第84話最高に幸せそうだった5
そして水樹が意を結した表情で何かを話そうとしているのがわかった。
正直言って聞きたくなかったし、時間が止まってほしかった。
しかし、時間が止まるわけもなく、無情にも刻一刻と進んでいく。
「美奈子──」
ああ、ここまでか。
私いしては出来過ぎなくらい出来過ぎた彼氏で、言葉では言い表せないほど幸せな日々であった。
恐らく、水樹と過ごした日々以上に幸せな日々は、私の人生にはもう来ないだろう。
その、幸せな日々が、今日で終わるのだ。
「──今までまたせてすまなかった。 でもここ最近はようやっと仕事も慣れてきて、部下もでき、小さいながらも肩書きもついたし、そろそろ頃合いかなとようやっと決心することができた。 俺と、結婚してくださいっ!!」
そして水樹は懐から黒い小さな箱を出し、中身が私に見えるように取り出すと、そこには指輪が入っていた。
「……………………………………………………へ?」
はっきりって水樹の言葉を理解するのにかなりの時間がかかっしまった。
初めの方は本気で何を言っているのか理解できず、水樹がまるで宇宙人の言語を喋っているかのような錯覚に陥ってしまい、呆けた声が私の口から漏れ出てしまうも、徐々に水樹が言った言葉の意味を理解していくにつれて、今まで悲しかった感情が反転していき、嬉しさへと変わっていくと同時に、涙の意味も悲し涙から嬉し涙へと変わっていく。
「だめかな?」
そして、一向に返事をする事なくずっと泣き続き続けている私に少しだけ不安になったのか、水樹が返事の催促をしてくる。
返事の言葉などとうに決まっているのだが、感情が爆発してしまい、たった一言返すだけなのに頭の中が纏まらず、その二文字の言葉を言う事ができない代わりに私は激しく何度も首を縦に振る。
「はい、よろしく願いしますっ。 で、でも水樹は本当に私なんかで良かったの?」
すこし時間が経つと感情もほんの少しではあるものの収まってきたので、私は水樹へ今度は口で返事をした後、本当に私で良いのかと、問い返す。
「ああ。 むしろ美奈子しか考えられないし、美奈子以上愛する事ができる女性に会える事はもう一生ないだろうと確信を持って言えるし、残りの人生を美奈子の隣で過ごしていきたいと本気で思えた。 だから、美奈子と結婚という判断をした」
「わ、私もっ!! 私も水樹以外あり得ないっ!! 大好きっ!! 愛してるっ!! うぅう〜っ。 振られるかと思って怖かったよぉ〜っ!!」
「何でだよっ? まぁ、それ込みで、遅くなってごめんな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます