた。


「電話してみるか…」と呟くように言った後、美香に電話をし「体調どう?」と聞いてみると、美香は何も言わなかった。


「あんまり良くないみたいだな…」


「…どうかしたんですか?」


「ん? ちょっとな。 急ぎの案件が着たんだけど、ユウゴも手いっぱいだし、俺も出なきゃいけなくてさ」


ため息交じりにそう言うと、美香は少しの沈黙の後「午前中だけなら…」と答えてきた。


思わず弾んだ声になってしまい「マジで!? 助かる!! 少し遅れてもいいからね!」と言い、電話を切ると、ユウゴは「朝から幸せそうですね」と棒読みのような口調で言ってくる。


「うっせーよ」


「つーかさ、お前良いの? 美香の事、狙ってんだろ? 社長が社員にって、兄貴が黙ってねぇんじゃね?」


「…そういやそうだな」


呟くように言うと、ユウゴはニヤニヤしながら「ふーん」と言ってくる。


「なんだよ?」


「やっぱ狙ってんじゃん」


「うっせーな。 別に狙ってなんかねぇよ」


「強がりっすかぁ? それとも諦めたんすかぁ? 社長、どっちっすかぁ?」


「うるせーっつーの! 美香とは社員と社長ってだけ!! それ以上でもそれ以下でもない!!」


「言ったな? 腹括れよ?」


「わかってるよ!」


苛立ちながら言った後、美香にお願いする資料を仕分けしていた。


『腹括れか… しゃーないよな。 立場ってものがあるし、兄貴に知られたら何されるかわかんないし… 美香とは社員と社長ってだけだ。 それ以上でもそれ以下でもない』


自分に言い聞かせるように決心し、資料の仕分けを続けていた。


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