貴族のいじめの作法、骨の髄まで教えて差し上げますわ

@zanei13

第1話 プロローグ:よくある断罪劇の始まり?

「エリシャ・グラッティ!今、この時を持って私は貴様との婚約を破棄する!」


皆様、始めまして、ごきげんよう。只今、国王陛下の誕生日パーティの前座であるにも関わらず大声を上げておられるのはアルフレッド・セニア第2王子殿下で御座います。あんなにも公式の場で声を張り上げて…品が有りませんわね。もうすぐ陛下が入場される時間ですが、一体誰の為のパーティだと思っていらっしゃるのかしら。



全く、殿下の浅慮には困ってしまいます。学園であれだけ目立っておいて、どうしてわたくしは何も対策をしていないと思っているのかしら。もしくはそれを通せると思ってしまっているのか。茶番に付き合わされるこっちの身にもなって欲しいものです。



もう3年にもなるのかしら。殿下は学院に入学するとすぐに男爵家の娘と秘密の逢瀬を重ねるようなりました。……本人たちは隠しているつもりだったのでしょうが、人の目は何処にでもありますし、そもそも隠していたのかというレベルです。恋愛脳というものは恐ろしいですね。全く、いくら私とは政略結婚だと分かっていても公式の場での役割くらいはちゃんとして欲しいものです。今日のパーティも本来は婚約者である私を会場までエスコートしなければなりませんのに。今日も殿下は我が家に来られませんでした。毎回ながら、怒り心頭の使用人たちを宥めるのが大変でしたのよ?




「おい、聞いているのか!」



意に介さず、その場から動かないわたくしに業を煮やしたのか、強引に掴み掛かってきた殿方が現れました。アルフレッド殿下の取り巻きの一人で、王立騎士団1軍の騎士団長を父に持つグエル・マッカーソン騎士補です。一応、殿下の近衛候補らしいのですが癇癪持ちで何でも力技で解決しようとするきらいがあります。最近は殿下の取り巻きの一人となり、我が物顔で傲慢に振る舞っているとかで周囲から煙たがられていて相当手を焼いているとか。本人も殿下や他の近衛候補たちもそれを善しとして聞く耳を持たず、お父上のランドルフ様がいくら言い聞かせても態度を改められないので御実家は弟君が継ぐのだとか。



あらあら、気が短いこと。でも、そんなにも強引だと…

鎮圧されてしまいますが、しょうがないですわよね?



ゴキッ



「ぐああああああ、俺のッ!俺の腕が!」


グエル様の手がわたくしに触れる前に一瞬で私の従者に腕を捻られてしまいました。普段あれだけ鍛えた体を誇示している割に痛みには弱いようで、正直がっかりです。どこまで痛みを我慢できるか試せると思いましたのに。




「…お嬢様に触れるな、クソ野郎」


グエル様を軽々と手玉に取っているアレンがグエル様にドスの効いた声で囁いています。アレンもまだまだですね、声に殺気を隠せていませんでしてよ?それとも、わざとわたくしにも聞こえるように言っているのでしょうか。全く、可愛らしいですわね。わたくしの従者は。




「グエル!?おい、貴様、無礼だぞ!グエルを離せ、このアバズレが!」


わたくし、驚きを隠せません。まさか自分の死刑執行の書類に自分からサインをするような人って実際に居るものなのですね…。しかも、それが自分の伴侶になるかも知れなかった方などと。…殿下、お勉強も学院で下から数えたほうが早いのですのに。空気も読めない上に、目も良く見えておられないのですね。お可哀そうに。しょうがありません、グエル殿の指の2,3本も折って差し上げれば察しの悪い殿下にも状況を分かって頂けるでしょう。




「アレン、」




「これは一体、何の騒ぎだ!」




あらら、残念ですこと。アレンに伝えて実行に移す前に事態が動いてしまいました。

近衛の方が陛下を呼びに行かれたのですね。慌てた様子の陛下が入場されました。

喜ばしい筈のご自分の誕生日ですのに、顔色が真っ青で胃の辺りを抑えてのご入場となりました。陛下の少し後を遅れて、会場にお父様も入ってきました。顔が真っ赤です。憤怒の形相とは此のことでしょう。




「…殿下?今、うちの娘に対し、何と言われたか、いま一度、言って、くださいますかねぇ?」



お父様の方を殿下がギギギと音を立てそうな顔でゆっくりと振り返ります。どうなされたのかしら、先程の物言いとは打って変わって顔が真っ青です。お父様は聞き返しただけですのに。



押し殺した声でお父様が殿下に説明を求めています。殺気が駄々洩れですよ、お父様。あら、珍しい。漏れ出した魔力が周囲に影響を及ぼしています。窓に霜が降りていますわ、全く、いつもの冷静なお父様は何処に行ってしまったのかしら。


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