ミミル視点 第8話
手早く設定を変更すると、私はまたダンジョンの出入口部屋へと移動し、すぐに穴の外に出た。
そこに、しょーへいの姿はなかったのだが、すぐに建物の中から現れた。
「ついでに洗濯もしていいか?」
数日分の洗濯物が溜まっている。空間庫の中は時間が停止するとはいえ、さすがに数日そのままにしておくのは気分がいいものではない。
『いい。つかう、わかる?』
長い間生きているのだから、洗濯石の使い方くらいは知っている。もちろん、石鹸もだ。
洗濯ができる共同施設でもあるのだろうか?
「洗濯は風呂場でするのだろう。違うのか?」
『て、あらう?』
「手はもちろん洗うが……」
ん? 私は誂われているのか?
じとりとしょーへいを見つめてみると、不思議そうに私を見下ろしている。
どうも、また変に翻訳されたのだろう。
「手で洗う以外に方法はないだろう」
『ぬの、センタクキ、つかう。くつ、ぬぐ』
なんだ、そのセンタクキとは……。
言われたとおりに靴を脱いた。しょーへいも履物を脱いでいたところを見ると、ここは土足で歩いてはいけない場所なのだろう。
しばらくブーツを履いたままの生活をしていたから、素足に近い格好はとても気持ちいい。
しょーへいが、四角い箱の前に立って話し出す。
『ふく、これ、いれる。これ、おす、おわる』
「何だと!」
終わるというのは、水で濡らし、石鹸をつけてゴシゴシと揉んで、また水で濯ぎ、干してくれるという意味か?
服とその手に持っているものを入れて、しょーへいが言った場所を押せばそれで?
ど、どこまで信じればいい……。
そのとき、しょーへいが箱の正面にある丸い部分を押すと、ガチャリと音を立てて大きな丸い扉が開いた。
『ふく、いれる。せっけん、いれた』
服を入れろと言われても、下着もあるのだ。
たとえ異世界人といっても、男に使用済みの下着を見られたいと思う女はおらんだろうに……。
「センタクキとやらは、どのようにして動くのだ?」
『デンキ、うごく。さき、ふろ、おしえる』
「デンキとは……」
何なのだろう……。
私が少し呆然としている間に、しょーへいは浴室に入っていた。
変わった容器に入ったものを持って、こちらに見せる。
『かみ、せっけん』
実際に頭を洗うフリをしてくれるのでよく解る。
意外と気が利くではないか。
『せっけん、ながす。せっけん、あと、つかう』
同じような容器に入ったものを持って説明されても違いが判りにくいな。
しょーへいが使い方を教えてくれるので、使い方については問題ないだろう。
「その中身はどう違うのだ?」
『かみ、あらう、せっけん。せっけん、ながす』
いまひとつよく解らんが、中身は違うし、容器に書かれた文字のようなものも違う。
よく見て覚えるしかなかろう。
『これ、からだ、せっけん。えきたい、せっけん』
「液体の石鹸か――初めてみるな」
この世界では風呂用品だけでも三種類あるということか。
先ほどのセンタクキといい、髪用の石鹸、液体石鹸といい――この世界の生活はエルムヘイムよりも進んでいるのではないだろうか……。
『ここ、ひねる、おゆ、でる。かみ、あらう、からだ、あらう。
これ、ふく』
ふむ……理解した。
それにしても、魔素がない世界なのに捻るだけでお湯が出るとは、どういうことだろう。
『しつもん?』
それぞれの仕組みだとか、魔石は何個使ってどんな術式を組み込んでいるのかとか――教えて欲しいことはいっぱいあるが――
「いまは、ない」
そう返事すると、しょーへいは少し安心したように頬を緩めた。
やはり話が正しく伝わるか、彼も心配しているのだろう。
『ふく、いれる。ふた、しめる。ここ、おす。いい?』
「入れて閉める……ここを押す……」
『ゆっくり、いい』
しょーへいは最後にそう言い残して浴室を出ていった。
私はしょーへいに言われたとおり、洗濯したい服や脱いだ服、下着を四角いセンタクキに入れて扉を閉め、言われた場所を押した。
するとセンタクキの中に水が流れ込み、音を立てて中の桶のようなものが回り始める。
扉が透明なのでしばらく眺めていたが、やがて泡だらけになって中身が見えなくなった。
そのとき、軽快な音楽が鳴り女の声が聞こえ、浴室から聞こえていた湯が流れる音が止まった。
風呂まで勝手に湯張りしてくれるとは、やはりこの世界の方が文明的に進んでいるのかも知れない……。
浴室に入り、しょーへいに言われたところを持って捻ると、頭の上から雨のようにお湯が降ってきた。よく見ると、管がつながっていて、その先端部分が頭の上に置いてあったようだ。
最初に髪を濡らし、そこに髪用石鹸を手に取り、泡立てて頭皮を洗うようにして髪を洗う。
この石鹸、とてもいい匂いがする。
それに、ここ数日は髪を洗っていないのにとても泡立ちがいい。癖になりそうだ。
お湯で髪についた石鹸を丁寧に洗い流すと、次はこの「石鹸を流すもの」の出番だ。
こちらは泡が立たないが、ねっとりとした触感で髪に塗りやすい。
両手で丁寧に塗りつけたら、すぐにまたお湯で洗い流した。
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