第35話

 そういえば、ミミルのスキルとか何も知らないんだが、見せてくれと言って見せてもらえるものなのだろうか?

 まぁ、お願いしてみて、駄目ならはっきりと言ってくるだろう。


「なぁ、ミミルのカードは見せてもらえるのか?」

『カード、みる、ない、いい。みる、できる。みる、むだ』


 俺は顎に手を当てて考える。


 えっと、カードは見ない方がいい。見ることはできるけど、見ないほうがいい?


 ということでいいのだろうか。見ない方がいいというのは、何か理由があるんだろうな。

 たとえば、俺が酷くショックを受けるとか……って何にショックを受けるというんだ?

 あまりの実力の違いに……というなら、既にしっかりと感じている。

 音がしないが、衝撃波が出るほどの速度で打ち出される魔力。数匹のソウゲンアリの足を一瞬で切り落とした何かの魔法……あんなのを見ていたら、とても離れたところにいらっしゃるお方だってことくらいすぐわかる。

 だいたい、年齢の時点で九〇歳以上離れているんだから、練度が違うだろう。


 じゃぁ、どうして見ない方がいいのだろう。

 なんか、気になる。


「理由は?」

『よめる、ない』


 俺のカードは日本語で表示されたんだが、ミミルのカードは日本語で表示されないということか。どういうことだろう……。


『かーど、ことば、ふたつ。つくる、いしき、ことば。きょうつう、ことば』

「共通の言葉と、作る人の意識した言葉で作られるってことか?」

『ん、そのとおり』


 俺のカードは日本語と共通語としての異世界語で作られる。

 ミミルのカードは最初から共通語である異世界語で作られているから、日本語で表示されないのか……だったら仕方ないな。


「そっか、じゃあ仕方ないな……」

『ん――』


 俺が納得した顔をしているので安心したのか、ミミルも頬を緩めて微笑んで見せる。

 とてもかわいい。かわいいよ……九二歳も年上だけど……。


「じゃあ、草取りにいくぞー」

『くさ、いく!』


 二人で右手を突き上げているが、ミミルの方はただの見様見真似だよな。

 でも、なんかノリノリな感じがして楽しくなってくる。

 この広い草原に俺たち二人しかいないのに、テンションが上がる。これがダンジョンの醍醐味というやつだな。


 これまでどおり、ミミルについて行くかたちで布地の素材になる草を取りに進む。

 小川を渡ってからオカクラゲやツノウサギを見かけなくなったが、相変わらずスライムだけはよく探知に引っかかる。動きや大きさですぐに判るんだよな。


 三十分ほど歩いただろうか……遠くに森のようなものが見えてきた。

 途中でまたソウゲンオオカミに遭遇したが、ミミルとの連携で瞬殺だ。


「森だ……草以外のものを見るのは久しぶりな気がする」

『さか、のぼる。いりぐち、くさ』


 ミミルが言うとおり、ここからは少し上り坂になっているようだ。

 斜面に目的の草が生えているのだろう。さて、どんな草なのか……。



 二十分ほど歩いたところで、またソウゲンオオカミの反応があった。

 今度は七匹――ソウゲンオオカミの群れだ。


『たんち、つづける。かくれる、いる』


 習性的に、何頭かに分かれて襲ってくる可能性があるのだろう。集団行動する肉食系動物だったら、そのとおりだろうな。


「わかった。いまはいない。正面の七頭だけだ」


 犬が嫌う周波数というのがあるはずだが、どれくらいなのかわからない。

 もし、同時に何匹も襲いかかってきたらそれで怯ませることぐらいできれば、充分な時間稼ぎができるのだが、非常に残念だ。

 とりあえず、あのオオカミたちの移動速度を考えると、五〇メートルは五秒くらい。余裕をもって対処するには二秒に一回は探知をしたいところだ。疲れそうだが仕方がない。


 もう探知専用要員だな、今回は……。


 二度目の音波探知をかける。


 特に変化はない、七匹のソウゲンオオカミがいる場所まで約四七メートル。

 音を立てないように、前に進む。

 ここでまた、音波探知……約四四メートル。


 目に入るのは二頭のソウゲンオオカミ。残りの四頭は伏せている。帰ってくる音波から読み取れる姿勢と同じだ。

 既にこちらには気づいているようで、明らかに俺の方をジッと見つめている。

 気がついているはずなのに、まだ何も動きがない……圧倒的な数の有利さに余裕を見せているのだろうか。


 残り二八メートルまで近づいた。

 音波探知にはやはり前方の七頭しか反応しない。

 左右、後方にいてもこれだけの距離差ができてしまえば、オオカミ側の挟撃はほとんど意味をなさない。

 それに、音波探知をかけるとピクリと何かに反応しているのが見える。


 そういえば、人間が聞こえる音の周波数は二〇ヘルツから二万ヘルツの間とされているが、犬はその倍以上――約五万ヘルツくらいまで聞こえるはずだ。

 俺は音波探知をするときに普通には聞こえない音とイメージして出力していたのだが、自分自身にはその音の大きさがわからない。反射音を聞くために無意識に大きな音を出していた可能性がある。


 ということは……

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