武器新調(2)
フレイヤは
――使いやすい大きさに精錬しなおした方が良さそうですわね。
剣聖と言われる
それだけの重さがある金属なのだから、そのまま一つの剣にして振り回すことなど不可能だ。それに、非常に硬い金属なのだがとても
「あとは、これとこれと……」
整然と並べられた金属塊から必要となるものを取り出していく。
殆どが
数分掛けて金属塊を集めると、フレイヤは作業部屋へと戻る。
これから行う作業は、錬金魔法による剣の制作だ。
最初に準備するのはダンジョンで倒した恐竜の皮を
これは剣の錬成に用いる設計図だ。
火系統の魔石に蓄えられた魔力を補助に用い、高温でなければ溶けない金属を溶かして合金を作ると共に、「鍛造錬金」という手法を用いて剣を作る。
なお、獣皮紙には術者の手を置く場所――トリガースポットが決められている。準備を済ませ、このトリガースポットに両手を置いて魔力を流せば、錬金魔法が発動する仕組みだ。
フレイヤは獣皮紙の中心に描かれた大きな円の中に大きめの赤い魔石を置くと、周辺に描かれた小さめの円の上に、最初に取り出した青灰色の金属、白銀色の金属がいくつか……最後に鉄の塊を空間収納から取り出して置いた。
準備を完了したフレイヤはトリガースポットに両手を置いて魔力を込めていく……。
フレイヤが魔力を注ぎ込んだことで、中央に置いた赤い魔石の光が少しずつ明るくなり、熱を持つ。やがて獣皮紙の上にゆらゆらと陽炎が立つと、赤かった魔石がその色を失い、青白く明るく輝き始める。そして、周囲に置いた金属塊のうち、融点が低い金属から順に溶け始め、獣皮紙の上で中央の魔石のある場所へと流れていく。
最後に最も硬く重い青灰色の金属が熱で黄色く発光しながら溶け出し、魔石の下へと流れ込んで他の金属と
さて、ここからが正念場だ。
フレイヤの眼前にあるのは金属が溶けた四千℃を超える液体である。
ほんの
だが、フレイヤは自信に満ちた目で溶けた金属を見つめ、次の工程――剣の形を強くイメージし、成形する作業へと進む。
フレイヤが明確なイメージを作り上げて魔力を込めると、溶けた金属が魔石の上に伸びて薄い剣の形をつくりあげた。
これが剣の芯となる部分であり、刃となる。
これは最高硬度を持ちながらも、適度な靭やかさを兼ね備える青灰色の金属を含む金属――ウォルフレイム合金の刃だ。
続いて、その刀身を強化するように溶けた金属が幾重にも広がり、部屋の中に鉄を鍛えるときのようなリズミカルな槌の音が響く。魔力で出来た槌が打ち付けられると、刀身からは不純物の火花が散り、異なる金属同士が強固に圧着されていく。
最後にウォルフレイム合金で極薄の皮膜を作り、焼入れすれば刀身はほぼ完成だ。
だが、ガード(鍔)やグリップ(握り)、ボンメル(柄頭)などを作り、研いで仕上げる作業はまだ残っている。
「お風呂は終わってからにすればよかったですわね……」
暑くなった部屋の中で汗を拭いながら、フレイヤはひとり呟いた。
◇◆◇
三時間ほど掛けて出来上がった剣は二本。
実際の鍛造と比べると恐ろしく短時間でできてしまうが、魔力で叩き鍛えて作られた剣になっているので、鍛造と呼ばれている。
一本は姉、ミミルが得意とするベリアルムという合金で出来た赤い刀身をした片手剣。
この片手剣は、地球ではブロードソードと呼ばれる剣に近い大きさだが、ブレードよりも細くなったリカッソがあり、赤い刀身も相まって装飾性もある剣になっている。
なお、ベリアルムは適度な撓り、粘りと硬さを兼ね備えた金属で、磁力を通さない特性がある。
そしてもう一本は、ニ・ウォルフレイム。
フレイヤにしか作ることができない、青白い刀身を持った片手剣だ。
形状はベリアルムで作った赤銅色の片手剣と同じ。素材の違いでニ・ウォルフレイムの方が五割程度重く仕上がっている。
耐久性があり非常に硬く、それでいて靭やかで粘りのある剣だ。
共に同じガード、グリップ、ボンメルを使っている。
――姉さまの身に何が起こっているかわかりませんし……
自分が持てる最高の力を出し切って作り上げた新しい武器。
それを持って、姉のもとに馳せ参じたい……。
フレイアの強い思いが籠もった武器ができあがった。
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