ミミル視点 第6話
しょーへいは後頭部を掻きながらどこか申し訳無さそうに述べる。
『ごめんなさい。じゅう、じゅういち、みえた』
「子どもではないわ! どうみても大人だろうが!」
くっ……そこまで極端に子どもと思われていたとは驚きだ。
だから親はどこだなどと聞いてきたのだな。
『とし、ねんれい?』
しょーへいが繰り返し尋ねてくる。
だが、そこまで子ども扱いされていたとわかると、なんだかとても腹が立つ。
おっと、つい頬を膨らませてしまった……悪い癖だ。
「ひ、ひ……百、二十八歳だ!」
『ほ、ほんとう?』
どうだ、驚いたか?
おまえよりも私は何歳年上だ?
ただ、見た目の年齢が変わらないのは仕方がないことなのだ。
私が最初にダンジョンに入ったのは十一歳の頃。
その時から私の成長は止まっていると言ってもいい。確かに見た目の年齢は当時のままだ。
エルムヘイムでは、ダンジョンができる前と比べ人々が長命になったとも言われている。
文献を見ると、ダンジョンができる前は精々百二十歳くらいが限界だったそうだが、いまでは平均寿命が五倍の六百歳にまで伸びている。
その代わり、ダンジョンに入っていると子どもができにくい。
胎児を含め、小さな生物はダンジョンの膨大な魔素を取り込むと、身体が耐えられないのだ。
そのため、子づくりをするには数ヶ月間、夫婦でダンジョンへの侵入を諦めねばならないし、妊婦は出産するまでダンジョンに入ることが許されない。
脱線したが、本格的に対話する必要がある。
私は頭を覆っていたフードを右手で後ろに抜いだ。
ちゃんと話をしようというのに、フードを被ったままというのは失礼だからな。
って、おい!
人の耳をジロジロと見るんじゃない!
恥ずかしいではないか……。
『しゅぞく、〝エルフ〟……ちがう?』
とてもキラキラと目を輝かせてしょーへいが私の顔を覗き込む。
そんな種族は知らんな。
我々はエルムヘイム人であって、エルムでもない。ただ、私と妹のフレイヤは特殊な血が流れているとは聞いている。
先祖代々続いてきた純粋なエルムヘイム人の血だ。
「エルフ? そんな種族は知らない。私は異世界のエルムヘイム人だ」
こ、こらっ!
人の耳をジロジロと観察するように見るんじゃない!
この耳は見せものじゃないんだからな。
我ら、エルムヘイム人のエルムヘイム人たるゆえんなのだから、触らせもしないし――ああもうっ、それ以上近づくんじゃない!
『みみ、とがる、そうぞう、しゅぞく……〝エルフ〟」
「想像上の……」
耳が尖っているのはエルムヘイム人の特徴だ。
この異世界人たちの間に、エルムヘイム人の特徴を持つ者と以前接触した者がいるのだろう。
既にエルムヘイムには数千年前の過ちで様々な種族が住み着いてしまっている。その中の種族の中でしょーへいに最も近い外観としては、やはり巨人族かルマン族だろうが……。
ただ、ルマン族は顔の彫りが深い。
脚もすらりと長いし、髪色は金髪または茶系の色をしている。
ルマン族の平均的な身長は一九〇センチ、巨人族は二四〇センチ程度のはず……。
対して、しょーへいはどうか。
身長は一八〇センチ程度――ルマン族より少し低い。
髪色は艶のある黒で、身長に対して脚は短い……。
エルムヘイムでは猿人族の一部に黒髪の者がいるが、奴らは肩幅が広く、腕が長い。それに、極端に脚が短いので似ているとは言えないな。
そして顔の彫りは薄く、平べったい顔をしている。
種族的に近いのはルマン族かも知れないが、共通点は少ない。
一瞬、数千年前にこの世界にもダンジョンが繋がっていたのかと考えてしまったが、考えすぎなのかも知れない。
ただ、まだ否定するまでには至らないか……。
『あな、もどす、できる?』
「出口は固定されている。変更は不可能だ」
しょーへいは穴を戻してほしいのだろうな……だが、出口を固定してしまったので無理だ。
「ノワドッチ!」
突然、しょーへいが大きな声を出した。
頭の中には「なにっ!?」という言葉が流れてきたが、大きな声に思わずビクリと跳ね上がりそうになり、一歩だけ後ずさってしまった。
この世界の男も何か気に食わないことがあれば大声で
見るからに開業前の店に、突然穴を開けられたうえに、それを戻せないと言われたのだから怒るのも仕方がないな。
『ごめん。でぐち、いみ?』
眉を八の字にして、少し顔を引きつらせているところを見ると、しょーへいは私を驚かせてしまい焦っているようだな。
まぁ、それだけ私のことを気遣ってくれているのだろう。
さて、出口の意味を教えて欲しいということのようだが……出口は出口。
となると、ダンジョンのことから教える必要がありそうだ。
「わかりやすく説明するために整理する。少し待て」
私はいつものようにおとがいに人さし指をあてて、ぼんやりとした視線で宙を見つめ、頭の中を整理することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます