ミミル視点 第27話(下)
料理のことについては本当に満足している。
最初は異世界の料理など食えたものではないだろうと思っていたが、エルムヘイムよりも洗練されていて、盛り付けも美しく、素材の風味を生かした簡素な料理は素晴らしかった。
また、香辛料と調味料で漬け込んで衣をつけて油で揚げたあの鳥の料理やトンカツも美味かったし、今朝食べた〝ホットケーキ〟も美味しかった。
この世界にいても、しょーへいの家で世話になっている間は食べ物のことで困ることはないだろう。何しろ、飲食店をする予定なのだ。余った食材などを使っただけでも料理技能を持つしょーへいなら間違いなく美味いものを作るはずだ。
ただ、私としては不満に思っていることがまだたくさんある。
「しょーへいに頼みがある。この世界のことをもっと教えて欲しい」
『ん、ごはん、たべる。だんじょん、はなす』
「おう、それがいい。最良の選択だ」
何しろダンジョン第一層は時間が過ぎるのが遅いからな。
この世界との時間差はわからんが、知りたいことをしっかりと教わることができるだろう。
となると――。
「食事は二回分は必要だ。ダンジョンの中は時間経過が違うからな」
『――ん?』
なんだ、鈍い男だな。昨日、この世界と第一層では時間経過が違うことに気づいたのではないのか。
しようがないやつだな……。
「ダンジョンの中はこの世界と比べて時間が過ぎるのが遅い。少なくとも二回分の食事を用意しておくべきだ」
しょーへいは少し考えて気がついたようだ。
『ん、ベントウかう。カップメン、かう。あさごはん、じゅんび、かう』
――ん?
そのベントウやカップメンとはなんだ?
それに、朝ごはんの準備ということは、明日はしょーへいが作ってくれるのか?
どんな料理がでてくるか楽しみだな。
◇◆◇
しょーへいに連れられてやってきたのは肉とタマネギを煮た少し甘い匂いが漂う店だ。
そこでしょーへいはまた給仕係らしき女に話しかけている。
注文をするために話しかけているのが見てわかるな。
それに、この女はなぜか私から見れば好感度が高い。なぜなのかはわからんのだが、仲間意識のようなものを持ってしまう。
なぜだ?
身長は私よりも明らかに高いし、エルムヘイム人のように金色の髪をしているわけではない。
――ハッ!
わかったぞ――この女は同志だ。
この世界の成人した女どもは尻が大きく、胸に無駄な――あくまでも私の個人的な見解だ――脂肪がついているが、この女の胸元は非常に慎ましい。
残念なことに尻は大きいのだが、この胸元だけでも同志と呼ぶ価値がある。
同志は注文を聞いてから大きな声で厨房に注文内容を伝えると、テキパキと袋を用意している。なかなか仕事もできるようだ。
暫く待っていると、同志が料理を袋に詰めて運んできた。
できたてで熱々の料理を何かの容器に詰めて持ち帰る――それをベントウと呼ぶのだな。
今後も美味いものを見つけたらしょーへいにベントウにしてもらおう。私の空間収納に入れてしまえば、ダンジョンで食べるときも熱々だからな。
そうだ、今日食べたトンカツなども弁当にしてもらうのも良いだろうな。今度は柔らかい方を食べさせてもうことにしよう。
フフ……楽しみだ。
では、同志よ。また会おう!
手を振ったら振り返してくれたぞ。やはり我らには心通ずるものがあるのだな――。
◇◆◇
次に連れてこられた場所は何やらとても明るい店だ。白を基調とした壁は清潔感があっていい。
店内に並んでいる商品は本当に様々なものがある。
たとえばパン
なぜ
陳列されているものを一つ手に取ってみたのだが、驚くほどふわふわと柔らかい。
エルムヘイムの表面の九割は海なのだから、塩には困らない。
そして、ダンジョンで採集した小麦を粉にしてパンを作る。
だが、この世界のパンのように柔らかく仕上がらないのだ。
だからパンと言えば硬くて平べったいものになってしまう。
乾燥しているので日持ちするのが良いところだが、スープに浸して食べなければ食べられないほど硬いのが一番の難点だ。
一方、この世界のパン
パンの表面に白い粉――恐らく砂糖をふんだんにふりかけた贅沢な一品や、腸詰め肉をパン生地に乗せて何かを掛けて焼いたもの、焼いたのではなく揚げたものもある。
どんな味がするんだろう……。
気になる。気になるのだが、さっき〝べんとう〟を買ったばかりだ。いくら空間収納に仕舞えるからと言っても、あれもこれもと強請るのは強欲というものだろう。
事実、しょーへいはこの世界の通貨を使って買い物をしているはずだ。
そのことを考えると、しょーへいにこれ以上負担をかけるわけには……。
でも三個くらいなら大丈夫だろう。
よそ見をしているうちにカゴの中へそっと入れておこう――。
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