145話 だからホラーは嫌いだって言ってるじゃないですか! なんですかこの仕打ちは! いじめか!? いじめなのか!? いじめないで!!

「ほんとにびっくりしましたよ。そんなにここの雰囲気にやられてたんですか?」

 

「ハハハ―。……すいません」

 

 あの後俺とレイはその場から追い出され、なんとかショーは再開し先ほど終幕したわけだが、その後俺は侍と忍者からひどく怒られることとなった。

 まあ当然だし出禁にならなかっただけましだとは思うけど。

 

 本当に申し訳なさと大人になってから初めてといっていいくらいしっかりと怒られたことで、完全に委縮してしまった。

 そして後輩の元に戻ってきてこの言われようである。

 レイは俺の後ろにぴったりとくっついてきており、離れようとしない。

 

「先輩のこと変だとは思ってましたけど、まさかここまで変人だったとは」

 

 お前だけには言われたくないとは思うけど、今この場では完全に俺の方が変人だから返す言葉もない。

 

「まあいいです。この後も回れるんですよね? しっかり謝ったんですよね?」


「もちろん」

 

「オッケーです。じゃあお化け屋敷に行きますか」

 

「……ん?」

 

「え? お化け屋敷。行くでしょ?」

「行かないよ?」

 

 なに当たり前みたいに言ってんの。

 え、俺への罰ゲームか何か?

 

「映画村のお化け屋敷って結構怖いって有名なんですよ」

 

 いらないよ。その情報。

 その情報を俺に教えれば「じゃあ行こう!」ってなると思ったの?

 

「行かないと後悔すると思うんですよねー」

 

 行った方が後悔するよ。

 悪かったって。ショーの乱入しちゃったのは悪かったよ。

 周りから見たらただの変な乱入者だろうし、それはしょうがないとはいえ反省してるからさ。

 

「あれ、もしかして先輩。お化け屋敷怖い系の人ですか?」

 

「そうだよ、怖いよ。だから行かないよ」

 

「あら素直。そっかー残念だなあ。行きたかったなあ」

 

 別に怖いことは否定しないし、行きたいなら一人で行けばいいじゃん。

 俺はレイと一緒に出口で待っててあげるからさ。

 優しいでしょ。先に帰るんじゃなくて出口で待ってあげてるんだから超優しいじゃん。

 

「あれもしかして先輩、幽霊とかも怖いたちですか?」

「そうだ」

「怖いの?」

 

「…………」

 

「先輩?」

 

 即答しようとしたらレイが回り込んでこっち見てきた。

 それはずるい。上目遣いでこっち見てくるのはずるいよ。

 

 さっきの怖さが残っているのかちょっと目が潤んでるのもずるい。

 もう何もかもがずるいよ。反則だよ。

 

「……怖くない。むしろ好き」

 

「はあ?」

 

 レイは俺の返答に満足したのか、それとも照れてしまったのか頬を少し赤く染めながら俺の背中の方へとまた隠れてしまった。

 

「じゃあお化け屋敷もいけますよ。一回行ってみましょ。一部例外とか言わずに全幽霊好きになっちゃいましょ」

 

「いかないの?」

 

 だからレイさん、そうやって聞いてくるのはすごくずるいと思うんだ……。

 結局レイの可愛い圧に負けてお化け屋敷に入ることとなった。


 

 お化け屋敷ってさこの雰囲気がもう怖いよね。

 外は普通に昼間ですごく明るくて、楽しい家族の団らんとか見れるのに、このお化け屋敷の空間だけ現実の世界とは別世界に迷い込んだんじゃないかってくらい、陰湿で真っ暗で何か出そうな雰囲気を醸し出してるよね。

 ほんと最初にこの構造を考えた人はすごいよ。尊敬……はしないけど。

 

「先輩、もうちょっとゆっくり歩きましょうよ」

「無理」

 

 俺は後輩のことなど一切気にかけずに早歩きでお化け屋敷の中を進んでいた。

 今のところ怖いのは雰囲気だけで何かが出てきたりはしていないけど、もし何か出てきたら俺は全力疾走でこのお化け屋敷内を駆け回るだろう。

 

 レイは俺の首に掴まってぶら下がっているから俺が走っても問題ない。

 レイはだいぶ落ち着いたのか周りをきょろきょろ見渡して、楽しんでいるようにも見える。

 こういうところ怖くないのかね。

 

「な~に~し~に~き~た~」

 

 はい無理です。ありがとうございました。

 

「ちょっと先輩! 走っちゃだめですよ!」

 

 知らない知らない。無理なもんは無理!

 

 それは唐突だった。

 何も出てこなくて周りの雰囲気にも慣れだしてちょっとゆっくり見てもいいかなと思いだした途端に、真横から何かが話しかけてきた。

 

 それを察知した瞬間に俺の足は勝手に走り出していた。

 今までに出したことのないようなスピードで屋敷の中を走る。

 

「きゃはははは」

 

 レイが俺の耳元で楽しそうに笑ってくれているのが唯一の心の救いだ。

 この声がなければ俺はとっくの昔に失神、いや絶命していただろう。

 ホラー嫌いなめんな。

 

「走るな!!」

「ごめんなさああああああい!!」

 

 今隣に何かいたよね!?

 絶対何かいて注意されたよね?!

 でも振り返る余裕なんてないし足を止めるなんてもってのほかなんですけど!

 俺は出口前の隠しているのであろう回し扉を荒々しく回すと一気に出口へと飛び出す。

 

「はあ……はあ……はあ……」

 

 思わずその場にへたり込んでしまうくらいには全力疾走だったし、何より何も覚えていない。記憶が吹っ飛んでる。自分はなんでこんなところに入ってしまったのだろうか。

 

「さとる、大丈夫?」

 

 あまりにも大層な様子の俺を心配してくれたのか俺の首に掴まっていたレイが、俺の前に立ち頭を撫でてくれた。

 それを見て幾分か落ち着いてくる。

 

「先輩早すぎますよ……。というか幽霊役のスタッフに怒られている成人男性なんて初めて見ましたよ」

 

 よかったね。初めてのものが見れて。

 俺も初めてお化け屋敷に入ってしっかりトラウマ刻まれましたよ。

 

「さとるー。楽しかったー。もう一回行く?」

 

「帰ろう……。もうお家に帰ろう……」

 

 レイから悪魔のような提案をされるが、それにこたえることはできない。

 もう一回行ったら間違いなく失神やら失禁やら人前にはもう立てない体になってしまうに決まっている。

 

「そっか……」

 

 残念そうなところ悪いが本当に帰ろう。

 もう俺の体力は0だ。

 

「ちょっと休憩したら帰りましょうか」

 

 後輩の一言で何とかその場から立つ気力が湧き、なんとか立ち上がると近場の休憩所に向かうのだった。

 もうお化け屋敷は一生行かない。

 レイにどれだけおねだりされてもいかない。……行かない。

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