第10話

前回の続きで短いです。もう少しで一区切り。


――――――――――――――――――――――――


 隣の幼馴染さんが何を考えているのかが、まるでわからん。


「…………今日は楽しかったか?」


 とはいえ、こうしていてもらちが明かない。サトルへの義理を果たす意味でも、当たり障りのない話題を切り出した。


「そう、ね。楽しかったわ」

「そりゃよかった。なんなら、また行くか」

「え、っと………………」


 時雨沢は一瞬だけ悩んで、


「やめておくわ」


 そう結論付けたらしい。やはり本の虫だった。

 ゲームよりも本。勉強よりも本。運動よりも本。他人よりも本。

 中学で本の魅力にでも気が付いて、ドはまりでもしたのかもしれない。

 結果、ぼっち化が進行、今に至る、と。

 あら不思議、今の時雨沢を見ていると、ありえそうで怖い。


 そうこう話していると、住宅街を抜けて、車の多い通りへと出る。

 中高生の帰宅ラッシュか、人の通りもそこそこで、それを避けて自然と時雨沢の反対側へと回る俺。

 けたたましいエンジン音を響かせて、通り過ぎていく車やバイクもちらほらと。

 治安悪すぎだろ、うるせえ。


「今日は、どうして私を誘ったのかしら」


 と、時雨沢。

 横目を向けると、歩きながらもじっとこちらを見る二つの瞳。前を向け、前を。


「えーっと」


 事実を言えば、サトルの恋愛病を治すためだったのだけれど、そんなことを言えるはずもなく。

 どう答えたものかと迷っていると、


「…………もしかして、神殿君に何か言われた?」


 時雨沢が核心をつつくようなことをほざいた。

 え、君ってエスパーか何か?


「何かってなんだよ」

「そこまでは分からないけれど」

「そ、そうか?」


 その内容までは把握していないらしく、内心で安心する俺。

 時雨沢は一泊置いて、続ける。


「神殿君が、何かをしようとしているような、気がしただけ」

「ははは………ナンノコトカナー」


 ここ1時間ちょっとくらいで、誤魔化すことに関して、俺はクソオブクソだと判明してしまった。

 隠し事ができないって素晴らしいことだよ?

 しない、のではなくて、できない、と言うのがキーマン。


「もしかして、杉ヶ町君も噛んでるんじゃないの?」

「そ、そんなわけないだろ? サトルが何しようとしてるかなんて、俺が知るわけない」

「……………本当に?」

「嘘ついてどうすんだよ」


 思いっきり嘘である。

 だが許せ、時雨沢。俺はユウジョウを大切にする男。いくら恋愛病治療が目的だとしても、人の秘密をバラしたりはしない。

 ただ、隠し事は苦手と判明しているので、硬く硬く、お口チャック。


「杉ヶ町君が言いたくないのなら、いいのだけれど」


 時雨沢はそう言って、歩く速度を段々と落としていった。

 やがて完全に足音が聞こえなくなると、俺は数歩進んで、振り返る。


「時雨沢?」


 問いかける俺。

 時雨沢は視線を落として、そのまま泳がせて、立ち尽くす。

 口を開いては、閉じて。開いては、閉じる。

 そんなことを何度か繰り返した後、睨むように俺の顔を見据えると、


「あまり驚かないで聞いてほしいのだけれど」


 そう前置きをして、


「私、杉ヶ町君のことが、好き」


 一泊置いて。


「…………なのかもしれないわ」


 ―――――告白なのかどうかわからないような文言を、吐き出した。


「………………………」


 本当なら、ビショウジョに告白されたと、飛んで喜ぶべきなのかもしれない。

 あるいは、からかうなよと、一笑に付すだろうか。


 けれども、恋愛病を克服した俺には、それがその初期症状だとわかる。


 俺に対する好意を――――、否。


 ―――――あの子は綾鷹君を信用しているから


 ………信用を、恋心だと勘違いする寸前の状態だろうと理解した。


 理解して。

 納得させて。

 そして――――、すっきりしたような気分だった。


 頭の中で燻っていた疑問と疑惑が、一瞬にして解けていくのがわかる。

 考えてみればおかしいことだらけで、なぜ今まで気づかなかったのかと思うほどだ。


「あの野郎………」


 小さく呟いた後、呆れと怒りで口端がひくひくと痙攣するのがわかった。


「えっと、その、杉ヶ町君?」


 自らの胸の前に緩い拳を置いて、不安そうにする時雨沢。

 それを見て、ハッとする俺。

 そりゃあ、告白モドキをした相手に、苦笑いともとれるような顔を見せられたら、そうもなるか。


「悪い、ちょっと用事ができた。もう家はすぐそこだし、一人で帰れるよな?」

「え? え?」

「すまん。でも、直接話したいことなんだ」


 ぽかんとする時雨沢を置いて、俺はスマホを片手に、来た道を引き返す。

 唯一にして無二の親友。

 お人好しでリア充イケメンクソ野郎の神殿悟君。

 ちょっとお話しようね?

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