第39話
ようやく入口に到着した。時計を確認すると、午前五時五〇分。
十時間もダンジョンに篭っていたことになる。
これで店の庭に戻って圏内に戻ると、時間が日本標準時に調整されるので、地球上の何時間がダンジョン内の十時間に該当するかがわかる。
ミミルと共に転移石に触れると、そこはもう自分の店の奥庭の地下。地球側のダンジョン入口だ。
俺はまずスマホを取り出して、階段を上がる。
ダンジョン内の時間の流れがどれくらい違うかを確認するためだ。
だが、なかなかスマホの表示が圏外からアンテナ表示に変わらない。スマホの表示している時刻は、午前五時四〇分。
なかなか圏外表示が消えないスマホに少し苛つき始めたころ、表示されている時刻が変わった。
〝午後九時四八分〟
約一〇時間、ダンジョンに潜っていたが、地球上では約二時間しか経過していない。
つまり、ダンジョンの第一層では、時間の流れが地球の五倍ということになる。
『じかん、ちがい、どう?』
「ああ、ダンジョンは地上の五倍だな。理屈はまったくわからないが、事実としてそれだけ違うということがわかったよ。ありがとう」
ダンジョンの中ではミミルがいなければ俺は何もできないからな。
彼女には感謝の言葉しかない。
つい頭を撫でてしまいそうになるが、そこは我慢する。また怒られるからな。
『ん――』
ミミルは照れたように俯く。
「さて、まず最初は風呂からだな――」
ふたりで建物の中に戻り、途中で風呂の栓をしてお湯はりボタンを押して一時部屋に戻った。
◇◆◇
部屋に戻った俺は早速、インターネットで電磁波について調べることにした。
電磁波の発生のメカニズムは魔力を使って発生させる俺の方法とは根本的に違うものなので参考程度にしかならないな。
電子レンジは、水分子に直接エネルギーを与え、振動させることで温度を上げる。
電磁波を用いて魔物を攻撃する際も同じ原理で魔物の体内にある水分子を直接刺激することで高温にし、組織を破壊しているのだろう。
その前提でわかったことは二つ。
一つ目は、「出力を上げると、加熱速度が上がる」ということ。
五〇〇ワットと一五〇〇ワットでは弁当の温め直し時間が違うのと同じだ。
二つ目は、「効率がいい周波数帯がある」ということ。
一般の電子レンジは二.四ギガヘルツ帯を使っているが、効率よく水分子の加熱ができるのは一〇ギガヘルツから三〇ギガヘルツの間だという。温度が上がれば、周波数も高い方が効率がよくなるらしい。
なお、電子レンジは国際電気通信連合というところが、周波数帯ごとに用途を決めたから二.四ギガヘルツ帯を使っているだけらしい。
魔法の場合、出力は込める魔力量、周波数帯はイメージだ。
短時間でイメージを確立し、大量の魔力量を込めて放出することができれば、大幅に改善されるだろう。
魔力制御のトレーニングを継続し、イメージも固定化できるくらいに練習することにしよう。
◇◆◇
さて、ここまで調べてきて不思議に思うところが出てきた。
それは、魔素について。
いったい魔素とは何なのだろう?
魔物の身体は魔素で構成されているのに、脳や心臓などの体内器官、血液などが再現されているとミミルは言っていた。
実際に斬りつければ魔物は血を流すし、電磁波で脳を焼くこともできる。
魔素で身体が構成されているのではなく、魔素が再現した生き物というのが正しいのだろう。
そして、魔物がダンジョン内で死亡すると、魔素へと還元されて霧散する。
ミミルとの会話方法の限界から生まれる齟齬なのだろう。仕方ない。
俺やミミルのようなダンジョン外から来た生物にとっては、魔素は体内にとりこむと魔力になる。ダンジョン内では魔素を元に魔物が作られる。
小川や草木、カミツキネズミから出た大粒の砂金など、ダンジョン内で生成されるものは他にもあった。
地球の科学レベルでは解明できない何か……そう言ってしまえば簡単だが、それがわかればダンジョン攻略も楽になるかもしれない。
ミミルに確認したいところだが、彼女が暮らしていた世界では原子や分子などという化学や物理学のようなものが発展していないのだから、「わからない」とか「そういうもの」と返ってくる気がする。
それに、逆に質問されることが増えそうだ。
このあと原子や分子、電磁波、音とは何か、超音波とは……等々、いろいろと尋ねられることは間違いない。そこに魔素のことが絡んだら俺もわけがわからなくなる。
やっぱり止めておこう。
いや、待てよ……ダンジョンの中で死亡したらどうなるんだ?
もしかすると、そもそも実態がある俺たちも魔素に還元されて霧散するというのだろうか?
これはミミルに確認するべき事項だな。
◇◆◇
ミミルが風呂から出てきた。
相変わらず長風呂だ……猫型ロボットのアニメに出てくるヒロイン少女を思い出すよ。
さて、俺も風呂に入って、もう一度「チンする」の意味を教えなきゃな。
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