第18話 卒業

結局、部活は3か月間の活動停止になっていた。


おそらく、みんなから話を聞いた教師が、顧問に対して何らかの処分をしようとしたんだろう。


顧問は親の介護を理由に退職していた。



美香が休み始めて2週間がたった頃、浩平から「F組の女が不倫してる」と言う話を聞いていた


『あいつ… 何にもわかってねぇじゃねぇかよ!!』


そう思うと、あまりにもムカついてしまい、浩平に「野村が振られた腹いせに、変な噂を流してる」と言う話をした。


「え? マジで?」


「園田と山本もそうだったらしいぜ? 今度はその女に振られたんじゃね?」


適当に言った言葉だったけど、信憑性があったせいか、その話は一気に広がっていた。


今まで好き勝手に噂を流していた野村は、誰も寄り付かず、完全に孤立してしまい、誰かに話しかけようとすると、逃げられるばかりで、話し相手が誰も居なくなってしまい、その翌月には自主退学をしていた。


原因になった奴らはみんな消えて行ったけど、自分の中に虚しさだけが残っていた


ケイスケや浩平が話しかけてきたけど、気の抜けた返事をするばかり。


毎日のように通っていたユウゴのクラスにも行かなくなり、自分の教室に居るだけだった。


ずっと好きだった人も、幼馴染の親友も居なくなり、ただただぼんやりとした日々を過ごすだけ。


部活の活動停止期間が明けた後も、部活に行く気がなくなってしまい、そのまま退部していた。


が、しばらく虚しさが押し寄せた後に、ふつふつと怒りが込み上げてきた。


毎日ただただイライラしていたんだけど、怒りをぶつける場所がなく、だれかれ構わず、話しかけてくる奴らに当たり散らしていた。


毎日、帰り道に通っていた公園にも行かなくなり、学校が終わった後はまっすぐに家に帰る日々。


家に帰っても、親が居るわけでも、兄貴が居るわけでもなく、ただただ孤独を感じ、苛ついているているばかりだった。



ある日のこと、家でゴロゴロしていると、珍しく親父が帰宅し「お前、卒業したらどうするんだ?」と聞いてきた。


「なんも決めてない」


「そうか。 じゃあ専門行け。 2年で卒業出来る」


親父はそう言いながら、学校のパンフレットを渡してきた。


「映像制作?」


「ああ。 今度、映像の仕事も抱えることになったんだよ」


「俺継がないよ?」


「継ぐのは光輝だ。 それを手伝え」


「は?」と言いかけると、親父の携帯が鳴り、親父は話しながら出かけてしまう。


「えー… めんどくせぇなぁ…」


そう思いながらパンフレットを眺めていた。



パンフレットを渡された数日後、珍しくユウゴからメールで【バイト決まった! 映像制作会社! なかなか面白い。 お祝いしてくれていいよ?】と言うメッセージが届いた。


【気が向いたらな】とだけ返信し、ため息をついていた。



美香はしばらくの間休んでしまい、次に会った時には3年になったとき。


久しぶりに会った美香は、かなりやせ細り、あんなに綺麗だった髪は、少し艶が無くなっていた。


話しかけることも、近付くこともできないままに、遠くから後ろ姿を眺めるだけ。


ケイスケが話しかけても、大磯と山越が美香を連れてどこかへ行ってしまうため、一部の女子以外は話しかけられないでいた。




あんなに近くに行けたのに


あれだけ強く抱きしめることも出来たのに


全てが嘘だったかのように


遠くから背中を眺める日々を過ごしたまま


卒業をしてしまったんだ。



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