第24話
店を出て日陰を選んで歩く。
とはいえ、時間はお昼時。ほぼ真上から照りつけるような日差しなので、なかなか隠れられるような場所がない。
ミミルは眩しそうに目を細めながら歩いているが、額に翳す手も直射日光に晒されていることになる。夏場の暑い時期だと、肌がジリジリと音を立てているかと思うくらい痛いときがあるが、いまのミミルは同じように感じているのだろうか?
もしそうであれば、早くアーケードや建物の中に入ったほうがいい。
――ん?
よく考えると、太陽光線、紫外線、赤外線……全部電磁波なんだよな。
俺のスキルなのか魔法なのかはわからないが、波操作(電磁波)でなんとかできるんじゃないか?
試してみよう。
紫外線として届く電磁波の波長を捉え、先ず俺だけに可視化する。即ち、波操作の力で波長を強制的に可視光線へ変更する。
燦々と降り注ぐ紫外線、建物などから反射する紫外線もすべて可視化されると目を細めていないとかなり眩しい。
ミミルにも紫外線が降り注いでいて、白い肌に反射して発光しているようにしか見えない。
この可視化された紫外線がミミルの身体に届かないようにするにはどうすればいいかだな。
音波の場合は逆の波長を当てて、雑音を消し去るノイズキャンセリング技術があるけど、紫外線も逆の波長を当てると消えたりするんだろうか?
そのためには、ミミルの身体が紫外線発光することになるのか……却下だな。
紫外線に弱い肌と瞳をしているというのに、自ら紫外線を発生させてどうするんだって話だ。
となると、いまやっているようにミミルの周囲だけ、紫外線の波長を他の波長へ強制変更する方法になるか。
もちろん、変更先の波長が可視光線だと意味がない。発光生命体になってしまうからな。
では、不可視光線に……エックス線やガンマ線って、被爆だよな。これもあかん。
もう紫外線を反射するしかない気がする。
例えば、体表を覆う、紫外線を反射する膜をつくるという方法になるだろうか。
それって、波操作じゃなくないか?
「うーん……」
つい声に出てしまった。
賢しいミミルがすぐに反応する。
『なやみ?』
「難しいことを考え過ぎただけだ。だいじょうぶ」
斜め下から見上げてくるミミルに、笑顔で答えておく。
たとえば防御魔法のようなものがあって、そこに紫外線に対する知識が加われば、それで対策できるかもしれない。恐らく、ミミルは〝賢き者〟という名がつくほど魔法に関する知識があるのだと考えられる。紫外線に関する知識を教えれば、自分で対策できるようになるんじゃないだろうか。
でも、その前に普通に会話できるようにならないといけないな。
「あれなに?」
早速、教えた言葉をつかってミミルが尋ねてくる。
思った通り、指さしているのは白い色をした、いかにも営業用といった感じの乗用車だ。もちろん、通り過ぎるときにドアのところに社名や自社製品の名前がデカデカとプリントされているのも見える。
「あれは自動車。いろんな形があるんだ。あれは、ライトバン」
『うま、いない、うごく?』
ここで説明しても、事情を知らない人から見れば独り言にしか見えないだろう。
幸いにも周囲に人がいないので答えることにするが、外出中はいつでもどこでも答えられるというわけにはいきそうにない。
「ガソリンという、油を使って動いているんだ。どうやって動いているかは帰ってからな」
『ん――』
やはり、自動車に興味が向くよな。
その後もトラックや軽自動車、スポーツタイプの乗用車などが通る度に不思議そうに眺めていたが、〝いろんな形がある〟と言ったのが効いたのだろう……特に尋ねられることはなかった。
次に目に入ったのは自転車だ。俗にいうママチャリ。
「あれなに?」
「あれは自転車。あれにもいろんな形がある」
『ひと、ちから?』
脚で踏んで動かすので人力なんだが、最近では電動アシスト自転車がかなり増えている。
では電動アシスト自転車とは……上手く説明できる気がしない。
だいたい、電気、電力についてもまだ説明していないので、そこからになると面倒だ。
「そうだ」
簡単に答えておくことにした。
電動アシスト付自転車のことは、また尋ねられたら教えよう。最近はロードバイクも増えているけど、そこはたぶん自動車と同じように〝いろんな形〟で理解してくれることを祈ろう。
「これなに?」
パシッと空いた左手でミミルが電柱を叩いた。
手で叩いたくらいで壊れたり倒れたりしないのは見てわかるが、魔法だとか俺たち地球人から見れば埒外の力を持っている可能性があることを考えると少し心配になる。
「電信柱、電柱……電柱でいいかな。電気や電話などを配線するために作られたものなんだが……」
やはり電気や電話などの意味がわかるわけもないか……。
特に洗濯機は電気で動くと教えているので、そろそろ電気のことも教えることにしよう。どうやって教えればいいかは思いつかないが、いまミミルに言えるのは一つだけだ。
「家に帰ったら教えるよ……」
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